第202話

「あー、ここまでか」


 ハンドルを握っていた杉原さんの声で、ささっと準備をする私たち。車内だと嵩張るコートやマントを外していたから、このまま外に出たらきっと寒いわ。全員外に出て装備をしっかりとつけて、後部の扉を開けてエリックを出してから車は杉原さんのストレージに。


「ありす、エリックを」


 圭人くんがエリックを腕に止まらせてくれている。念話はできなくても私の仲間だって覚えてくれて、懐いてくれたので良かった。


「はい。エリック、おいで〜」

『うん!』

 

 ばさっと翼を広げて私の肩に乗るエリック。

 うーん、このままだとちょっと歩きにくいかな。


 みんなの準備ができた。

 そして、ライトの魔法を上条さんが上空に飛ばすとパッと周囲が明るくなる。

 地面が少し泥濘んでいるから普通なら歩きにくいだろうけど、靴につけた脚力強化と浄化の魔法がいい仕事をしてくれている。夕彦くんと光里ちゃんに作ってもらった魔石は、小さくても効果は抜群です。もちろん全員の靴についてるよ。


 明るいということはこちらからだけではなく魔獣からも見えるということで、警戒をしながら杉原さん、圭人くん、夕彦くん、光里ちゃん、私、サツキさん、上条さん、ジェイクさんという順番で進む。

 探索してもらったら周囲に魔獣はいないみたい。ここまでの間に大型の魔獣は何体か遭遇して倒しているけど森を進んでくるにつれて、数が減っているような気がする。


 エリックは私の小さな肩より頭の上が良いそうで、髪がちょっと丈夫な帽子を作って乗せている。なんだかそういう帽子みたいだぞって、圭人くんに笑われたんだけど、まあいいかな。


「体は全然寒くないのに、景色だけ見るとすごく寒く感じるね」

「霜が降りてるし、ああ、雪の結晶が綺麗です」


 時折降る雪は大粒なんだけど、積もらないのはどうしてだろう?


 道ではあるのだけど人がすれ違うのがやっとな木の隙間を抜けて進んで、木の根を越えて積もった枯葉が作り出した柔らかい土を踏み、歩いて歩いてふっと生まれた空間。


 杉原さんが立ち止まった先にあったのは、外の暗さよりさらに暗闇の中のような洞窟。

 

「この奥が邪竜の棲家だ。以前より、嫌な気配がしてる。これが気のせいならいいんだがな」


 ああ、いよいよなんだって思った時、ジェイクさんが真面目な顔をして宣言したの。


「みんな聞いてくれ。俺、この戦いが終わったらサツキと結婚する」

「やめろ、それは死亡フラ……ぐっ」


 杉原さんの言葉は上条さんが口を塞いだことにより途中で遮られ、私たちの祝福の声にかき消された。


「どうして戦いが終わった後なんですか? すぐでもいいのに!」

「そうですよ、サツキさん待たせちゃうの?」

「光里ちゃん、ありすちゃん、私が待っててって言ったのよ。なすべきことをしないままでは幸せになれないわ!」


 サツキさんが鮮やかに微笑む。またしてもそれを茶化そうとする男性陣。


「サツキの夫となるからには、これからは俺もお前たちの仲間にしてくれ」


 ここまでは良かったのに、こんなところで今更何を言ってるんだと思うようなことをジェイクさんが言うから総ツッコミが入る。


「え、もう仲間だと思ってたんだが」

「いつから仲間ではないと勘違いしていたんですか」

「何言ってるの?」

「ジェイク、ボケてるわ」


 ぐだぐだになったプロポーズ、それはまあサツキさんも了承してるようだし。それでもこの雰囲気のまま、邪竜に突っ込んでいくのはアレだし。

 道中の疲労回復も兼ねて、ここで家を出して一晩休んでから洞窟に入ることになった。

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る