第167話

 この山脈は国境の間なだけあって通る人はそれなりにいるので、物資の流通は過不足なく村民が物資不足で困ることはない。

 商人はこの村の木工細工を目当てに来ていたりもするそうです。

 あと豊富な山の幸ね、ヨアヒムさんが出してくれた果物が大きなお皿に盛られているのだけど、プラム、オレンジ、ダークチェリーなどなど、どれもとても美味しそう。

 先に出してくれたベリージュースも特産で、商人に大人気なんだって。酸味が控えめで甘くて美味しい。これに炭酸入れたら圭人くんの好みになる。


「子供たち、これを食え。うちの山で採れた自慢の果物だ」

「ありがとうございます、いただきます」


 プラムを手にとって皮をむき一口齧ると、果汁が滴って手首まで伝ってしまう。甘さと芳醇な香り、熟し方もちょうどいい頃合いで口の中でジュワッと蕩ける。


「すっごく美味しい! ね、光里ちゃん」

「ええ、こんなに美味しいプラム初めてだわ!」 

「だろだろ、たくさん食って大きくなれよ」


 ニコニコするヨアヒムさん。笑うと鋭い牙が口から覗くんだけど、慣れてきたらそれがチャームポイントに見えてきた。


 果物をいただきながら話を聞く。

 ヨアヒムさんが村長をしているこの竜の村に住んでいる人は職人気質すぎて街の生活に馴染めなかった人や、この山脈の豊富な魔素に惹かれた人、広大な景色に魅入られた山好きな人がいるそう。こっそりと元犯罪者みたいな人もいるけどここでは悪いことできないので、大人しく生活するか村を出ていくそう。山に住み着いて悪いことといっても、戦闘すると魔獣に襲われるから寝ている間にこそっと荷物も持っていくことくらいしかできない平和なものだって。

 人付き合いは他人を詮索する人があまりいないから、みんないい距離で生活できている。

 あの落石は数週間前に崖崩れがあって、商人から教えてもらったヨアヒムさんがそろそろなんとかするかと思っていたところだったそうです。


「それで、キリはどうしてこんなところにいるんだ? わざわざ徒歩で移動するからにはよっぽどの理由があるんだろうけど。落とし子が一気に四人も来るなんて何があった」

「俺はこいつらに付き合って北の国の邪竜を倒しに行くところ。お前、結界張ってるから気がつかないだろうけど、今この世界は大変なことになってるんだからな」


 ヨアヒムさんの結界はこの山脈全部を覆っていて、ここに住んでいる魔獣はヨアヒムさんの眷属みたいなもの。

 戦闘があると魔獣が行くっていうのは本当のことだったのね。

 ヨアヒムさんの魔素が結界内に行き渡ってるからこの山脈は魔素不足になることもなく、村民も普通に生活魔法が使える。北の国であったことをヨアヒムさんに説明したらかなり驚いていた。


「北の邪竜ってあの性悪だよな、あいつが魔王になるとか冗談じゃない」

「性悪って、ヨアヒム、知り合いだったのか?」


杉原さんが尋ねるけど、ヨアヒムさんは嫌そうに首を振った。


「なんつーか、親戚みたいなもんなんだよ。俺たち数が少ないから」

「ああ、そういうこと」


 竜は滅多に繁殖しない上に寿命がとても長く、今生存している竜はほぼ全員なんらかの血の繋がりがあるとヨアヒムさんが教えてくれた。

そしてどうして北にいた竜が邪竜に堕ちたのかも理由を知っているようだった。


「それって、いとこがグレちゃったって感じかな」


 私が言うと、幼馴染たちから一斉にツッコミが来た。


「そうだけど、違う、何かが間違ってる」

「ありす、多分もうちょっと規模が大きい感じ」

「そういう一言でまとめてはいけない気がします」


 えー、あってると思うんだけど。

 それにしても、プラム美味しい。

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