第168話

 果物の美味しさを讃えると、ヨアヒムさんは他にもあるぞと次から次へと出してくれた。ストレージは時間の経過がないから、熟して一番美味しい時に収穫して溜めてあるそうです。

 村の人に配ったり、商人に売ったりしてもなかなか減らないからいっぱい食べろと言われたけどそんなに食べれません。


「あの、どうしてヨアヒムさんと同じ竜なのに、北にいるのは邪竜なんですか?」


 圭人くんがヨアヒムさんに尋ねる。

 素朴な疑問はさっさと解決するに限る。

 ずっと悩んでいたって時間の無駄だから、答えを知ってる人がいるなら聞いちゃう方が早いって。

 せっかちだって夕彦くんによく言われてるけど、私は圭人くんのこういうはっきりしたところ好きだな。


「あいつはな、淀みや恨みつらみみたいなものを吸いすぎて属性を変えちまったんだ」

「属性? 人間にはありませんよね。聖女だと光属性とかあるのだろうか」


 うむむと唸りながら夕彦くんが光里ちゃんをじっと見る。

 鑑定しても何も出ないと思うよ?

 光里ちゃんが自分のこと? というように指を差している。


「ああ、人間は基本的に全属性なんだ。魔獣の中にはその環境で属性に偏りが出たりするな。俺たち竜は基本的に属性は一つ。光だ」

「ほう、それは知らなかった」


 杉原さんが初めて聞いた話に身を乗り出してくる。

 百年この世界にいるといっても、竜と出会うというのはかなり珍しいことだそうで、ヨアヒムさんと邪竜しか知らないそうです。

 普通の人は一生で竜に会ったことのない人の方がほとんどだって。この村にいる人もヨアヒムさんの正体を知っているのは一部の人だけらしい。


「言ったことないからな、教える必要もなかったし。でだ、あいつは巣の近くで起きた戦争のせいで闇に汚されてしまった」


 領土問題のせいで起きた戦争は何度もあって、その度に北の竜は瘴気を吸い込み、光属性が失われて邪竜になってしまった。


「人のせい……ってことね」


 光里ちゃんが遣る瀬無い表情で、邪竜を憂う。

 戦争が起きなければ、人が死ななければ、もしかしたら邪竜になんてなってなかったのだもの。


「そして、闇属性は人からの干渉も受けやすいんだ。特に悪い心に同調してしまう。闇魔法で魔王化なんて酷いことするよな。だったら、さっさと倒してやることだけがあいつを救う方法だ」


そっと目を伏せるヨアヒムさん。その姿は同胞を想い悲しむ人の姿にしか見えなくて、生えている角とか牙とか、いつしか気にならなくなっていた。


「ヨアヒム……」


 杉原さんが、なんて声をかけていいのかわからないようで困ってる。

 私たちもどうしていいのか、お互いに顔を見合わせて声が出せない。


 その重苦しい沈黙を破ったのは、当のヨアヒムさんだった。


「なーんてな、倒すことを気にするな。まあ、属性が変わったらどうしようもないんだよ。あとな、竜が死ぬと体に溜めてた魔素が全部外に出るからその土地が潤う。もしあいつを魔王化させようとしてる奴がいるなら自分の国にあいつを連れて行こうとすんじゃないか?」

「どうなんだろうな、俺たちの旅の間にそういう話を聞いたことはないが」


 そういえば、上条さんはどうしてるんだろう。

 西の国に潜入してるはずだよね。


 突然、気になったのは何か虫の知らせが働いたのかもしれない。


 

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