第179話
国境の街から荒れた草原を抜けて小さな林をいくつか突っ切り、マップを確認しながら北へ北へ。
気温は少しずつ下がっていって、今は体感で10度くらい。これ以上寒くなる前に装備を整えないといけないね。
後方の街はとっくに見えない。いくつか横を通り過ぎた村もあったけど、ゆっくり観光するよりも戦って邪竜に備えたほうがいいという意見でまとまった。
「よし、ここらで一休みするか。ありす、地面を均したら小屋を出してくれ」
「はい、了解です!」
夕彦くんが土魔法で地面をサーっと平らに均してくれるのだけど精度が上がっているから、まるでコンクリでも流し込んだかのように綺麗。
だいぶ大きくなって外観も変わった小屋をそこに出し、扉を開く。くすんだ緑の屋根から蔦に似せた緑の網を絡ませてグリーンカーテンを作っている。植えているのはゴーヤときゅうり。食べたいときは光里ちゃんにお願いするといつでも食べごろが収穫できるよ。
オーク材っぽい木目が綺麗で薄い色合いの玄関には浄化魔法を組み込んでいるから、入るだけで全身ピカピカ。
以前無かったシューズボックスに履いてた靴を入れてスリッパを履く。
入ってすぐのリビングキッチンは広めに20畳ほどのスペースをとってる。個人の部屋があるのにみんな寝るギリギリまでここで集まるから、過ごしやすいように整えることにしたの。
ウォルナット材っぽい濃い褐色の木材で作った家具で揃えたダイニングセット。
それとは別に本棚の前に三人掛けソファも置いてある。
テレビはないからせめてと思って作った本棚には、想像で作った本がぎっしり詰まってる。
私が読んだ本だけじゃなく、触れただけの本が作れると気がついたのは夕彦くんだった。
そして私は、中高と図書委員をしていたのです。本の整理で図書室にあった全ての本に触れていたのは良かったわ。
「ふぅ、落ち着いた」
光里ちゃんが甘いお茶を飲んでしみじみというのを、私はこくこくと頷くことで同意した。隣では圭人くんも同じような仕草。
「それにしても、なんなのでしょうねこの国の人は。奪うことを日常にしているのですか?」
夕彦くんが少し怒ってる。交渉スキルが発揮されることもなく、いきなりその場の責任者から問答無用であるもの全て出せだものね。それは怒って当たり前か。
「北はな、元は小さな国の集まりだったんだ」
杉原さんが、お茶で喉を湿らせながら私たちの知らない話を教えてくれる。流石に、杉原さんがこちらに召喚される前の時代のことだけどって前置きがあった。
「北の土地は魔素は潤沢だがその分人も魔獣も好戦的で土地が荒れていて、その中でも戦闘に長けたものは移動しながら領土を増やして奴隷を作って国を大きくするというのが一般的だったそうだ。だから小さな国がいくつもできて、領土を宣言しては攻め込まれて奪い奪われ」
「なんですかその戦国時代的な状態」
圭人くんが思わずツッコミを入れる。それって日本の安土桃山時代的なこと?
「まあ、世界史を見たって似たようなもんだ。それが不味かったのは、この世界は魔法があって、魔法を使うと魔素が消耗されるってことだ」
「土地は痩せて人は増えてって感じかな」
「戦闘が続くと澱んでいくしな。それで、悪い気ばかり溜まって魔王が生まれた。だが、この世界の神が勇者を召喚して魔王を倒し、その勇者からも魔王の亡骸からも魔素が溢れて土地が一気に潤った」
気力がなくなったままだったら大人しかった北の国の人たちに、エネルギーを与えちゃったのね。うわ〜。
「そこで今度は他の国にも領土を広げようとして西の国に目をつけた。中央のセントリオは当時すでに大国だったから手が出せなかったんだろうな。西の国は情報を外に出さなかったからちょろいと思ったんだろう」
「それで、どうなったんです?」
お茶菓子として出した芋けんぴをポリポリと齧りながら聞く光里ちゃん。すっかり杉原さんの話が娯楽化している。
「まあ結論から言うと、引き分け」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます