第170話 閑話・西の国にて 2
玉座の間には王と近衛兵が三名。それと数名の貴族。
事前にアポイントメントをとっていたにもかかわらずこの数とは、他国に興味がないのかそれともここにくることも出来ぬほど弱っているのか、少なすぎる見物客に上条は思考を巡らす。
玉座の大きさと対比して王の体の小ささがより目立つ。
虚勢を張るための体を大きく見せるために作られた衣装。首の細さがいっそ哀れを誘うものだ。
「その前に、王よ、少しいいでしょうか」
スッと立ち上がる上条に王よりも周りのものが警戒を強めた。玉座の近くに控える近衛が、腰のものを確認する。
「よせ、お前たちが束になっても叶うお方ではないぞ。それに私を害するのであればすでにこの命ここにあろうはずもない……、コホッ、ぐ、」
咳き込み、緩く体を折り曲げて胸をさする王を、上条は痛ましげに見る。
声に魔法を纏わせ、他者に声を聴かれないようにする上条オリジナルの魔法で王に一言囁くと、王はガックリと肩を落とした。
「あなたは毒に侵されている。解毒の魔法をかけてもよろしいでしょうか」
「やはりそうか、これが楽になるなら、……頼む」
まだ王妃が存命だった頃に、上条はこの国にセントリオの使者として訪れたことがあった。ウィスタリスはここまで寂れておらず、その時の王はどちらかというとふくよかな体躯で覇気のある声をしており、傲慢だった。
疲れきった王の返答を受け、上条は解毒と体力を回復させる魔法を発動させる。と、発動に抵抗があることを感じ、より強い威力のものに変える。
上条から放たれた光の粒のようなものが王を覆い、周囲のものが慌て始めるがそれも一瞬のこと。光の粒が拡散して空中にフッと消え去るとそこにいた王は今し方の調子の悪そうな状態ではなく、顔色も良くなっていた。近衛は握った剣をすぐに鞘に納め、定位置に着き王の様子を伺っている。
その時、玉座を見つめていた貴族の一人がそっと玉座の間から退出しようとしていた。顔色の良くなった王を憎々しげに睨み、何事かをぶつぶつと呟きながら。
上条はその貴族のことを認識していながらそのまま放っておいた。ただ、その人物に気づかれないよう、誰にもわからないほどの小さな細工をして。
「さて、もう話ができますね。私は聞きたいことがあってこの国に来たのです。ノイチラスの邪竜が魔王に進化しようとしています。そしてその手助けをしているのはこの国だ。ウィスタリス王、あなたは何か知りませんか」
「……私は何も知らんのだ。知ってそうな男を紹介しよう、バスティン・グルブ子爵!」
何事かを思案した王が、貴族の集団に声をかけると一人の男がスッと一歩前に出た。
「はっ、賢者シズル殿、いえ、セントリオの宰相カミジョー殿。お初にお目にかかります。私は王都東の領地を納めさせていただいているグルブと申します」
先代から爵位を継いだばかりの三十代、長身でがっしりとした体つきの子爵は誠実そうな男だった。
だが、グルブという家名を聞いて、上条は表情を変えた。
「グルブ子爵、セントリオに縁は」
「あります。わが祖先はもともとセントリオの貴族。そこからウィスタリスに移住してこちらで功績を上げ家を興したと聞いています。そして私の話はそのセントリオにいる縁戚のもののこと」
このままこのような場所でする話ではない。込み入ったことになりそうだと王が話に入り、場所を移すことになった。
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セントリオのグルブは94話で出てきています。
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