第176話
改めてヨアヒムさんがしっかり確認してみろと促してくるので、ステータスを開いてみることにした。ぽすんとソファに座り直してから、なんとなく背筋をピンとさせてみる。
圭人くんも気になっているようで、早く見てみろというような表情。表情ひとつで何が言いたいかわかるのは良かったのか、悪かったのか分からないよね。
ステータスオープンなんて言わなくてもいいんだけど、小声でぼそっと呟いてみる。そしてそこにあったのは、ティムのあとについているカッコ。
(岡島ありすと従魔契約を結んだ魔獣は超回復が付与される)
超回復って、光里ちゃんが持ってるスキルだよね、ひどい怪我をしてもすぐに回復をするの。
回復魔法を使う人が怪我をしないようにという配慮なのかななんて、このスキルがある理由を考えた。
光里ちゃんが大怪我をしたことないから、目の前でこのスキルが発動したことないんだけど。
もし発動した時にエリックの魔力が足りなかったら私の魔力を貸すこともできるみたい。エリックを心配することが少し減るのはいいけど、これってすごく珍しいスキルなのではないでしょうか。
「どうした、ありす?」
一人であわあわしている私を圭人くんが不思議そうな目で見てる。
ヨアヒムさんは果物を食べながら好々爺然として穏やかな微笑みを浮かべてるけど、私にはなんとなくわかる。あれは面白がっている顔だわ。
「ティムのところに、従魔に超回復っていうスキルがついたの」
ステータスパネルを圭人くんに見えるように開示。ほらほらというように見せると、圭人くんがちょっと苦笑い。
「まあ、回復が早くなったと思えばいいんじゃないか? ありすも自分の従魔が傷つかないなら嬉しいだろ」
「うん、そうだね。ヨアヒムさん、ありがとうございます。エリックは戦いに向いてる子じゃないから安心だわ」
そうだよね、これってエリックのためにはすごくいいスキルだわ。ヨアヒムさんにお礼を言うと、おじいさんの顔でにかっと笑った。
「おう。ところで、その従魔が戦いに向かないなら、竜のブレスでも吐けるようにしてやろうか?」
「それはいりません! エリックが強くなりすぎてもなんだか嫌だわ」
イエローシーガルのエリックが強い狼とかを一撃でなんて、怖い気がする。ああ、でもエリックは強くなりたいかなどうだろう。エリックの強さを私が決めていいんだろうかなんて悶々と考えてしまう。
「よしよしいい子だ。ありす、いいか、過分な強さは破滅を齎す。それは従魔でも同じことだ。いいか、たとえこの先従魔を強くするチャンスがあってもそうやって悩んで断れ。お前はいい従魔使いだな、気に入ったぞ」
ヨアヒムさんが子供に言い聞かせるように私の頭を撫でながら言う。圭人くんとは違う撫で方なんだけど少し安心するのはどうしてかな、うーん、おじいちゃんに撫でられてる感じ。
その姿のせいもあるかもしれないけど。
「え、もしかして、ドラゴンブレスは冗談ですか?」
「いや、ありすが望んだら付与するつもりだったが、その後お前の従魔は力に溺れて死んでただろうな」
ヨアヒムさんの瞳だけが、虹彩が、キラキラと光を纏って竜人の姿の時と同じような黄金色に変わった。
ああ、ヨアヒムさんは人間とは違う。私たちを試すことのできる『神』なんだって唐突に突きつけられた気がした。
「選択を間違えないように気をつけます。これからも」
「ああ、それがいい。お前たちには誘惑が多いだろうからな」
またおじいさんの顔に戻って、ヨアヒムさんが笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます