第175話

 竜の加護をもらって、その対応にちょっとぐったりした私たちはヨアヒムさんの村で小屋を出して数日滞在することになった。

 いえ、ぐったりしたのが滞在理由じゃなくてそれはきっかけで、その間にしたことはこの先に待ち受けてる戦闘の準備。

 今までよりも強い魔獣がいると聞いたけれど、加護もあるしスキルで有用なものが多いから防御に関しては心配することないみたい。

 だから作るのは武器。

 そして私の武器作りはちゃっかり圭人くんにお任せして、小屋のリビングでこれからの旅に必要なものを考えながら便利グッズや下着なんかを創造。ほら、女の子ですし色々あるんですよ。

 いまリビングにいるのは私と圭人くんだけ。他の人たちは外に行って木の実を採ったり材料を採取してる。

 そんな感じで細々とした生活用品を作りながら、時々従魔のエリックと話をしていたんだけど。

 むむむ、エリックったら、困ったなぁ。


「ありす、どうした?」


 うーんと悩む私に、圭人くんが声をかけてくる。

 その手には作ったばかりの白銀のレイピア。

 キラキラ光って綺麗なそれは光里ちゃん用で、つかの部分に埋め込まれた薄いブルーの宝石は魔力回復の効果がつけられているヨアヒムさん作の魔石。

 杉原さんがいい武器を作ると言ったときに、よしわかったなんて言いながらざらざらと魔石を出してくれたのは驚いたわ。

 いい魔石を使うと魔法が付与したりできるんだけど、ヨアヒムさんの場合自分で好きな効果を込めた魔石を作ることもできるんだって。それをポンポンと軽くくれるのはちょっと困っちゃうけど、この際ですから全員で甘えました。

 ヨアヒムさんの嬉しそうな顔が印象的だったな。


「あのね、エリックにこの村においでって言ってるんだけど」

「エリックとは誰だ?」


 いつの間にかヨアヒムさんが来て、私の隣にポンと腰掛けた。最初に見たおじいさんの姿なのは、村の人にあった時のためだそうです。

 イケメン竜人の姿の方がいいななんて一瞬思ったけど内緒にしておこう。

 ヨアヒムさんは小屋にはフリーパスで入れるようにしてある。私たち以外の人が入ろうとすると扉が開かない仕組みにしてあるのだけど、ヨアヒムさんなら壊せちゃいそうだし。

 作業の手を止めてアイスティーを入れる。

 気がついたらテーブルにゴロゴロと果物が置いてある。ヨアヒムさんは基本的に果物が主食らしいと気がついたのはここに着いた日の夕飯時だった。


「私の従魔です。イエローシーガルという鳥の魔獣なんですが頭が良くて可愛いの!」

「ほう、ありすはティム持ちか、珍しいな。それで、そのエリックがどうしたんだ? この付近で何かあったのか?」

「いえいえ、出発するの明日だし、それまでここに来たらって言ったのに来てくれなくて」


 私がりんごの皮を剥きながら言うと、ヨアヒムさんが突然笑い出した。


「ひどいなぁ、ありす。んー、どうやら本当に何も感じてないんだな。その、エリックだがな、そいつは俺に怯えてんだよ」

「あー、そうだろうな。俺だってヨアヒムさんがここに入った時点で全身の毛がブワってなった気がしたのに。まあ誰かわかってるからそれ以上はないんだけどな」


 圭人くんがレイピアの出来を確認しながら話に入ってくる。それにしてもどういうことだろう、私って鈍感なのかなと心配になってしまう。


「まあここに呼ぶのは諦めろ。エリックの方がかわいそうだ」

「わかりました」


『エリック、明日出発だからそれまで自由にしててね』

『了解! ありす、竜に食べられないでね!』

『ヨアヒムさんは人を食べないよ? エリック気をつけてね、北の方が魔獣強いんだって』

『大丈夫、何か来たら逃げるよー』


「エリックは逃げるっていうけど、強い魔獣が来たら心配だわ」

「ふむ。よし、ありすを通じて力をやろう」

 

え、

断る間もなくヨアヒムさんが指を振る。

ステータスを見ると、ティムのところに何か増えてるよ。

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