第209話
この城には彼以外の人がいないんじゃないだろうかという疑念。
邪竜と共に私たちが現れたというのに、この広い謁見の間に近衛も使用人も来る気配がない。
玉座の近くに子どもの背丈ほどもある花瓶が置かれており綺麗にまとめられた花が飾らされているけれど、あれは生花じゃないわ、よくできた造花。
よく見ると、ここに置いてあるものはまるで時間が止まっているようだ。
窓から入り込む日光だけが、時間を表しているかのように静かな場所。
今はそこに私たちがいて、動いている。
杉原さんが謎の少年と戯れている間、私たちはそれぞれ行動している。というか、暗躍?
ここはどこの国のお城なのか、あのローブを着た魔法使いっぽい少年は一体誰なのか。
サツキさんとジェイクさんがこっそり消えているのはあの少年にバレていない。二人は城の中を探って、情報を集めに行っている。
圭人くんは鍵を取られてしまったら飛び込めるように構えてるし、夕彦くんは鍵を取られないように、魔法で杉原さんのスピードを上げて補助している。
この城の床を鑑定したところ、今いる国の名前はわかった。
ただ、なんだか不穏なことが書かれているんだけど、鑑定さんどういうことかなこれ。
ウェイタル城・大陸の南西に位置するウェイタルの王城。西の竜にかけた呪いが解除された反動で、現在呪われている。あらゆる魔法を100%の状態で受けてしまう。
鑑定結果を読み上げて、聞いてみる。
「ねえ光里ちゃん、呪いを解除って、私がやったことかな」
「あー、あの時のことか、多分そうね。うーん、ねえ、あの子を鑑定してみて。私の見間違いかもしれないけど、年齢がおかしいの」
光里ちゃんが黒髪を揺らし首を傾げながら少年をじっと見てる。
どういうことだろうと思って、私も鑑定してみたのだけど、年齢のところが♾️ってなっている。
あれは無限大っていう意味の記号だよね?
「俺もしてみたがあのステータスは隠蔽かかってるぞ、スキルも見えないし。ありす、解除をかけてみてくれ」
「杉原さんの邪魔しちゃわないかな」
「大丈夫」
解除対象が杉原さんとバタバタしてるから狙いはつけやすい。
私はスゥッと息を吸い込み、相手の隠されたものを暴く、隠蔽というベールに隠された真実を曝け出すんだと頭の中で意識して想像してスキルを使った。
「解除!」
「わぁああっ! 何をするんだ、やめろ見るな!」
ブワッと黒い霧が少年の体から散った。
欲しかった邪竜の鍵のことなど忘れたように、杉原さんに向かっていた手を私の方に伸ばしてきた少年。
隠されていたものが、見えた。
アスコット・モーリス・ウェイタル/(鈴木アキラ) 89才 男
職業/賢者 レベル 70
STR 200
VIT 399
INT 1250
MID 1788
DEX 311
AGI 290
LUK 2
固有スキル/呪詛、隠蔽、不老、不死、回復、転移、詠唱破棄、二重詠唱。
「89歳!?」
隠されていた鈴木アキラっていう名前も、賢者という職業も気になるけど、それよりも!
不老不死のスキルを持っていて89歳、そしてあの姿。
「見るなって言ったのに!」
正面からしっかり見ると整った顔立ちがわかる、光を受けて艶やかに光る青い髪は肩の辺りで切り揃えられたボブカット。
少し吊り目気味の長いまつ毛を湛えた黄土色の瞳は角度によって金色にも見える。可愛らしいと言える顔立ちの少年なんだけど、どこか退廃的な雰囲気。
そんな少年、アスコットの手から炎の球が出て、私たちに向かって飛んできた。
「キャアアア」
シャッと音がして、炎が霧散する。
「大丈夫? ありすちゃん」
「サツキさん、ジェイクさん!」
城の探索は終わったんだろうか、私たちの前に飛び込んだ二人が炎を斬って助けてくれた。
「この城に人はいなかった。それどころか食糧もない、この城の時間は止まっているようだよ」
「気持ち悪い城だぜ、その割にどこもかしこもピカピカで、チリ一つ落ちてやしねえ」
「お前ら、人の家を勝手に! くそっ、これでもくらえ!」
「これはやばいわ! みんな、転移するよ!」
さっきより大きな炎の球、これじゃあ斬ることも出来ないし結界で防いでもそこで燃えていたら結界が解けた時に大火傷。魔法は結界と相性が悪いわ。
光里ちゃんが範囲を広げてどこかに転移する。
ついでとばかりにアスコットまで巻き込んで。
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