第165話

 勾配はだいぶ緩やかになってきて、腰にロープは必要ないという杉原さんの判断。

 景色は木が減ってきて、地面に草が生えているようなところが増えている。露出した土の比率が進むにつれ上がっているような気がする。

 山登りを開始してからお互いに歩くスピードも測れるようになっているので、少し遅めの私にみんなが合わせてくれる形になっていた。私だって地球にいた時と比べたら身体能力はかなり上がっているんだけど、それよりもみんなの方が上がりすぎ。


「うう、もう少し早くでも大丈夫よ。ちゃんと着いていけるし」

 私が足を引っ張っているようで、なんだか申し訳ない気持ちでいっぱいになり情けない声が出てしまった。


「何言ってるのよ、着いていけるじゃなくて、自分のペースで一番歩きやすいスピードがいいの」

「ありすは充分な速さで歩いています。それを崩さないようにする方に集中してください」


 光里ちゃんと夕彦くんに応援されて、一定のペースを心がける方に気持ちをシフトさせる。なんとか順調に、何事もなく進む山道。

 時折声をかけられて応える私の声は、最初は小さかったけど次第にお腹から出るような大きな声になった。

 あと、山で声出すのってなんだか気持ちいい。

 もちろん、上から落ちてくるものが何もないことを確認してからだけど!


 魔獣の気配を感じたのが山賊が襲われたかもしれないあの一瞬だけだったのは、竜の加護ってやつなのかな、もしかして。

 歩いて、休憩して、日が落ちるころに休みやすいところを探して平らなら小屋を出し、そうでなければテントを。小屋でだとトイレもお風呂もあるからぐっすり寝れていい。すごく贅沢な気分になれた。

 繰り返して空気の薄さにも体が慣れて、歩くスピードはあまり早くならなかったけど景色を見る余裕もできたらものすごい絶景が広がっていた。

 緩やかなカーブを描く尾根から眺める地上はセントリオの湖までしっかり見ることができた。いくつかガラスのドームのような大きな結界が見えた。


 そして、三日後。

 私たちは並ぶ木造の家に驚いていた。

 私たち四人の隣では悪戯が成功した表情の杉原さんが、なぜか腰に手を当てて仁王立ちしている。


「こんな山の上に村があるなんて」

「びっくりしたか? しただろ」


 ぽそっと呟いた圭人くんに、なんだか嬉しそうな杉原さん。私は思わず突っ込む。


「なんでそんなに嬉しそうなんですか? っていうかここ、絶対に知ってましたよね」

「まあな、この村を作る時、俺も手を貸したし」

「手を貸したって……」


 そんな話をしていたら、村からこちらを伺う人影を感じた。


「旅の人かね、それとも商人かね」


 白髪で、同じ色の長い顎髭を蓄えた腰が曲がり杖をついた老人が私たちに声をかけてきた。でもその声には張りがあって、外見と合ってない。

 うーん、なんだかとっても魔法使いそうな感じ。


「商人です」

 夕彦くんがスルッとみんなの前に出て老人の相手をしてくれる。

 相手が何者かわからないうちは与える情報は最低限にするんだって、あとでこっそり教えてくれた。あと、ありすは子供にしか見えないからあまり前に出ないようにだって。


「ほう、ではここでも商売をしてくださるかな。竜の村はあなた方を歓迎しよう」

「それはありがたいな。ヨアヒム」


「む、なぜ、わしの名を……、あ、ああああ! キリ様!?」

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