第188話
「そもそもだ、どうしてその館に行ったんだ?」
上条さんはその館の人が怪しいって知って行ったのだろうけど、どうしてそれが分かったんだろう。杉原さんもそれを尋ねている。
私は立ち上がり、みんなの飲み物を入れ直した。アイスティーにミントを浮かべてさっぱりと。喫茶店で出てくるような容器でパッケージされたシュガーシロップは砂糖を材料にして創造で作ったの。材料があったら食品もすぐできるのは便利。
木や土を材料に食べ物はできるのだろうかと検証したら、食べられないことはないけど味がなかった。これが肉桂のようにスパイスとして使われるような木だったら違ったんだろうな。
上条さんがゴクゴクとアイスティーを飲んで、プハっと言いながらグラスをテーブルに置いた。そして、深呼吸してから話を続けてくれる。
「もともと俺は、邪竜を魔王に変えようとしてる奴の正体を探りに西の国まで行ったんだ。こっそりでも良かったけど、偉い人と会っておきかったからセントリオの宰相という地位を利用させてもらってね。王が紹介してくれた人がサグレットという領主が怪しいって教えてくれたんだ」
上条さんはウィスタリス王と会って『おはなし』をしたというけれど、どんな内容だったのかは教えてくれなかった。なんだか楽しそうな上条さんを見て、複雑な表情をしているのは杉原さん。
「また相手の胃を壊すような外交したんじゃないだろうな」
「あはは、人聞きの悪い」
「その場にいなくて良かったよ……」
げんなりしている杉原さんは、上条さんの『おはなし』が苦手みたい。
上条さんのところでお世話になっていた時には、そういう面は見れなかったなぁ。結構気を使われていたのかしら。修行自体は大変だったけど。
「とりあえず今のところ分かってるのは、ウィスタリス王はこの件に関わっていないこと、サグレット侯爵とセントリオのグルブ伯爵が手を組んでよからぬことをしでかしそうなこと。魔素を集めるために人から吸収して、街ひとつ分の住人が消えたこと」
「それって!」
住人が消えたと聞いて顔色を悪くしたサツキさんが叫んだ。目の前で魔法陣に吸われた人を見てるんだもの、その怖さは直接見ていない私にはわからない。
そんなに大勢の人が犠牲になってしまったの?
そこまでするようなことってなんだろう。
「許せないだろう? だからね、さっさと邪竜を倒しに行こう。魔素の送り先がなければ人が犠牲になることもない」
私たちは無言で頷いた。
さっさと倒すなんて、そんなにすんなり行くのかどうかはまた違う話だけど。
あれ、ちょっと待って、魔王って杉原さんと上条さんが倒してるんだよね。それに私たちは四人だし、もしかして結構強い?
「俺とサツキも同行していいだろうか?」
ジェイクさんの申し出は私的にはとても嬉しい。サツキさんとももっとお話ししてみたいし、私は生活面で役に立てることもあると思うの。服とか、小物とか色々ね。
「ジェイク、私たちじゃ足手纏いにならないかしら」
「君たちなら大歓迎だよ。むしろ俺の方からお願いしたいくらいだ」
「上条が言うなら間違いない。一緒に行こう」
こうして、四人から始まった旅は、気がついたら八人に増えていた。
仲間も増えたしということでまずは小屋、と言うよりもう『家』の大きさになってしまったなと思いつつ、大改装をすることになった。それぞれの好みやアイディアを出してもらって大体の構想を練る。
広めにとった玄関は小さいベンチが置いてある。これはブーツなどが履きやすいように。シューズボックスは元々大きかったから変わらず。
玄関から一段上がってすぐにリビング。広さは30畳ほどになった。
アイランドキッチンにつけてみたオーブンは、昔カタログで見て憧れたもの。電子レンジは必要ないの温かいものは作ったらすぐにストレージに入れることができるから。
ダイニングセットも一回り大きくして、ソファの数を増やした。本棚は壁に埋め込むようにして作ったから邪魔ではないはず。
リビングを抜けたら男女に別れた広めの浴室、三人くらいなら同時に入れるよ。私はたまに光里ちゃんと一緒に入ってた。
その奥に階段。そうです、二階ができました。
リビングを挟むように八室というのもねぇということで二階に。四室づつ廊下を挟んで向かいになるように作ってみた。
広さは六畳ほどで、シャワーとお手洗いが付いている。備え付けのベッドと机、カラーボックスが二つ置いてある。レイアウトは自由に変えられるし色も私に言ってもらえれば自由自在。
快適さを上げるために頑張る私、なんだか張り切るところが違う? と聞いてみたら、圭人くんに無言で頭を撫でられた。
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