第189話

 翌日から私たちは本格的に邪竜退治に向かう準備をすることにした。

 朝食に降りたリビングで、サツキさんに声をかけられる。


「ありすちゃん、こんなにゆっくり眠れたの久しぶりだったわ、ありがとう」

「よかったです。布団の硬さとか好みがあったら教えてね。色も自由自在ですよ」

「サイコー……」


 はぅぅと呟くサツキさんは、美人なのに漂う残念感のギャップが激しいお姉さん。ゆっくり休めたようでよかった。

 こちらに来た時に着ていた服は、少々痛みが激しかったので一旦預かってリフォームさせてもらうことにした。

 今は紺のワンピースを着てるんだけど、これじゃあ戦えないよね。その辺も後で相談しよう。


「さてみんな揃ったところで、食事しながら話そうか」

杉原さんが食卓を整えながら話し始める。今朝はパンとコーンスープ、ベーコンエッグとオレンジマーマレードただし『の、ようなもの』この世界での名前は別にある。


「まずはどうやって邪竜の元まで行くかってことなんだけどね、ここからざっと一万キロってとこかな」


 上条さんが空中で何かを操作してる。マップを見てるのかな。

 セントリオと比べると領土だけは広いって話だったけど、それにしても広すぎないですか?


「途中に川や湖、森に山と、景色だけはすごいぞ」

「飛行機があればすぐなんですがね」


 その景色を見てきた杉原さんと、見なくてもいいからさっさと行きたいと言う圭人くん。確かに東京からフランスくらいの距離だものね。飛行機欲しい。


 そう簡単には行かないけど移動方法を考えた時に、現代日本で生きていた私たちが車って思うのは当然のこと。

 この世界にはない技術だけど、燃料として魔石を使えば空気を汚すこともないしエコじゃないかな。構造が大体わかれば創造で作ることができるし、わからないことがあってもなんとかなる。ぶっちゃけますと機械部分がなくても創造で作ったものは動くのです。謎技術です。

 構造がわかって精密に作ったもののほうが、誰でも使えて魔石の消耗が押さえられるってだけ。

 それではどういう形にしようかなんていいながら大体こんな感じと絞ったのがトラック、4WD、セダン、バン、キャンピングカー。それぞれの利点と欠点を挙げつつ、話は進んでいたのだけど。


「でも、万が一でも人に見られると面倒なことになりそうよね」

「確かにそうだな、権力者に見られたら困る」


 光里ちゃんの意見ももっともだと頷く圭人くんと私。この世界の移動方法は歩きか馬車だものね、そこに車はかなり目立つと思う。


「どうしようね。いっそすごいスピードが出るようにして誰も追いつけなくしちゃうとか」

「ありすちゃん、結構過激? そんなところも可愛いけど」

「サツキ、手が伸びてるぞ。大人しくしてろ」


 悩む私にサツキさんの手が伸びてくるのを感じて、頭をさっと押さえた。髪の毛がふわふわだから触りたいらしいです。ジェイクさんは最初からサツキさんを押さえていてくれるとありがたいな。


「君たちは本気でそんなことを言ってるんですか?」

「魔法を理解してないな、お前ら」

「ここには結界が使えるありすと、賢者が二人もいるのにねぇ。嘆かわしい」


 夕彦くんと杉原さん、上条さんがはぁとため息をつきながら口々に呆れた声。

 順調にテーブルの上の料理は無くなっていく。そろそろ食後のお茶を用意しようかな。

 

「どういうことかな、魔法でなんとかなるのかしら?」

「まずありすが結界を車の周囲に張って、俺と夕彦で二重の認識阻害をかける。一人よりも強力になるし属性の違いがあるからね。ついでに風魔法を纏わせたらスピードアップになる。これでなんとかなるはずだよ」


 首を傾げていると上条さんがあっさり正解を教えてくれた。要するに周りから見えないように徹底的に隠しちゃうわけね。確かにそのほうが安全そう。


「それなら車体は大きくても大丈夫ですね。乗り降りの時だけ気をつければ認識されなかったら移動中は気にしなくていいってことだし」

「ありす! キャンピングカーにして中を広くしよう!」


 圭人くんがなんだか興奮してる。キャンピングカーで長距離移動はドリーム詰まってるものね。


「いいわね、大勢乗れてキッチンにオーブンがついてるやつ。憧れだったのよね」

「自動運転も付いてたら僕たちでも運転席に座れますね」


 好きな内装、オプションだっていくらつけても大丈夫! 

 みんなに好きなことを言ってもらって夕彦くんにメモを取ってもらい、それを纏める。

 ジェイクさんには豪華な馬車だと説明して、あると便利なことって何かを聞いてみた。

素材はたくさんあるし、イメージも固まった。

「よーし、張り切って作りますか」



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