第166話
「キリ様、お元気そうで何よりですじゃ」
ニコニコとしながらヨアヒムさんが話し始める。
私たちが招かれたのは、この村の村長であるヨアヒムさんの家。木造平屋で三角屋根。何回か修繕した跡がある丈夫な作りになっている。
テーブルや箪笥などの家具も全て木製、優しい香りと暖かい雰囲気がする。この村のお家は大体同じような感じらしい。
一枚板のテーブルは六人で使っても余裕があるほど大きくて、椅子はベンチが置かれている。
私の隣は右が光里ちゃん、左が圭人くん。私の対面にヨアヒムさんがいて、光里ちゃんの前は夕彦くん、圭人くんの前に杉原さん。
ヨアヒムさんが出してくれた木のジョッキには美味しそうなベリージュースが入っている。
「ヨアヒム、いつまでその姿なんだ? 俺の前なんだから戻れ、あと喋り方も普通にしてくれよ」
杉原さんが苦笑しながら促すと、ヨアヒムさんはにかっと笑った。
「お連れさんは俺のこと知らないんだろ? 驚かせちまうぞ」
「いい、こいつらは俺と同じだから」
杉原さんとヨアヒムさんの二人だけで進む会話に、私たちの頭には疑問符が飛んでいる。
どういう事かな? と光里ちゃんと視線を合わせる。
ヨアヒムさんの話し方がさっきまでの老人という感じから雰囲気が若くなったのはわかるし、外見もなんだかしゃんとして、余計に訳がわからない。
「じゃあ、ちょっくら正体でも披露しますかね」
「きゃっ、なに!?」
ポポンと軽い音がして、ブワッと立ち上った白い煙がヨアヒムさんの体を隠す。
音にびっくりした私を圭人くんと光里ちゃんが支えてくれた。
「え、えええ?」
「どちら様ですか、ヨアヒムさんは?」
「角……?」
「羽根と牙もあるな」
そこにいたのは、人間ではなかった。
いえ、ベースはとんでもなく美形な人なんだけど、捻れた角と翡翠色の蝙蝠のような翼、口元からのぞく白い牙は人間が持つものではない。
肩までの翡翠色の髪と黄金色の瞳、瞳孔は黒く縦に長い。
「驚いたか? ヨアヒムはな、この山脈を作った竜なんだ」
「え、ということはその姿は実態じゃないってことですか?」
だって、竜の体の上に山ができたのなら、元になった竜が起き上がったら山が崩れちゃうのではないかしら?
「いや、ちゃんと体はある。あー、ちょっと寝てたら俺の上に山ができてたんだよ。起きたら動きにくいし人はいるしで困ったんだが空洞を作るわけにいかないんで、俺の体があったとこにストレージに入ってた土やらゴミとか色々詰めて俺自身は転移で北の国に行ったんだ」
土はわかるけど、ゴミってと思ってたら夕彦くんも同じことを考えていたみたい。あと、ストレージあるんですね、さすが竜。
それより杉原さんってばヨアヒムさんのこと知ってたのに、竜の体の上に山ができたなんて言って。また驚かせようとしましたね。
「竜から見たゴミっていうことは、もしかして鉱石ですか」
「そんなものもあったな。あとは岩とか俺の抜けた鱗とか牙とか、食べカスなんかも突っ込んだ」
収集癖があるのでストレージには色々なものが詰め込まれていたみたい。
「で、北の国で俺と知り合ったんだが、こいつ人とうまく馴染めなくてな」
「人のいないところで暮らしたくて、ここに住むことにしたんだ」
元々ここには北にも南にも住めなかった人たちが小さな集落を作って暮らしていたのだけど、ヨアヒムさんはここに家を建ててひっそり住むことにした。
家作りを手伝ったのが杉原さんで、日本式の平屋の作りを教えてあげたそう。
それが大体八十年前の話。
歳を取らないのも変なので、魔法で少しずつ歳を取ってるように見せているんだって。魔法使いは長生きだから寿命は気にされないみたい。
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