第187話
自分を抱きしめて肩を震わすサツキさんの小さな背中を、ジェイクさんが大きな手のひらでそっと撫でて落ち着かせている。
ジェイクさんの無骨な優しさが、なんだかとても嬉しくてそこまで思われてるサツキさんが羨ましい。よかった、サツキさんはこの世界で一人じゃない。
私たちは誰も一言も話さずに、ただ二人の様子を見ていた。
「体内を巡ってる魔素が目当てなんだろうな、だから吸い取られて干からびたんだ。そこまで知れば後はもう逃げ出すしかないと思って、俺はサツキを抱えて外に出ようとした。でも他にも奴らの仲間がいて俺たちは捕まっちまったんだ。しっかり剣で応戦したし、サツキも戦ったんだが多勢に無勢だった」
「その時、外から綺麗な格好をした人が入ってきて何かを大声で話してからバタバタしだしたのよ。館の人たちはかなり慌ててるようだった。魔法陣は消されて、私たちは縄で縛られて地下室に入れられたの」
地下室といっても牢屋みたいな感じではなくて、普通の客室のようだったと。ただし外から鍵をかけられてしまい逃げ出すことは出来なかったのとサツキさんは言った。
「多分俺が訪問したせいだろうな、それ」
街の食堂でサグレット侯爵が権力に弱いという噂を聞いて、冒険者のふりをして潜入するよりも大国の宰相として訪問することを選んだと、上条さん。
セントリオの宰相として、国王から託された身分証明の魔道具はいつでも携帯しているから本物かどうかなんて確かめるまでもない。すぐに領主である侯爵自身が接見することになった。
「本当に助かった。賢者シズルがいなかったら俺たちは今ごろ干物にされていただろうな」
「その後も含めて本当に命の恩人です」
「たまたまだし、そんなに気にしなくていいよ。君たちが捕まってるなんて知らなかったから偶然でも助けられてよかった」
どうやって助けたんだろう、ジェイクさんとサツキさんは上条さんをキラキラした目で見てる。
目の前で人が萎れるのを見たら、怖いのは当たり前かも。
「どうして地下にいた二人を発見して、助けることが出来たんですか?」
夕彦くんの問いに、上条さんは微笑みながら答える。
綺麗なんだよね、お顔が。正直、テレビの俳優さんやアイドルでもここまで綺麗な人はいないくらい。これで性格が顔に合ってればと思うけど、そうだったら行き辛い人生だろうなと思ってしまう。
「館に入った瞬間、強い魔法の気配を感じたんだ。この時に、俺は失敗してしまったんだよな。そこで表情を変えてしまった。そしたら周りにいた奴らが一斉に襲いかかってきてね。まあ、全員眠ってもらったけど」
眠ったというのが、倒したという意味なのか、実際に睡眠の魔法なのかがわからないのが怖いところ。
「サツキが、いい人の気配がするっていうから、いくら地下でも大きな音を立てれば気がつくかと思ってドアを蹴ったんだ」
「その音が聞こえたから館を探索してね、その時には君たち以外領主を含めて全員眠らせちゃってたからゆっくり地下に行ったわけ」
いい人の気配ってなんだろう? サツキさんのスキルかな、でもまだ聞けないか。あとでステータスを見せてくれるようにお願いしてみよう。
上条さんは地下で二人が閉じ込められている部屋を見つけて、鍵を魔法で壊した。
「自己紹介でもしようかと思ったら、睡眠耐性が強いやつがいたのか俺に襲いかかってきたやつがいてね。魔法も飛んできたからやばいと思って杉原のところに転移してきたんだよ。ああ、離れたPTメンバーを座標にして飛ぶのは便利だから覚えておくといいよ」
光里ちゃんがこくこくと首を縦に振った。
夕彦くんが難しい顔をしながら、上条さんに聞いた。
「じゃあ、上条さんはそこで何が起きてるかわからなかったんですか?」
「いいや、街の噂、魔法陣、そこで使われた魔法と彼らの話。総合すれば何が起きたのか解けたよ」
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