第164話

 小さい頃は地図を見て、ガイドブックをなぞってそれで満足していたことがある。

 でも本物とは全然違うんだって思ったのは、小学6年生の時の遠足で尾瀬ヶ原に行ったとき。事前の準備学習で見た地図上はただ単に平面っぽいのに、その場に行ったら自然が力強く生きている湿原の広さと神秘性に圧倒されたのを覚えてる。

 今だってそう、マップに展開されている山脈の地図は山が連なってその間を道が線を引かれたように通っているだけ。

 実際は周囲が木だったり少し草が生えているだけの土だったり、道だって、これは違うよ道なんかじゃないよっていうくらい何も手入れされてないところがあるくらい。

 一歩ずつ着実に大地を踏みしめながら、もうそろそろ山賊に巻いたロープが時間で解けている頃かなって考えていたら、遠くの方で何かがぶつかるようなドーンという音がした。


「! 何の音!」

「さっきの奴らに魔獣が襲いかかって、弾かれたんだろうな」


 歩みを止めずにあっさりと言う杉原さんは、予想通りのことが起きただけと言う表情で先の道に高い草が生えているのを短剣でサクッと刈っている。

 切った草はストレージに入れず地面に落ちていく。土の栄養だから放置するんだそうです。


「攻撃に何回か耐えたら、魔獣の方が逃げていくから大丈夫だ。あいつらは死なない」

「そうですか、よかった……、のかな」

「どうしたの、ありす? 何か気になった?」

「あの人たちはこの後どうするんだろうって思ったの。北に帰るのも先に進むのも大変だろうなって」

 あのまま進んでガルデンの街でお仕事ができるかな。街で悪いことをしなければいいなって。


「そうだな、楽を覚えると転がるだけだから。せめて一人一人バラバラになって生きていくといいんだけどな」

 杉原さんが苦しそうに言うのは、きっと色々な人を見てきたせいもあるのかな。


「あっ!」

「おっと、気をつけろよ」


 ぼーっとしすぎて足元の大きな木の根で、転けそうになったところを一番後ろにいた圭人くんが助けてくれた。いつの間にって思ったけどそのまま手を貸してくれたので、甘えてしまおう。

 木の根は足を上げて登らないといけないくらい太くて、道を縦断していた。

 これをこのままにしておいたら危ないな。

 杉原さんは根を越えたところで止まっててくれている。


「太すぎるよな、これ」

「うーん、私じゃなくても転ぶよね、この根。どうにかならないかな」

「地中を掘って埋めましょうか、表面に出ないように誘導すればいいでしょう。やっても大丈夫ですか、杉原さん」

「道を塞いでいるからこのままにしておく方がよくないな、夕彦やっちゃってくれ」

「はい、まず地中に探索をかけてから風魔法で根の長さの空洞を作り、そこに重力魔法をかけて落とします」


 根を切ってしまうとそこから木に影響が出てしまうかもしれない。

 夕彦くんの魔力操作はますます冴えてるみたいで時間はそんなにかからず、表面に張り出していた木の根は見えなくなって地面は歩きやすくなった。

 これも人間のエゴだけど、共存共栄の観念から、許してね。


「あー、腹減った。そろそろ休憩時間じゃないか?」

「圭人、お腹の音すごいわね。でも残念、あと三十分歩きましょう」

「無理無理、この可哀想な音を聞け」


 圭人くんと光里ちゃんの掛け合いを聞きながら、なんとなくテントが張りやすそうな場所を探しつつ歩く。三十分はかからず、圭人くんの声が元気なくなってきた頃に昼食を兼ねた休憩時間。

 今日のお昼はうどんです。油揚げや天かすは作っていないので具は卵焼きと野菜。

 テーブルの脚を伸ばして調節して設置。

 ストレージからホカホカの湯気が立っているうどんを出して、いただきます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る