仲間と変化
第178話
ここは北の国だけあって、セントリオに比べ肌にあたる風が寒い。
私が走っているから余計にそう感じるのかと思ったけど、走って体温上がってそれでも寒いんだから気温のせいだろう。
きっと流れる景色もまるっきり違うのだろうけど、今はそれを楽しむ余裕なんてない。
「ありす頑張って!」
「うん、大丈夫だよ。着いていけてる」
光里ちゃんに励まされながら、私は荒れた街道を先行して走りながら剣を振るう圭人くんと杉原さんの背を追いかける。
痩せた魔獣は命を繋ぐために必死だ。でもこちらだって負けるわけにはいかない。
夕彦くんも私と同じくらいのスピードで隣を走ってくれている。時々剣を持つ二人に支援魔法を打ってるから余裕あるみたいですが。
靴を冒険者が使うような革靴の外見をしながら、陸上で使うような軽さと走りやすさを追求したようなものにしてあるし、この世界でレベルを上げた私のステータスは陸上金メダルの人より、ううん、はっきり言うとどんな地球人よりも早いよ。
この靴は山を降ってすぐに履き替えた。
もしかしたら悪人だらけの街かもしれないから、いざっていう時に転移が間に合わなかったら走って逃げようっていうことになって、どんな靴を作るってことになった時。
圭人くんと杉原さんと夕彦くんが、ああでもないこうでもないと意見をすり合わせてできたのがこちらの逸品になります。
なんて商品を紹介してる場合じゃなかった。
「それにしても、結界の魔道具であんなに目がギラギラするとは思わなかったわ!」
「魔素が減るって怖いのね」
「スピードが落ちてないのはさすがですが、光里とありすは呑気すぎます。あれは一つだけ領主に売りつけてあとは他の街に売り込みに行こうとしたんでしょうね」
リッツアの街の冒険者ギルドで夕彦くんがギルド長相手に交渉をしてくれて、結界の魔道具を領主へとお願いする段になってから様子が怪しくなった。
私がリュックから出した魔道具を見たギルド長が、あと十個はほしいなんて言い出して、夕彦くんが理由を尋ねると口を濁した。
信用できないからと魔道具を仕舞ったら冒険者に立ち塞がれて、圭人くんが剣を抜こうとしたところを杉原さんが止めて、冒険者の隙をついてこうして走ってる。
「あの街の結界は結局あのままね」
「しょうがないわ、ギルドがあんなにダメってことは、領主はどうだか。少なくとも自分だけを守るような領主だしね」
辛辣な光里ちゃんの言葉だけど、そうなんだよね。あの領主は自分の館はしっかりと守ってた。あのままもし街が襲われたら結界がないのを知らない街の人はひとたまりもないのに。
きっとそれを知る人は、あの街に住んでいない。
「このまま行けるとこまで移動して落ち着こうぜ。もう追っ手も来ていないし」
少し大声で杉原さんが言う。了承してちらっと後ろを見た。
さっきまで追いかけてきていた冒険者はどうやら撒いたみたいね。
「あと一、二時間は走れそうよ。広い所に行ったら小屋を出してゆっくりしようね」
「そうね。夕彦も大丈夫?」
「もちろん」
ところどころ石が剥がれて歩きにくさを増している街道。
きっと造られた時は石が引かれた綺麗な道だったはずなのに、戦闘の後なのか通る馬車が多すぎるせいかところどころ剥がれてそこから雑草が伸び、つまづく原因になっている。
「冷えるね、お風呂入りたいな」
「そうね、柚子湯とかいいわね〜」
「それはいいね、入浴剤作ってみようか」
マラソン以上のスピードで走りながら、延々と会話をする私と光里ちゃんを見て、夕彦くんが呆れてた。
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