第200話

 森を行く乗り物を考える。

 キャンピングカーは諦めて少し丈夫な八人乗りの小型車なんてものを作ることになった。

 

「これ絶対、車検通らねえな」

「当たり前だ。っていうかこれ何CC?」


 杉原さんと上条さんがよくわからない会話をしている横で、車に装飾する私たち。

 森の入り口は木漏れ日が優しく、鳥の囀りも聴こえてくる。

 タイヤ、これでもかってほど丈夫にしたけど、これでダメなら徒歩かな。


 邪竜がいるという深い森、近づくにつれすっかり忘れていた冬が来たよう。

 ヒラヒラと舞う雪は白く、吐く息がふわりと目に見えた時、気温の変化を感じた。積もるほどではないけど十分寒いから、車の中にいる時間が増えるのは仕方ないことね。

 そういえばここは大陸でも北の方にある。

 雪が降るということはそろそろ雨季が近いのかな、季節の変化が違うからこの世界のことはよくわからない。上条さんに聞いたら、雨季はもうすぐだけど一、二週間ほどざーっと降るだけなんだそう。

 あと、乾季と言っても全然降らないわけじゃなくて、曇ったり小雨が降ったりはあるんだって。


 こちらの国に移動してすぐは少し涼しいだけなのかななんて、甘いことを考えていた私たちは装備から見直しすることになった。

 キャンピングカーを止めたのは森の入り口にある、元は村の広場だったような円形の石畳の上。

 小型車を作るのに少し時間がかかってしまったから、隣に家を出してそちらに移動。


 時折ひゅぅううと吹く風がめちゃくちゃ寒いんですけど!

 家の中は温度管理がしっかりされているので快適そのもの。


「私ってば足丸出しだもの、この格好だと寒すぎるよね。耐性があっても見た目が寒いのはダメ」

「ありす寒いの苦手だものね、そこまでじゃないけど私ももっと暖かい方が嬉しいわ」

「私もあまり冷やしたくないわ。腰が冷えると後が辛いのよ」


 ぽんぽんと両手で自分の腰を叩くサツキさん。

 寒いの苦手談義に何故か男性陣は入ってこない。もしかして彼らは寒いの平気なのかな?

 じっと杉原さんを見てみる。


「ん? 俺たちは冬装備を持ってるぞ。ジェイクもあるんじゃないか?」

「ああ。どこ行ってもいいように耐性装備は持ってる」


 ストレージから冬用の装備を出した杉原さんと上条さんとジェイクさん。

 それを見てさすがと感心する私たち。

 私たちがこれから作る装備の参考にするから、三人とも着てみてほしいとお願いした。


「参考って、ああ、創造で作れるのか便利だな」


 ジェイクさんに創造スキルのことを教えたら、そんな便利なスキルは初めて知るって驚いていたっけ。大剣の鞘をとても喜んでくれたので嬉しい。

 杉原さんの装備はファー付きの革のコートと厚手の布のズボン、インナーとシャツは私が作ったものをそのまま使ってくれている。


「このコートとズボンの一部に火竜の皮が使われていてな、寒さにはめっぽう強いんだ。ちょっと色が派手なのが難点だな」

「俺のローブの縁部分と手袋も同じ素材。デザインがイマイチ気に入らないから後で直してくれないかな」


 杉原さんの真っ赤なコート、上条さんのモスグリーンの生地に赤い革の縁取りがされたローブ。この赤が火竜の色なのね。

 ジェイクさんは短めの革ジャケットに、ズボンの上に革の、これなんていうの?

 えっと、カウボーイの人が着てるズボンの上に履くやつ。その、股間のとこだけぽっかり開いてて。

 そんなことを考えてたら、夕彦くんから助け舟が来た。


「チャップスがこんなに似合う人初めて見ました」

「これのことか? かっこいいだろ。防具屋が防御力あげるならこうしろってな。勧めてくれた」

「ジェイクは足が長いからこういうの似合うわね」

「サンキュ、サツキ。俺の装備はレッドリザードとワイバーンだ。火竜よりは格が落ちるな。」

「何言ってる、それ、かなりいいやつだろう。熱耐性、寒耐性両方付与されてて斬撃耐性もついてるな」

「ああ、付与職人が頑張ってくれた」


 どういうことだろう、ジェイクさんは付与が三つだというけど、私にはもう一つ見えていた。


「ジェイクさん、ちょっと見せてもらっていいかな」

 

 そう言いながらジェイクさんのジャケットの端をつまむ。


「これ、結界もついてますね。背中から攻撃されると作動するようになってます」

「まじか、本当に知らなかった。あの親父め」


 結界って、スキルを持ってる人じゃないと認識できないんだよね。

 嬉しそうにズボンを撫でるジェイクさんはこの装備を買った防具屋さんのことを思い出していたそうです。

 頑固職人で腕はいいけど人を選ぶんだって。

 いつか会ってみたいな。


 

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