第196話

 実はスピード狂だった上条さんの運転で進むキャンピングカー。というか、走るカタツムリ。見た目は滑稽だけど内部はとっても快適な空間が広がっていて、できる限り広く作ったから、みんな思い思いの行動をしている。

 運転席には上条さん、助手席は光里ちゃん。

 疲れたらすぐ交代できるし、自動運転でまっすぐ進むこともできますよ。


 右手には平原の向こうに砂利が敷き詰められてその先に南北に走る川、その遥か彼方に見える山脈はマップを見ると近そうなんだけどどうだろう。左手は広がる平原、遠くに木の影が見える。

 そして私たちが向かう北の方角は平原、時々林、霞んで見えないほど先に深い森。

 その森の奥に邪竜の巣がある。周囲の魔素を吸収する力と、邪竜自身が魔素を出す力、危うい均衡は崩れてしまっていて吸収する力の方が多くなっている。

 世界に巡る魔素の量が変化して、これを補っているのが私たちみたいな神の落とし子と言われている異世界人やこの世界に昔からいる竜たち。でもこれではとてもじゃないけど足りない、この世界の人は極端な魔素不足では生きることも難しいと聞いた。


 世界を守るため、人々を救うため、私たちは旅をする。なんてね。

 神様である白い人に頼まれたというのもあるけど、この世界に生きてる人たちに触れてしまったから、ほっとくことなんて出来ないというのが本音。


 スピードに制御つけててよかったぁと思ったのは、上条さんにこれって200キロくらい出ないのーって軽く言われたから。

 あまりスピード上げるといざっていう時止まれないですからね。


「お、やってんな。素材が足りなかったら分けるから言えよ。鉱物なら在庫があるぞ」

「サンキュっす。ありすから貰ったんで大丈夫ですよ。ところで、日本刀みたいな形にしたいんですけど、それってアリですかね」

「おお、使いやすければいいんだよ」


聖剣作りに入った圭人くんが、先代勇者の杉原さんにアドバイスをもらいながら制作に入っている。


「でね、森にいたの。怖かったから大人しくしていたら、ジェイクに助けてもらって命拾いしたわ」

「いきなりだったんですね、僕たちは白い空間に連れられて」


 それから夕彦くんはサツキさんとジェイクさんに今までの旅の流れを話した。

 こうしてみると色々あったよね。捕まったり、プロポーズされて婚約させられそうになったり、人助けもしたし、商売もした。


「お前らも大変だったんだな。ったく、忠告してやったのにしっかりオーザに連れて行かれてるしよ」


 夕彦くんはサツキさんに今までの旅の話をする過程で、アイン村を出てからオーザ村に連れて行かれたこともジェイクさんに伝えてしまったみたい。

 そういえば、アイン村を出発するときにジェイクさんには忠告されていたんだよね。気をつけろって。


「まさか奴隷商人なんてものがいるとは思わなかったんです」

「平和な世界から来たんだな、お前たちは。すまないな、この世界のために」

「そのままだと死んでたし、いいんじゃない? あの高さの階段から落ちて無事なんてありえないわ」

「そうですよ、僕たちだってあのままだったら四人で車に轢かれてました」


 ジェイクさんに謝られても困っちゃうね、現に夕彦くんは慌ててる。

 サツキさんがこの世界に来たのは私たちがアイン村を出てからそんなに過ぎてない時期だったみたい。ジェイクさんが助けてくれて、本当に良かった。


 私はといえば、こっそりとあるものを作っている。うーん、空想上のものって原理も何にもないから難しいのかな、謎パワーでなんとかなれー。

 腕輪をタッチすると一瞬でお着替えできる魔道具、憧れだったのよね。

 魔女っ子変身セット。

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