第183話
「右だ! 圭人!」
杉原さんの言葉に素早く反応して両手で構えていた剣を右手だけに持ち替えて、死角を狙って飛び込んできた猿に似た魔獣の首を一刀両断する圭人くん。
引きながらもう一体。素早さなら多分魔獣の方が上だけど、圭人くんは気配察知と戦闘の勘を研ぎ澄ませて気を読むことで反応速度を上げている。
「うっす! キリさん、そっちにも行きますよ」
「おうよ!」
「二人とも危ない! 油断しないで」
杉原さんと圭人くんの上から降ってきた大型の鳥魔獣を、光里ちゃんが飛んで、斬った。
光里ちゃんが左側の翼を根元から落とし、魔獣の本体が地面に落ちたところを私が突き刺す。その間にも魔獣の断末魔は続いている。
後方では夕彦くんが木に擬態した魔獣、ゲームの世界ではトレント系なんて言われてたやつを主に攻撃していた。
炎に弱いことはわかっているんだけど、森の中で火をつけるなんて怖いことはできないので使うのは風魔法と水魔法。斬って包んで砕くという感じみたい。
「ありす、素材の回収もお願いします。木はこれから大量に必要になりますよ」
「了解! でもなんで?」
「国が安定したら、人は定住したがるものだから。家をたくさん作ることになります」
トレントは核と呼ばれる中心にある白く光る魔石を砕くと、普通の木みたいに動かなくなる。
こうなると素材として回収が可能になるから、それをどんどん集めていくの。
なぜか動いてる時よりは小さくなるんだけど、こうやって動かなくなっても普通に巨木と呼ばれる大きさなので使いやすい大きさにカット。
創造を発動させながら目の前の木に触ってストレージに入れていくと、思い通りのものが集まるのがわかる。
こうして戦闘訓練という名の魔獣狩りは続く。狩った魔獣は今夜のメインになるからみんな必死。肉があるかないかでモチベーションも変わるよね。
あ、食べられない肉は皮をもらうだけにしているよ。
残りは素材。魔獣は魔素の塊だからいい肥料になるのよ。
「よし、これくらいにしておくか」
杉原さんがぶんと剣を振ると、魔獣の血と脂がぴぴぴと地面に飛び散った。それを見た光里ちゃんがすかさず浄化をして痕跡を消す。
「あー、もう、浄化かけるから振っちゃダメって言ったでしょ」
「すまん、つい癖でやっちまうんだよ」
光里ちゃんと杉原さんの掛け合いはここ最近のこと。杉原さんにとって私たちが弟子じゃなくて仲間になってきた感じかな。私たちも、師匠っていうより親戚のお兄さん的な感じになってる。
ところで、魔獣の血は栄養がありすぎるから残しておくと次々とトレントや他の魔獣が発生してしまうのです。だから地面は綺麗にしないといけないの。
「さっさと帰りましょうよ」
「そうだな、あー、腹へった」
「トレントを、もう少し減らしても良かったでしょうか」
「夕彦くん、今の材料だけで街作れるからね」
落ちている素材はないかと確認をしつつ光里ちゃんの元へ集まる。
転移で小屋を置く場所に移動するから。剣を拭いたりは小屋に戻ってからすればいいし、浄化を光里ちゃんと夕彦くんで戦闘をしていた範囲にかける。
「ん、ちょっと待て! 来る!!」
そう叫んでピタッと杉原さんが止まったと思ったら、私たちから離れてトレントが多くいて、そこだけ半径10メートルの広場になってしまった場所にだっと走った。
それは、空間の揺らぎ。
転移のこちら側にいたのは初めてだったから新鮮な光景だった。
そこに現われたのは、知ってる人が二人と、知らない人一人。
っていうか、上条さんはわかるんだけど、他の二人はどうして??
「ふぅ、やばかった。君たち、大丈夫?」
「おう、助かったぜ、賢者様」
「は、はぅううう。なんなんです? ここどこですか?」
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