第210話

 転移は一瞬。

 どういう仕組みなのかは夕彦くんに聞いたことがあるんだけど最初の説明は難しかった。

 時空と距離の歪みがどうのって、私がわからないよーって表情をしていたから簡単な言葉で教えてくれたんだけど。えっと、AとBという場所があったら、その時間と距離を魔素で歪ませてくっつけるだったかな。


 そしてそれを自由自在に操る光里ちゃんと上条さん。夕彦くんと杉原さんも使えるんだけど、複数で使うとどうなるかわからないしバラバラになっても困るから、基本的に転移は光里ちゃんがすることにしている。光里ちゃんが動けないときは上条さんね。

 パーティという括りがどうなっているのかわからないけど私たち八人は「組んだ」という扱いになっているのか、お互いに念話が使える状態になっている。

 これは私のスキルが出てからのことだから仲間の中で誰か一人念話が使えれば良いのかも。


 そして現在、その念話で私たちは会話をしている。

 というのもこの場所には私たち以外にもう一人。邪竜に魔素を注ぎ込んで魔王にしようとして世界を混乱させた張本人、ウェイタル国の少年の外見をした王アスコットがいるから。

 光里ちゃんてば、どうしてこの人を一緒に連れてきちゃったかな?


【ここはセントリオにある、女神の館よね?】


 見たことのある広いホールの中央に、豪奢な装飾の台座と微かに浮いている透明な水晶。

 アスコットはその前に立って、なんだか呆然としている。


【そう。何かあったらここに転移しておいでって王様に言われてたから】


 ここは安全だから何かあったらと言われていた。

 でも、敵も連れてきちゃってよかったの?

 とりあえず自分にできることをしておこうとアスコットが攻撃を仕掛けてこないうちに結界を張っていく。防御、防御っと。


 杉原さんと圭人くんはアスコットがこちらに攻撃を仕掛けてきたらすぐに剣を抜けるように構えているし、夕彦くんと上条さんは補助魔法をこっそり掛けまくってる。

 今なら魔法が飛んできても大丈夫だね。

 光里ちゃんはロングソードをしまって、長杖を構えた。この方が回復力高いんだって。


 ジェイクさんがアスコットのそばに寄っていく。サツキさんも恐る恐るついていくんだけど、アスコットは二人に気がついていないのか、少しも動こうとしない。


【なあ、あいつ動かないけどどうしちまったんだ?】

【なんだか、心ここに在らずという感じよ?】


 二人がアスコットのすぐ後ろまで行っても何も反応されない。一体どうしちゃったんだろう。

 その時、光里ちゃんがハッとしながら水晶を見た。

 私が見ても特に何も変わってないと思ったのだけど、ん?

 中心に、何か炎のようなものがある?

 透明な水晶の中にゆらゆらと揺れる白。時々大きくなったり小さくなったりしているのはクリアレスが反応しているのではないかな。


【あいつ、クリアレスと話をしているわ】

【どんな話をしているか、内容まではわからないか】


 ジェイクさんがアスコットをつんと突いたその瞬間、ブワッと水晶の炎が大きくなって水晶自体が白い炎に包まれる。

 そしてそれは人型にまで大きくなり、台座の上に半透明だけど綺麗な女性が両手を緩く広げ立っていた。長い黒髪、黒い瞳、私たちに馴染みある姿。クリアレスも日本人だったんだね。


「また会えたわね、光里。エアーに巻き込まれてしまった、私の同胞たち。そして、アキラがご迷惑をかけました。申し訳ありません」

「アキラ? クリアレス、その人を知っているの? 何をしたかも」


この中で唯一クリアレスと話したことのある光里ちゃんが、質問をぶつけた。


「今、話を聞きました。アキラ、何があってあのようなことをしてしまったのか、あなたの口からしっかりとお話しなさい」

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