第181話
北の国ノイチラスは大陸の三分の二を占めている広大な領土を持っている。
それでもそのうちの大半は人が踏み入れられないような山脈や、災厄とも称されるような力を持った魔獣が蔓延る深い森なので、人間が暮らせるような場所はセントリオと同程度かそれよりも少ないだろう。
元々は小さな国に分かれていただけあって一つの大きな国になっても地方の違いは埋まることなく、言語すら共有していない国はいつでも内紛の危険があった。
セントリオから続く山脈を抜け、最初の街でトラブルに巻き込まれそうになり五人で全速力。
北へ北へと走って二つ、三つの村を横目に、地面を均したあとがある拓けた場所で小屋を出してようやく一息つくことができた。
街道はセントリオと比べたら随分お粗末でガルデンの街道がひどく荒れ果てていると思ったけれど、それより酷い。
石畳もなく、馬車が通った跡の細い轍だけがそれを道だと教えてくれる。
セントリオから竜の山脈を通ってきて平地を進む。
東側には流れている細い川は雨季になると幅も広がって急流になるそう。その向こうには高い山が連なっていて、この国から直接海に抜けることができない。
海路が使えないこの国は他からの文化がそれだけ届かなくて、閉鎖的になってしまった。
小屋では一人一部屋だし、ベッドでゆっくりと寝ることができる。テントだとどうしても何か違うのよね。それでもみんな朝食の時間にはしっかりと起きて食卓を囲む。
「おはようございます」
「夕彦くんおはよう、ほらほら席ついて」
私が引いた席にぽすんと着席する夕彦くん。
部屋着はそのまま外に出ても大丈夫なジャージっぽい上下。
「ふぁい……」
一番最後に部屋から出てくるのはいつも夕彦くん。無理しないでもう少し寝てていいよって言うんだけど、決めた時間に起きないとズルズルと生活がずれて体調を崩してしまうって。
でも、まだ眠いのかあくびをしながら目を擦ってる。
規則正しい生活をしようなんて誰も言ってないのに、リズムを大事にするのはいいことだね。
「夕彦、ほら」
「ん、ありがとう」
スープの入ったカップを配る私と、パンとジャムをお皿に盛り付ける光里ちゃん。
その間に圭人くんが野菜をそれぞれ配って、杉原さんがお茶を淹れてくれる。
夕彦くんは頑張ってしっかりと起きてください。
朝はいつもこんな感じ。
朝ごはんは白パンとスグリのジャム。それと短いパスタが入ったミネストローネ。茹で野菜は南瓜、ジャガイモ、ほうれん草。どれも地球とそのまま同じじゃないけどかなり似てる。飲み物は炭酸水とお茶。こちらの作物にもだいぶ慣れたね。白い人の地球好きなおかげで植生が似てるから助かる。
「あー、もう! この国に長くいるのなんだか嫌だから邪竜をサクッと倒してしまいたい。杉原さん、私たちのレベルで行けませんか?」
光里ちゃんがパンにジャムを塗りながら杉原さんに問いかける。ふわふわの白パンに酸味のあるジャムをつけると美味しいんだ。
「辿り着くまでに森を進むんだが、そこの魔獣がな。かなり強いんだ」
「杉原さんが強いって、どんなですか」
強いと聞いて興味を持ったみたい。圭人くんが少し身を乗り出した。
「ノイチラスで雇った冒険者と6人PTで行ったんだが、途中で崩壊状態になってな。邪竜の元に辿り着いた時、まともに動けるのは俺ともう一人、魔法剣士だけだった」
「戦闘の途中で、敵が進化したって」
「ああ、邪竜の眼が閉じたと思ったら、いきなり周辺の魔素がごっそり減ってな。それで魔法剣士が倒れて、俺も使ってた剣を折られて退却することになったんだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます