第163話

「さっきロープにどんな細工をしていたの?」


 歩き出してから十分ほど、左右を高い木に挟まれた歩きにくい道。

 ロープで縛って放置した男たちの影も見えなくなった頃に、光里ちゃんが私に尋ねてきた。

 私も杉原さんに言われた通りにしただけで、その意図は理解してないんだけど。


「えっとね、ロープに解除の付与をして一時間経ったら自然に解けるようにしたのと、あの人たち一人づつに結界を張ったのよ」


 一時間経ったら解けるようにするのはわかるんだけど、どうして結界も必要だったのかな。

 あの山賊たちは結局何もできなかったし、鑑定してみたら人を殺したことがなかったからそのまま放置なのはわかるけど。


「結界まで? どうしてかしら、探索してもあの近くに魔獣はいなかったよね」

「そうなんだよね」


 そこまで早歩きじゃないからこうして話していても余裕がある。

 私たちのステータスだともっとスピードを上げてもいいんじゃないかなって思ったけど、不意打ちで戦闘をしないといけないこともあるから余裕がある方がいいという杉原さんの言葉が、先ほど実践で証明された。


「この山脈は竜の背っていう伝説があるんだよ」

「それ、さっきも言ってましたよね」


 夕彦くんが杉原さんの言葉に反応する。そうだっけ、気が付かなかった。


「巨大すぎる竜が死んでそれを礎にできたのがこの山脈。竜の加護で人も獣も守られているが悪意を持って血を流すと加護は反転し呪いとなる。今頃あいつらは魔獣に襲われているんじゃないか? 命を取ってないから怪我くらいで済むだろうけど」

「それで結界ですか」

「弱かったからな、あいつら。おおかた北の国で食いっぱぐれてセントリオに行こうとしたんだろう。で、食料でもなくして人を襲ったら上手く行ったんでやめられなくなったってところだろうな。結界があれば少しは凌げるから戦闘になっても命は取られないだろう」

「真っ当な暮らしに戻れればいいんですが」

「それは俺たちが気にすることじゃない。ただ、次に襲いかかってきたら容赦しないけどな」


 この世界に長くいる人の、そんな言葉は重すぎる。

 なんだかやりきれないなと思いながら歩くのは止めない。北の国に戻るかセントリオに行くかわからないけど、お仕事が見つかるといいな。


「そういえば」

「どうしたの、光里ちゃん?」

「湖に宝石があるって杉原さんが言ってたのって、竜の伝説と関係あるのかしら?」


 そういえば、何かの本で読んだことがある。

 竜は光り物が好きで巣に溜め込むって。

 だからどんな世界でも竜は討伐対象なんだっていうのはファンタジーの定番だったよね。もちろん伝説上の生き物だから本当のことじゃないけど。

 この世界の竜はどうなのかな、財宝を溜め込むって本当のことか気になる。


「関係大有りだ。竜は体内で宝石を作り出すことができて、それを媒介にブレスや魔法を使うんだ。魔石よりも透明度が高く価値があるからこの世界の宝石っていわれるものは竜が作る石のことだ」

「じゃあ湖の底にあるっていうのは」

「竜が作った宝石がどっさり。しかも取っても減らないから、山脈を作った竜が生きてるんじゃないかという疑惑がある」


 この世界は考えている以上にファンタジー。

 生きてる竜はまだ見ていないけど、そのうち会えるかな。できたら邪竜の前に良い竜と会いたいわ。

 最初に邪竜を見ちゃったらイメージ悪すぎ。



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