第206話 戦闘 2
寝起きなんて、欠伸ひとつで終わるものじゃないの? それとも体が大きいと伸びきらないのかなそれこそ、ガーって吠えないとむずむずするとか。
なんて、どうしようもないことを頭の片隅で考える。
そんな可愛いものじゃない邪竜の咆哮は、音の波となって私たちへの攻撃に転じた。
すっかりなくてはならないアイテムとなり、当たり前のようにつけていた全員の腕輪が発動して結界の盾が一斉に貼られる。
エリックには腕輪を装着できないから同じ効果の首輪をつけているのだけど、用意しておいてよかった。なかったら地面に叩きつけられていたかもしれない。
結界も魔法の一種だからか物理法則とは違うようで、隣の人とは干渉しないのが助かる。
私たちはそのおかげで普通に立っていられるけど、洞窟の壁の一部が剥がれたり地面がビリビリと震えるほどの威力にゾッとする。
私は竜が吠える瞬間にサツキさんに俵抱きされて、みんなの最後方に運ばれた。
正直、自分のスピードだったらそのまま正面から攻撃を浴びていたわ。いくら結界があるとはいえそんなの受けたくない。
「こっわ、結界があって助かったわね」
光里ちゃんが全く怖がってない表情でそんなことをいう。
むしろ何も言わないサツキさんの方が怖がってるよ。私を抱えたままちょっと固まってたもの。
「サツキさんありがとう、あの、降ろしてください」
「はっ、ごめんね、ありすちゃんってば羽根のように軽いから重さを感じなかったわ」
お米のように肩に抱えられたままだから、ちょっぴりお腹がツラいのよ。
そのおかげで竜のことを見ないで済んだけど。
サツキさんに降ろしてもらってから、エリックを呼んで小さな球体の魔道具を渡す。
「これを上空から邪竜に当てて欲しいの」
『わかった!』
「合図するから、落としたらすぐに私のとこに戻ってきてね」
口に魔道具を咥えたエリックが邪竜の上空へ飛んでいく。高さがあるから大変だけど、エリック頑張って!
「エリック! 今よ!」
「行きます! 絡み付け、アイスウィップ!」
言葉に出すとイメージが強くなるから、魔法を一番効果的に使うには詠唱をした方がいい。夕彦くんは氷の蔦を邪竜に向かって何十本も放ち、巨体に絡み付かせた。
エリックが投げた球は相手を麻痺させる魔道具。
「よし、効いてるな!」
ジェイクさんが大剣を握って尻尾の方に向かって走る。杉原さんは胴体、圭人くんは首を狙う。
「あ、待って! 竜の様子がおかしい!」
サツキさんが叫んだ。氷の蔦に絡まれた邪竜の体が、なんだか小さくなっている。
夕彦くんの魔法でぎゅうぎゅうに締められているから蔦が外れることはないけれど、一緒に動いているから大きさが変わっているのは目の錯覚じゃない。
色も、真っ黒から薄くなっているような。
「硬質化か? いや、違うか、麻痺はまだ効いてるからヤツの意思とは関係なく変化しているようだな」
上条さんが杖を構えたまま分析している、どうやら鑑定を使いながら観ているみたい。
「何か、わかりましたか?」
「ありす、もう一回解除してみてくれ」
「はい!」
言われた通りに邪竜に向かって解除をかける。
プツンと切れた、と思った。
先ほどのように何かが割れたような感覚はないけれど、確実に何かが起きた。
邪竜の体は五メートルくらいまで縮んで、灰色に変化した全長が見える。
邪竜の変化が止まった瞬間に眼がかっと見開かれ、大きな口から黒いブレスが吐き出された。
でもその狙いはまるで見当違いな方向で、壁に向かってブレスをしても何もいないのにわかってないみたい。
「どこを狙ってる! 俺たちはこっちだ」
邪竜はまだ満足に動けないらしく、憎々しげにこちらを睨む。
その時、ジェイクさんの剣が、邪竜の尻尾の先を切り落とした。
グギャアアアア!!
邪竜が尻尾を切られた痛みで吠える。暴れようとする切り口から、紅血が撒き散らされる。
竜の血はそれだけで最高級の触媒になるけれどその反面、触れるだけで猛毒だから気をつけないと。地面に落ちた時にジュッと音がしているから温度も高い。
「ジェイクすごいな」
杉原さんとジェイクさんが顔を見合わせた。自分の手を見つけるジェイクさん、どうも自分が邪竜に傷をつけたことに驚いているようね。
いっぱいレベル上げて訓練して、ジェイクさん自身が強くなった。もちろん私たち全員。
上条さんと杉原さんがレベルアップしちゃうくらいだから。
その間も夕彦くんと上条さんは魔法で援護。聖女の光里ちゃんは剣で斬っている。サツキさんは状態異常の効果がある武器を作るスキルがあって、それを使って麻痺や毒をこまめにつけている。
私の剣が通らなかったのはSTR不足かな。エリックに麻痺球を渡しつつ自分でもスリングを作って投げてみる。
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