第194話
出発するに当たってもう一つ大変だったことがある。それは私の従魔、イエローシーガルのエリックのことだった。
見た目は黄色いカモメな魔獣なんだけど、特殊個体らしく頭がとてもいい。だから群れに馴染めなくて私を助けてくれたんだけど。
「ねえ、エリック。車に乗って」
『飛べるよ?』
「ものすごーく早く進むから、エリック置いていかれちゃうの」
『うーん、置いてかれるのいやだから、わかった。じゃあ外が見えるようにしてね』
後部座席の一番後ろに潜水艦のような、外が見える丸いドーム上のガラスをつけてその中、直径一メートルくらいの鳥籠を作りました。
「よろしくなエリック。俺は圭人、ありすの幼馴染だよ」
『ありすのこと見ていたからみんなのこと知ってるよ、ケイト、ヒカリ、ユーヒコ、スギハラサン、カミジョサン、サツキサン、ジェイクサン。よろしくね』
「ふふ、こうしてみるとカモメも可愛いね。カミジョじゃなくて上条だよ。ちょっと難しいかな」
そうやってみんなと挨拶して受け入れられたエリックは、今はご機嫌で鳥籠の中に巣を作っている。
細い枝がいっぱい欲しいと言うからあげたら、嘴と脚を使って器用に編み出したのよね。麦わら帽子を逆さにしたようなものでそこを寝床にするんだって。
汚れても大丈夫なように籠自体に浄化をかけたし、水浴びをしても外に水が跳ねないように透明なアクリルのような素材でガードをした。
餌箱にはエリック用に調合した鳥の餌、水もたっぷり置いてある。
夜は眠れるように遮光カバーをかけるんだって。鳥の飼い方の本があってよかった。
「おー、ノースシープの群れだぞ! これはしばらく通れないから待つしかないな」
「すっごい土煙」
運転席から上条さんと光里ちゃんの声。どうやら前方を羊の大群が横切っているらしいから、どれどれと見に行った。
これから進もうとしている荒れた街道は南から北。交差するように西から東へ向かって羊の大群が進んでいくのはずっと進んだ先にある草原だろう。
羊たちが通った道は踏み荒らされて、きっと何も残らないんだろうなー、なんて考える。
「うわっ、何万頭いるんだろう。もこもこで可愛いなぁ」
「あれ、少し狩っちゃダメですかね」
私がふわふわの毛を触りたいなぁなんて考えている横で、圭人くんは食べることを考えていたみたい。
確かに羊のお肉は美味しいですけどー!
もう少し情緒!
そんな物騒なことを言う圭人くんの肩を、杉原さんがポンと叩いた。
「一頭に手を出すと残りが襲ってくるからやめとけ。いくら可愛くても弱そうでも、相手は魔獣だ」
大体どこの土地でも、群れを作る魔獣は仲間同士の結束が強いから、群れには手を出さないことが鉄則なんだそうです。
どうしても狩りたかったら小さな群れや逸れているのを狙うか、群れを全滅させるしかないって。
「ストレージに肉はたっぷりあるし、こいつらを全滅させたらありすが大泣きしそうなんでやりません」
「そうだな。まあこいつらが通り過ぎるまで時間かかるからゆっくりしようや」
そう言いながら杉原さんは後部座席に戻って、ソファにごろりと寝そべった。どうやらそのまま仮眠をとるみたい。
私も後部に戻って空いてる席に座ると、サツキさんがその隣に腰掛けた。
「ねえねえ、ありすちゃん。あのね」
「どうしました?」
サツキさんが何かもじもじしてるんだけど、どうしたのかな?
「私、自分とジェイクさんのステータスしか見たことないから、他の職業とか知らなくて。もしよかったらありすちゃんの教えてくれないかな」
「ああ、そうですね。私もサツキさんの職業聞いてなかったわ」
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