第199話

 平原をものすごいスピードで走るカバに似た魔獣、エンカウントするまではまだ1キロ以上あるけれど辿り着くまではほんの数分だろう。

 十頭ほどの群れでこちらに向かって来るということは、認識阻害が効いてない!

 あの魔獣の固有スキルなんだろう、厄介だわ。

「行くぞ、慌てることはない。いつも通りにな!」

「はい!」

「圭人、あいつは傍からの攻撃に弱い。背中は異様に固いから気をつけろ」

「サンキュ、ジェイク」


 私たちは急いで車から降りて各自武器を携えて戦闘体制に入る。ぶつかって壊れると嫌なので車はさっと私のストレージにしまっておく。

 そういえば、カバってあの巨体に似合わず早く走るっていうよねーと、テレビで見たことを思い出していた。

砂煙が上がって、群れはもう手が届く距離。


「あいつらの弱点はここだ」


 なんて言いながら走り出した杉原さんが真横に剣を振うと、先頭にいた巨体が崩れ落ちた。前脚の付け根、その部分は柔らかく剣が通りやすいんだと圭人くんに教えるように。

 その一頭に躓いて二頭が倒れた。スピードが乗っていたから転んだだけでもダメージはあるだろうけど、すぐに起きそう!

 すかさず夕彦くんが重力魔法をかけて転んでいた二頭をまた踞らせた。


「ありす、後ろのやつ止められますか?」

「いけるよ! えぃ!」

 

 相手に絡みつくロープは、人を縛るのに作った刃物で切れないロープの改良版。敵に絡みついて行動を止めてくれる優れものです。

 巨体が次々と倒れていき、杉原さんたちが斬っていく。 

 それでもこちらに向かってくる魔獣はいるけど、上条さんと夕彦くんの風魔法が炸裂する。


「サツキ! こいつに止めだ」

「はいっ!」


 杉原さんに斬られた最初の魔獣に、サツキさんが短剣を突き刺した。

 サツキさんの短剣には毒が塗ってあって、小さな傷でも致命傷を与えられる。毒は浄化で消せるから素材にするのには問題ない。食べるのは、ちょっと怖い。

 最後にトドメを刺した人が経験値を一番多くもらえるっていうの、ゲームの世界だけかと思ったらここでもそうなってた。

 いや、もしかしたら地球かぶれの白い人がそうしたのかもしれないけど。


 今はサツキさんのレベルを早く上げてスキルを増やそうという方向になっている。

忍者という未知の職業でどんなスキルが出るかみんな興味津々なのです。


 ジェイクさんの剣は強くて重くて、上方から叩き切るという感じなので、この魔獣とはとても相性が悪いみたい。苦戦しているのをサツキさんが補助に入るという感じでうまくやっていた。

 上条さんと夕彦くんの魔法は的確に敵の行動を潰している。上条さんのやり方を見て夕彦くんがそれを真似、さらに違う魔法に展開させている。実践が大事だという夕彦くん、この機会をしっかり自分のスキルアップに利用している。

 私も頑張ってやれること増やさないと!

 

 なんとか襲いかかってきた十一頭全てを倒し、手に入った魔石や皮、肉などを鑑定する。


ダウヒポポの魔石・属性土。

ダウヒポポの皮・水に浸し乾かすと硬化する。防具に使うと良い。

ダウヒポポの肉・食用。寄生虫多め。味は野生味溢れて臭みがある。浄化をかけてからハーブと一緒に煮込むと美味しいかもしれない。


「鑑定さんが、調理の方法まで教えてくれてる」


 寄生虫多めって怖すぎるよ! 

 野性の獣だからそういうものだとは思うけど、それでも!


「ありすの鑑定どうなってるの。私だと、食用、まずいってだけしか出てこないわよ?」

「食べ物のことばかり考えてるわけじゃないんだけどね」


上条さんは鑑定結果が一人一人違うことを知らなかったそうで、お腹抱えて笑ってた。


「肉は非常用として持っていればいいんじゃないか? 使うことがなかったら放棄するということで」

「じゃあ、杉原さんのストレージに全部入れておいてください」

「まあ、いいか。なんか食べる気なさげだけどな」


 戦闘後に浄化をかけ、車ではなく家を出す理由は、個室があるから。どうしても戦いというのは精神を疲弊させるもの。

 それぞれ思い思いに過ごして、心と体を休ませる時間。

 全員で集まり夕飯を食べて、他愛無い話をしてベッドで休む。

 いくら精神力が上がってるとはいえ慣れないことばかりだもの、仲間がいてくれて良かった。


 森は唐突に目の前に現れる。

 朝食後から走り続けて平原の先にこんもりと繁る木の影が見えたのだけど、暗くてその先がどこまで続くか予想もできない。


「うーん。キャンピングカーでは無理だな」


 この時運転席にいたのは圭人くんで、助手席は私。

 車を止めて後部座席で全員会議をすることにした。座りっぱなしで少し疲れたので飲み物を出してじっくり考えよう。

 ベリーのソーダはほんのり紫色で甘酸っぱくて美味しいのよ。


「小型の車なら森の中でも進めるかな?」

「初めから四駆みたいな丈夫な仕様にしたらどうでしょう?」

「車を諦めてバイクなんてどうだ?」


森の中に道はあるのだけど、張り出した根っこやらなんやらで車で進むのは大変そうなのよね。 

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