第118話 閑話・冒険者ジェイク2ー2

 近くに魔獣の気配はない。

 街道からそれほど離れていない場所だから普通はここでダッシュウルフに襲われるのは珍しいんだが、一体何があったやら。


 魔獣に噛まれただけじゃなく引き摺られでもしたのか、ボロボロになっている女の服を下着を残して剥ぎ取り、ストレージにあったローブで体を包む。

 意識のない柔らかい体はこんな場所でなかったらじっくり見たいもんだが、そんな場合じゃない。ざっと検分したが、傷はもうないようで安心した。

 休みやすいように街道の近くに運びテントを張って、その中に毛布を重ねて柔らかくしてからその上に寝かせる。

 俺はその隣に座り込み、様子を観察することにした。


 ついでに昼飯にするかと、パンを腰にある食糧袋から出してかぶりつく。

 それだけじゃ足りないので、アイン村で作っておいたスープがたっぷり入った片手鍋をストレージから取り出した。

 ストレージとは別に一日分の食糧を入れておくものだ。

 これは旅の途中で他の冒険者に遭遇した時に役に立つ。食事や装備を持ち放題のストレージ持ちはいつでもパーティにスカウトされるが、俺には面倒なだけだ。

 床に置いたトレイにスープカップを乗せスープを注いでパンにつけて食う。それだけで体に染みる感じがたまらない。


 それにしても、長い黒髪、白い肌、ボロにはなったが着ていた服はここらでは見たことのない薄くて丈夫な材質。

 鑑定してみるとやはり異世界のもののようだ。

 これは、ほぼ間違いなく神の落とし子と見た方が良さそうだな。

 顔は、はっきりいって好みだ。薄めの整った美人。

 アリスやヒカリより年はいってるが、俺としてはこれくらいのほうがいいな。

 って、俺はたった今魔獣に襲われた相手に何を考えてんだ。


「う……ん」

 

 俺がパンを食べながら布切れを摘んだりひっくり返していると、横から小さくうめき声がした。

 

「お、目が覚めたか」

「ひっ、き、きゃぁあああああ! 鬼!」


 甲高い声が耳をつん裂く。

 しまった、こいつは助けない方がよかったパターンか?

 こういう時は下手に声をかけず平常通りにしていたほうがいい。不用意に動くと面倒しか起こらん。

 俺は気にしていないふりをしながらパンをもしゃもしゃと咀嚼する。

 ぐ、水分がないと辛いな。腰にある水筒の蓋を開け、ガブガブと飲み干す。


「……あの」

「なんだ?」


 おずおずと話しかけてくる女に顔を向けず答える。どうやらこのイカツイ顔が怖いようだからな。


「あなたが、狼を倒してくれたんですか?」

「オオカミ? ああダッシュウルフ二頭なら倒したぜ。ついでにあんたの怪我を治しておいた」


 怪我と聞いて自分の格好がわかったらしく、頬を真っ赤に染める。俺はボロ布になったかつての服を見せた。


「着ていた服はこれだが、着るのはもう無理だと思うぞ」

「そうですね、治療してくださってありがとうございます。あの、何か着るものを貸して欲しいのですが」


 下着姿に布が巻き付いているだけだ、ちと寒いかもしれんが起きてから自分で着てくれ。

 ポイポイとシャツとズボンを渡したら受け取ってローブの中でゴソゴソと着替え始めた。

 俺の服はだいぶ大きかったらしい、袖も裾も三回ほど折っている。


「あの……」

「それより、あんた腹減ってないか? 食いながら話を聞かせてくれないか」


 さっきだいぶ血を減らしただろうからな、とにかく何か食わせないと。

 片手鍋に野菜くずを入れて煮込んだスープ。肉片は細かくしてあるから大丈夫だろう。

 スープカップに注いで、柔らかい白パンと一緒にトレイに乗せて渡した。テーブルなんて上等なもんはないから、女は俺と同じようにトレイを床に置いて食べ始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る