第208話
飛ばされたのはお城の謁見の間、だと思う。太い白い柱には縦線がいっぱい掘ってあって無骨だけど重厚な感じ。装飾は派手ではなく、質実剛健って雰囲気。
気温が高いのかな、こうして立っているだけでじんわり汗ばむ。
地面に敷いてある絨毯は薄めのもので、色もグレー。落ち着きすぎてるというか渋い趣味というか、えーと、地味?
白く綺麗な壁は掃除が行き届いていて、障害物の向こう遠くに見える一段高いところにある玉座。そこに座っているのはローブをすっぽりかぶった人物。
私たちと玉座の間には、先ほど圭人くんが倒した首のない邪竜の巨体が横たわっている。
「くそっ、あいつが犯人か!」
剣を握り直して圭人くんが駆け出そうとしたけれど、杉原さんが止める。
「待て、一人で突っ込もうとするな!」
「でも!」
「うぉ、おい、邪竜が」
ジェイクさんの声で目の前の邪竜を見ると。
まるでサラサラと砂のように空気に溶けながら消えてしまった。
その瞬間、これまでどこか息苦しかったのが解消されてスゥッと風が通り深く深呼吸ができるように、世界の空気が優しく変わった気がする。
「あ、素材」
圭人くんがタッチパネルを見ているのは邪竜の素材が一気に流れ込んできたかららしい。
骨や皮、血と肉。他にもありとあらゆるものが圭人くんの元に。だからさっと姿が消えちゃったのね。
「これでいい。これで僕の国は潤う」
突然私たちの目の前に現れたローブをすっぽり被った人。さっきまで玉座に居たと思ったのに、転移しているのかな。
この人が私たちをここに転移させた、北の竜を邪竜に変えた人物だろう。
そして一体、何者。
「建物の柱などはウィスタリスの様式に似ているけど少し違う。ここはどこだ」
「俺たちが知らない国があるなんて、久しぶりに本気で驚いたぜ」
こっそりとマップを開くと、ここはセントリオよりだいぶ西にある国。でも上条さんと杉原さんはここを知らないって言ってる。どういうことなんだろう。
「邪竜が残した鍵、あるだろう? それをこちらに渡せ」
私たちの質問に答えず、自分の要求のみを貫き通そうとしている。
大人とも子供ともつかない背丈、ローブに包まれてその表情はわからない。
「鍵というのはこれのことか?」
「それだ! 早くよこせ!」
杉原さんが見せびらかすように鍵を指で摘む。
自分のローブにつまづいてつんのめった謎の人物。
「危ない!」
そのままでは転んでしまうから思わず手を貸してしまった。
「うわっ、ありがとう、お姉さん……、しまった!」
「お姉さん??」
ローブがはだけて現れたのは青い髪に黄土色の瞳をした少年だった。
シャバル村のオシムくんと同じかそれより小さいくらいの。
「どうして、こんな子が」
サツキさんの言葉に、少年が反応した。
「子供なんかじゃない! いいから鍵をさっさとよこせ!」
「おっと」
ぴょんぴょん跳ねて鍵を奪い取ろうとする少年と、鍵を高くして取れないようにする杉原さんが戯れあってるようで緊迫感がない。
その少年、悪い人かもしれないのに。
鍵を鑑定してみた。
スキル解除・神から授かったスキルを解除することが可能。
新しいスキルは神、竜種が授けることができる。
「スキル解除……?」
「スキルは神の御技それを解除することができるなんて、初めて聞いた話だ」
ジェイクさんが呆然としている。
この世界に生きている人にとって、それはありえないことらしい。
鍵を中心に、杉原さんと謎の少年の睨み合いは続いている。
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