第117話 閑話・冒険者ジェイク 2ー1

 俺は、アイン村の用心棒をしていた冒険者ジェイク。

 王都の学校を出てすぐにギルドに登録をして幾つかのパーティを渡り歩いてからは、村を守る用心棒家業をメインにしていた。

 人に関わらなければいけないようでそうでもないこの仕事は、俺の、人の内面を見すぎてしまうスキルに合っている。

 パーティを組まなくていいということが一番重要だった。


 だが、ある日出会った四人組の眩しさにやられてしまったおかげで、もう一度冒険に出てみようという気にさせられ、村との契約が切れた時、だいぶ熱心に引き止められたが旅に出ることを決心した。

 宿屋のオリガと一緒になって村に居着いてくれないかとも言われたが、オリガには別に思い人がいる。

 俺としては一瞬それもいいなと考えたんだが、オリガとはいい友人の方が楽しそうなので断った。

 そして準備万端に整え、あいつらが目指す方向とは逆の方へ旅に出た。

 四人が東にある王都を目指していると言ってたから、俺は南西の方角へ。

 同じ方角でばったり会っちまったら、追っかけてるようでちと恥ずかしいからな。

 馬を買う金がないわけじゃないが、急ぐ旅でもないしのんびり徒歩だ。

 食い物はストレージに入れときゃいいし、俺の固有スキルは結構使えるものが多い。


 アインから西に広がる森は、その先に魔道が発達した国がある。

 あっちは俺のような冒険者にはちと厳しいから近寄らないやつも多い。

 よそ者に対する当たりが強すぎてまともに仕事ができなかったから、俺は二度と行かねえ。

 だから森には入らず、街道をまっすぐ南に進む。

 アインを朝から出て、夕方まで歩くとウスタの村がある。何度か訪れたことがあるその村は織物が盛んで、古着を買うならウスタだと言われている。


 あと数時間でウスタだというところで、森の方から女の叫び声が聞こえた。

 罠か何かなんて判断している時間はない。

 これが人間なら俺は絶対後悔することになる。愛用の大剣を携えて、森の中へ分け入った。

 森に入ってすぐ、ぷんと血の匂いがした。


 まさか、もうやられちまったか。


 焦った俺はせっかく気配を消していたのに足元の枝を踏んで、バキッという大きな音を出してしまった。


 グルルル

 魔獣の、地を這うような低い唸り声。

 これは、ダッシュウルフか。素早さがあるそこそこ厄介な魔物だ。


「チッ、こっちこい相手になってやる!」


 女の声はもうしない。気絶してくれるだけならいいんだが。

 俺の声に反応したか、二匹の魔獣が向かってきたところをまとめて剣の餌食にする。魔獣どもは断末魔を上げることなくその場に倒れた。

 辺りの木に血飛沫がかかるが、そんなん栄養にしかならんだろ。

 自分で引っ被るほど素人でもない。

 

 気配を探るが、もう魔獣はいないようだ。あいつらがいた場所に行くと、腕を噛まれたらしい女が気絶していた。

 白く細い首筋を触ると、温かく脈を打っている。

 しっかり生きてるぜ、随分運がいいな。

 ただ、この出血量からするとそう長くは持たないだろう。


「ったく、見つけたのが俺でよかったな。あんた本当に運がいいぜ」


 女に回復をかけ、出血を止め噛まれた傷を消す。

 若いお嬢さんっぽいからな、この傷が残るのは辛いだろう。

 俺の固有スキルである回復は怪我を治すことにかけては天下一品。そこいらの神官にも負けないくらいだ。

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