第198話

「すまん、話がある」


 少し申し訳なさそうにジェイクさんがそう切り出したのは、出発して六時間後。

 ずっと座りっぱなしは良くないからという杉原さんの提案で二時間ほど戦闘をして体を動かし素材を集めた後、車の中で調理をして夕飯を食べて、試しに今夜はキャンピングカーで寝てみようかと話をしていた時。


「ああ、なんでも言ってくれ」


 しっかりと話を聞く体制になるため、全員テーブルの周りに集まる。


「あー、なんていうか。俺はその、こういう一つ所で集まるのがちと苦手で。できたら外でテントを貼って一人で寝たい」

「ジェイクは二人でいても一人用テントで寝てたものね。私は木の上でも寝れるからそれでよかったんだけど」


 少しわかる。人の気配があると寝れなくなっちゃう人っているものね。それと、サツキさんは木の上で寝るのやめようね。


「個室で結界を貼ってあったらどうかしら? それなら寝れるんじゃない?」


 光里ちゃんの提案にジェイクさんが目を輝かせる。結界の魔道具は売るほどありますよ。

 うーん、鍵の代わりに作動させたら結界が張れるように個室の扉を改良しちゃおうかな。


「ああ、宿に泊まるときは静音の魔道具を作動させていたから、それより効果の高い結界ならよく寝れるだろうな」

「広い場所がないときは考えないといけないが、そうでない時は家で寝ることにしよう。ストレスはない方がいい。な、上条」

「そうだな、俺たちは人数が多い。軋轢などない方がいいのが当たり前だけど、どうしても文化の違いや考え方の違いなどある。衝突することもあるだろうからこうして一つづつ潰していこう」


 そんなことを最初は言ってたんです。


 綺麗事でもいい、大事なのはこのメンバーで長い旅をするということ。

 邪竜を倒すまでどれほどかかるかわからない、それでもこの世界のために行かなければならないから、私たちの仲がいいに越したことはない。

 それは全員の正直な気持ちだった。


 それから二週間。

 

「だから、ユーヒコはどうしてそう融通が利かない!」

「ジェイクがいい加減すぎるんです。胸当てはしっかりつけないと怪我します!」

「お、おう。それはそうか、すまなかった」

「わかればいいんです」


 なぜか毎日のように言い合う夕彦くんとジェイクさん。

 外見こそかっちりした委員長タイプだけど、実は真面目すぎるってほど真面目なわけではない夕彦くんと、ソロで気ままにやってきたジェイクさん。

 衝突のきっかけは些細なことだったのに、ことあるごとに口論するようになってしまった。といっても今みたいにすぐに仲直りするんだけど。


 最初のうちは私や光里ちゃん、サツキさんが二人を止めたり、合わせないようにしていたんだけど杉原さんと上条さんにほっとけと言われてそうしている。

 杉原さんたちによると、これも二人にとってはガス抜きだから、みんな気にしないでレクリェーションの一つだと思えと言われました。喧嘩を見てストレスを感じるのも良くないって。

 もし嫌だなと思ったら二人に伝えろと、それがやめ時だからだそうです。

 なので今は放置中。


「なんだか、あの二人が親子に見えてきた」

「光里もそう思う? 私もよ」

「サツキより夕彦といる時間のほうが長いんじゃない? ジェイクさん」

「ふふ、いいんじゃないかな。その分馴染めているようだし」


 確かにそうねと光里ちゃんとサツキさんの話を聞いてて思う。ジェイクさんが着崩してたりすると一番に注意するのが夕彦くんなのよね。

 もしかして、すごーく心配してるのかも。夕彦くん私たちの中で一番心配性だし。


「戦闘中はどうなのかな?」


 私の疑問に答えてくれたのは圭人くんだった。


「戦闘中はジェイクの方が後ろをよく気にしてるぞ。俺や杉原さんはあまり気にしてないんだ、すまないな」

「ううん、圭人くんたちが前で戦ってくれるから後ろで補助できるんだよ。いつもありがとう」

「おう、お互いに無理はしないでおこうな」


 仲間が増えて、戦闘のフォーメーションを考える必要ができた時、考えてくれたのは上条さんとジェイクさんと夕彦くんだった。前衛、中衛、後衛っていう考え方って実践でも使うものなのね。ゲームの世界だけだと思ってた。


 そんなふうに毎日何かありながらも進む日々。森がだいぶ近づいてきて、立ち塞がる魔獣も大型のものが増えてきた。



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