第177話

 多分、すごく優しくて心配性なんだろうなとヨアヒムさんについてはこの際考えないようにしよう。だって、もらったスキルは返せないもの。


 私たちは次の日にヨアヒムさんの村を出発して、北の国への旅を再開した。

 その際にも果物や木の実をたくさんもらってしまったのだけど、こちらは全員ストレージ持ちであるからして、腐らないのをいいことにあげると言われた分全部いただきました。

 そのお礼というわけではないけれど、一緒にジュースと混ぜると美味しいですよと炭酸水の出る水筒と、光里ちゃんと私が作った料理を少しあげたらとても喜んでくれた。

 最後まで、気をつけろよって手を振って見送りながら心配してくれたヨアヒムさんはとてもいい竜。

 こんなふうに人が好きな竜ばかりだったら良かったのにな。

 もしかして邪竜になっちゃった竜も人好きだったから人里のそばに住んでて、近くでたまたま戦争が起きて闇を取り込んじゃったのかな。そうだとしたら切ないわ。


「丸一日歩かないと二日分鈍るというのが地球での山の常識だったんだがな。異世界凄いよなぁ。とりあえず最初はペースを取り戻すための様子を見つつ進んでいくぞ」

「はい!」

 杉原さんの号令でまた一列になって、今度は緩やかなくだり坂の続く山道。それでも三十分も立たないうちにペースを掴んでサクサク歩けるようになった。


 途中でエリックと合流して、北の国に着くまでは一緒に行動することにした。

「エリックはずっと偵察をしてくれてたの」

「そうなのか、偉いぞ、エリック」


 圭人くんが私の肩に止まっているエリックの頭を優しく指で撫でてくれる。エリックも気持ちよさそうに目を閉じて、おとなしい。

 私の仲間は安全だということがわかってるからか、エリックは鳥なのに猫みたいにふにゃりとしてる。

 そしてまた同じような景色の山道を抜けて一週間。


 リッツア街・人口340人

 たどり着いた北の国の国境の街は人口の少なさもそうだけど、街としてまともに機能していない。

 でもそれを正しく理解できる人は数少ないだろうから、この街の住民は気がついていないのかもしれない。それとも、魔素が減るというのはこういうことなのだろうか。

 私は街の様子を見て、呆然として呟いてしまった。


「何これ」

「どうした、ありす」


 そんなに情けない声だったかな、圭人くんが心配して私の顔を覗き込んだ。

 ううん、これは驚いてしまうよ。

 だって、街なのに結界はあるにはあるという程度。


「結界が、あそこに見えるのが領主の館だと思うけど、その周辺にしか張られてないの。多分ここの領主はあれ以上の大きさの結界を張ることができないんだと思う」

「え、待って、じゃあもし魔獣に襲われたら」


 光里ちゃんが、焦って空を見上げるけどそこには何もない。

 私の目には街の一番北にある小高い場所からガラスのボウルを被せたように、街の一部分だけが結界で守られているように見えるんだけど、透明度は他の街で見た結界と変わらないけど厚みがとても薄く感じる。


「どうしよう、杉原さんこの街に知ってる人とかいないんですか?」

「ノイチラスの貴族とはあまり仲が良くなくてだな」


 杉原さんがかなり微妙な表情。

 これは、この街の領主とは関わらない方が良さそうだね。


「できることならありますよ、ありす。冒険者ギルドに結界の魔道具を売って、領主の元に届くようにしたらいいんです」

「夕彦くん、交渉お願いできる?」

「もちろん。貴族はどうでもいいのですが、住民に被害が行くのは嫌ですからね」

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