第182話

 「俺の剣は、勇者だったときに作った魔王を撃った剣ではないけれど、邪竜を討伐するために作った光属性に特化したものだった。それが見事にパッキーンと真っ二つ。飛んできた刃が俺の足スレスレに地面に刺さった時は冷や汗が流れたぜ」

「そんなに硬いんですか、竜の鱗って!」


 圭人くんが小さく叫ぶ。

 うげとかいうの、朝ご飯の最中だからやめた方がいいよ。


 杉原さんとしても自慢の剣だったから、折られてしまったのはかなりの衝撃だったそうです。

 竜の鱗はダイヤモンドよりも硬く、弱点を正確に突かないと倒すことができないっていうのは知っていたから強い剣を作ったのに、魔王化して硬化した鱗は竜を切れる剣を折ったって。

 聖剣はどうだったのかなと聞いてみたら、魔法剣士が倒れた時点で詰みだから、退却を選んだそうです。あと、勇者スキルが消えてしまうと聖剣の威力を全て発揮することができないって。


「レベル上げ、しよう」


 モグっとパンを齧りながら言っても、迫力なんてないね。

 杉原さんの話を聞いて怖くなってしまったけど、今更逃げるわけにはいかないし逃げる場所もない。だったらガンガンレベルを上げて力技で勝つしかないよね。

 それにしてもこのパン美味しい。


「ありす、RPGと違うのは理解してるよな?」

「相手のレベルだってわからないし、わかったとしてもボスクラスなんだから普通の強さじゃないのよ?」

「次に来るスキルが使えるとも限りませんよ?」


 三人とも私が何を考えてるかわかってるみたい。安易すぎるかな、やっぱり。

 サラダをしゃくしゃくと食べながら思考を巡らしてみるけど、良い考えなんてすぐに浮かばない。


「わかってるんだけど、何かしないといけないような気がするのよ」

「それは良い心がけだな。よし、今日から森に入って特訓するか。ありすのペットのエリックも一緒に鍛えよう」


 私の決心が鈍るような良い笑顔の杉原さん。

 熱血指導が待っていそうで、ちょっぴり怖いかな。

 エリックのご飯はお魚がメインなんだけどこの国では満足に食べられないから私が作ったご飯をあげている。基本的に雑食みたいね。

 小屋の中だと飛べないから、あまり遠くに行かないように言ってから外に出している。夜は小屋の屋根の上で寝ていたみたい。

 

「ほらほら、さっさと食べて森まで急ごう。この国の街はこの際諦めような」


 杉原さんがすごい勢いでパンを齧る。

 圭人くんは食べ終わって炭酸水をごくごくと飲んでいる。その勢いで飲んでよく咽せないなって感心してしまうのだけど。


「でもでも、オシムくんとの約束は? マルコットさんにも頼まれてますよ。コットンを売り込むようにって」

「売れるかわからないぞ? この国、金がないからな」

 

 魔素不足で何もかもが足りない状態のこの国。主食の穀物類がまともに育たないために他国から商人を通じて輸入するしかない。


「ぼったくられるわよね」


 光里ちゃんが手元のパンを見つめてる。ふわふわふかふかの白パン。

 塩分が効いていて、味のバランスがとてもいい。私たちは一年分くらいのパンをストレージに収納済み。


「それは、そんな商人優位な状況だったら仕方ないですね」

「それじゃあ街や村に行ったとしても満足に飯が食えないかもな」


 そして、本当にその日から始まった特訓。

 鍛えられ、少しづつ強くなっていく私たち。

 森の中で安全地帯を作って夜はそこに出した小屋で眠り、昼間の明るいうちに魔獣を狩って経験をあげる。肉は食用に、皮は加工するためにストレージにいれる。

 創造を使えば皮を鞣すのも一瞬でできるからいいね。


 こうして二週間。私たちのもとに、突然彼らはやってきた。

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