第174話

「俺が送るのは却下されちまったからなー、お前たちが無事に北の国に着くようにありがたーい俺の加護をやろう。だから、あの野郎をしっかり倒してくれよな、頼む」


 ヨアヒムさんにそう言われた途端、全身が炎に包まれたようにカーッと熱くなった。

 でも、その熱は痛みとか辛さではなく、心地いいと思える感覚。それと同時に心を締めるのは不思議な多幸感。

 ステータスを見たら、竜の加護というスキルが付いている。

 効果はなんだろうと鑑定しようとしたらその前に、杉原さんが叫んだのでやめた。


「ヨアヒム! こんなやばいもん、人間につけるな!」

「えー、だってキリの仲間だろ。これくらいつけてもいいって信用してるぜ」


 正直、竜の加護がどのくらい凄いことなのかピンとこない。でも、杉原さんの驚き方を見ているとちょっぴり怖いんですけど。

 なんて、私はずいぶん呑気だったみたい。

 みんなはどう思ってるんだろうなんて見回したら、圭人くんは頭を抱え、光里ちゃんはすごく難しい顔、夕彦くんなんて青ざめている。


「信用はありがたい、だが、こいつらはまだ成人もしていない子供なんだ。できたらがっつりレベルを上げるのも成人後にしたいと考えてる。子供のまま不老不死なんて冗談じゃないからな」

「杉原さん……」


 そこまで考えてくれてたんですねと、少し感動した。

 確かに、レベルが上がったら杉原さんと同じスキルがつくような予感がするのよね。

 どうもあの白い人は、この世界に私たちを長く留まらせたいんじゃないかなって想像している。私たちがいればその分魔素が循環するらしいですし。


「だったらちょうどいいじゃないか。それまでしっかり育てよ。ほれ、たくさん食え」

「おい、ヨアヒム。それにしても竜の加護はやり過ぎだろう。なんだこれ」


 自分についたスキルを鑑定してみる。


 竜の加護・状態異常全防御。


「これから戦うのは邪竜だろう? それにあいつに引き寄せられて、その周囲に強い魔獣なんかもわらわらしてるはずだぜ。だから、できる防御はありったけした方がいい。おいお前、結界が使えるんだろ? ちゃんと仲間を守ってやれ」

「はい!」


 ヨアヒムさんは、優しい目をして私にそう語りかけてきた。変だなヨアヒムさんの方が白い人よりよっぽど神様っぽいんですけど?


「なんだか、ヨアヒムさんの方が神様っぽいわ」


私の心を読んだのか光里ちゃんが呟くと、ヨアヒムさんが笑った。

でもそれはおかしいからじゃなくて、半分当たってるという驚きの笑い。


「俺たち竜はな、神のかけらってやつを持ってるんだ。やろうと思ったらこの世界を作り変えることもできる。それだけの力を持ってるからな。だが全能であるがゆえに何もしない」

「魔王がいても何もしないんですか? 困ってる人がいても構わないと?」


 夕彦くんの疑問は最もだよね、今までだって何度か魔王がいてその度に私たちの世界から召喚されて、倒してを繰り返してるんだし。


「キリはエアーの恋バナは知ってるんだっけ」

「ここにいる全員知ってます。私が始まりの聖女から話を聞いたので」


 直接始まりの聖女クリアレスから聞いたのは光里ちゃんだけど、私たちも話を聞いたから知ってる。


「魔王がいないと、地球から勇者を召喚する理由がなくなる。そうするとエアーがめんどくさく落ち込むんだ」

「やっぱりあの白い人が全ての原因じゃないですか!」


 恋したり落ち込んだり、なんて面倒な創造神なんだろう。っていうか人間臭くて親しみ半分、それじゃダメじゃないのと戸惑い半分。


「エアーにいなくなられるとこの世界そのものがなくなっちまう。だから魔王出現と勇者召喚はあいつのガス抜きみたいなもんも兼ねてるんだ。すまんな、神の落とし子たち」


白い人って、ちょっと困った神様ね。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る