第201話

 道というには狭すぎる、これが馬車なら成長して張り出した大木の根っこに車輪を取られて途中で止まってしまったのだろう。

 それでも残る微かな轍を進むにつれ木は生い茂り、木漏れ日は消えて光が届かない地面は湿気を孕んで車のタイヤを捉えようとする。きっと外の気温は低い。霜柱をザクザクと踏む楽しさを感じられたのは、家に帰れば暖かいことがわかっていたからだろう。


 森の様子が変わったのは進み始めて二日目のことだった。

 それまでは微かにでも光があったからまだ進むことに不安は少なかった。

 どこからでも現在位置が分かるマップがあって良かった、なかったら自分のいる方角がわからなくて迷子になってしまう。

 カーナビを作った時に私のマップが反映されたんだけど、これって上条さんや杉原さんのマップだったらもっと範囲が広くて詳細だったのかな。


「車でよかった、ヘッドライトのおかげで前が見えるものね」


 ハンドルを握るサツキさんがしみじみと呟く。実家が山の中にあるからこういう道は慣れっこよと言いながら運転する様子に、ジェイクさんが感心してた。

 スピードを出せないからか、上条さんは森に入ってから一度も運転していない。

 杉原さんの方が運転は繊細だったのが意外。


「黒い森って名付けた人は、ここまで辿り着いて帰ることができたんですね」

「あ、そうだよね。入口だけなら結構明るかったもの」



 森を進むにあたって、狭い道は走れない大きすぎるカタツムリ型キャンピングカーは諦めてストレージの中に入れた。

 小型車というには丈夫な、装甲車というには頼りないジープよりは乗り心地を優先させた車を作った。


 私が色々調整している横で、ウロウロしている一羽のカモメ型魔獣。可愛い従魔のエリックが嘴を下げてしょぼんとしている。

 

『ありす〜、僕のお家なくなった』

「大丈夫だよ! トランクに入れるもの何もないから、ここをエリックのお家にしよう。羽根広げられるかな?」


 キャンピングカーではスペースを広く取れたけど、小型車だとそうもいかないものね。

 なんとか後部座席の後ろを無理やり広くして、エリックが羽根をバタバタしても大丈夫な空間を確保した。


 幅を狭く全長は長め、233のシートは長時間乗っても大丈夫なように光里ちゃんに疲労回復、エコノミー症候群にならないようにできる限りの付与を魔石にしてもらってハンドル中央に取り付ける。緑色の魔石は宝石のように煌めいて綺麗。

 車高は高め、タイヤはパンクが怖いから厚く大きく。

 色はシルバー。ミラー仕上げってやつにしたら木の色が反射するから周囲に溶け込むよって上条さんが教えてくれた。

 体の大きなジェイクでも余裕があるようにしたから前後の幅はそれなりにある。


 結界も隠蔽もここを通る時は意味がないからかけてない。むしろ積極的に戦闘をすることにしたのだけど、二日間は平和でした。


「この先、1キロ。魔獣がいます」


 探索が車外にも使えたのはラッキー。

 こればかりは付与でどうのっていうものでもないから、夕彦くんに負担をかけてしまわないかと思ったんだけど、これがレベル上げになるからやりたいって言ってくれた。

 

「おう、了解、サツキ行くぞ!」

「ジェイク、遅れないでね」

「誰に言ってる」


 レベルが上がったサツキさんは縮地というスキルを覚えたそうなんだけど、これがかなりすごかった。

 地中に隠れたり一瞬で何十メートルも移動したり、レベルが上がったら瞬間移動の距離も上がるんだって。転移と違うのは見えるところにしか移動できないそうなんだけど、それでもかなり便利だよね。


「二人とも気をつけてね!」

「は〜い、みんなはゆっくり来てね〜」

 

 ニコニコと手を振りながら車を降りて、さっと消えるサツキさんと大きな剣をストレージから出して背負い走るジェイクさん。二人に戦闘は任せて私たちはこのまま車で移動。

森の中は少人数の方が都合がいいから。


「エリック、この森で飛べる?」

『うーん、大型の鳥がいるから僕食べられちゃうかも』

「それはダメ! エリックが戦う時は私の近くでね」

『わかった、僕がありすを守ってあげる』


 後部座席から振り返る私をじっと見ながらいう姿に嬉しくなってしまう。カモメって無表情かと思ったらそうでもないね。

 うちの従魔、可愛すぎです。



 

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