邪竜の宝
第203話
外は夜。みんなでちょっと贅沢なご飯を食べて、ジェイクさんとサツキさんの婚約をお祝い。実はもう婚約者なのだと思っていたことは内緒にしておこう。だってほら、私たちだって色々と避けるために婚約者のふりしてるし。
流石に戦闘前なのでお酒はなく、お行儀よくそれぞれの部屋に戻って就寝。
その前に私はさっぱりしたい。
光里ちゃんとサツキさんも一緒にどうか誘ってみたんだけど。
「私は部屋のシャワーでいいわ。ありすはお風呂でしょ?」
「うん。サツキさん一緒に入る?」
「私もシャワー派なの。お風呂だと眠れなくなっちゃうのよね」
光里ちゃんとサツキさんに振られて広い浴槽に一人、足をしっかり伸ばして浸かる。
小型車に乗り換えてから、戦闘以外はずっと座りっぱなしだったから凝らないか心配だったのよね。身体能力と時々かけてもらった浄化や回復のおかげでそんなことはなかったんだけど。
「あ〜〜〜〜、生き返る」
ばっしゃんと顔にお湯をかけ、ぶはーっと息を吐く。なんだかおばさん通り越してオヤジ臭いような気もするけど、気持ちよさには勝てないわ。
明日、邪竜の棲家に入って、倒す。
その後何が起こるかわからないけど、とにかく今はそのことだけ考えよう。私は私にできることをしっかりと。エリックも戦ってくれると言ってたし。
しっかり体を解して温めて寝巻きを着て外に出る。
保湿のためのお水を飲むために、キッチンに行ったら圭人くんも湯上がり状態で水を飲んでた。
「よお、ありすも風呂だったか」
グラスに水を入れて渡してくれる圭人くん。温まった喉を通る、冷たくて美味しい水。
「うん、圭人くんもお風呂の方が好きだもんね。ふふ」
「ん?」
私が笑った理由がわからなくてなのか、首を傾げる圭人くん。
「そういうとこ、変わらなくていいなって思ったの」
「ああ。そうだな、変わらないよ。ずっと、この先も変わりたくないとこはあるな」
違う世界で、それでも好きなことは同じまま。なんだか嬉しいな。
くしゃっと頭を撫でられた。ドライヤーで乾かしてはいるけどまだ湿ってないかな、なんて考えてしまった。
「ありす、この戦いが終わったら……」
圭人くんがぼそっと呟いたけど、私は髪の方が気になっちゃって。
その時、二階からリビングに誰か降りてきた。
「お前ら、まだ起きてたのか?」
「杉原さん!」
「お風呂入って水を飲んでたの。もう寝ます、おやすみなさい」
何か言いたそうな圭人くんを残して二人にお休みをして二階に上がる。
明日のためにしっかりと寝ないとね!
△▲△
「なんか、すまん」
杉原は、手を空中に伸ばしている圭人を見て何があったかを一瞬で察知した。
どうやらジェイクとサツキに感化されたか若い二人の告白劇があったようで、自分はそれをぶち壊した悪者らしい。
「いえ、いいんです。ちょっと急ぎすぎただけで、ありすが俺のもんなのは決まってるし」
「すっごい自信だな」
「そう思わないとダメなんす。あいつ、昔からよくわからないけどすっげえモテるんですよ。でも結局は俺のそばにいるんで」
ありすの方も圭人を憎からず思ってるのは見ててわかる。
これは、本人たちだけが両片思いしてて周りからは出来上がってるやつだなと杉原は遠い目をした。
地球にいた頃もこんな青臭い恋愛をした経験などなく、この世界でもそれなりに大人のお付き合いはあったが、不老不死になってからは相手のことを思うと逆に恋愛を考えることはできなくなった。
「いいなあ」
この世界が終わっても一緒にいられそうな相手がいていいなぁ。
杉原の本心は、誰にも見えない。
△▲△
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます