第101話

 ギルドのある中心街から一本西側に入ると、人が途端に少なくなる。

 人の多さに疲れていた私たち四人は、まるでせーのと揃えたように同時に息を吐き出していた。

 あまりのタイミングの良さに、お互い顔を見合わせて苦笑いしてしまう。

 

「知らない人だらけだと、やっぱり疲れるよな」

「言葉は通じるけど、やっぱりどこか違うものね」

 

 圭人くんと私の言葉に、うんうんと頷く光里ちゃんと夕彦くん。

 歩きながらゆっくりと周りを見渡す余裕もできた。流石に王都だけあって街を歩く人の姿がおしゃれというか、着ている服がカラフル。

 私たちの服って、村の人たちに合わせていたからかなり微妙じゃないかな。

 すれ違うお姉さんのワンピースがとても可愛くて、ああいう服を作ろうと心のメモをとった。

 

「ここが俺の定宿。赤竜の息吹亭だ」

「大きいですね!」


 杉原さんが足を止めた二階建ての宿。王城から見て南西の方角になるかな。

 さっき見た商業ギルドが可愛いホテル調の外観だったのに対して、こちらは重厚な都会のビジネスホテル。入り口は高さのある両開きの茶色いドアで、杉原さんがさっさと開いて入ってしまう。

 続いて中に入ると正面にカウンター右に食堂に続くガラスの扉がある。

 向こうが透けて見えるんだけど、結構な広さのテーブルが並んだ食堂に人が大勢いる。


「ここの飯が、王都で一番美味いんじゃないかと思ってる。だからいつでも混んでるんだ」


 カウンターで宿泊手続きをとりながら杉原さんが教えてくれた。

 杉原さんはこの宿に部屋を持っているというんだけど、どういうことかな?

 そこは広くていくつも部屋があるから私たちも泊まれるらしい。


「では、四名様、スギハラ様のお部屋にということで手続きいたしました。スギハラ様、西門の兵士から厩舎に馬車と馬を二頭預かっております。後ほど確認をお願いしますね。食事は部屋にお持ちしますか?」


 時間は午後三時。すっかり昼食を食べそびれてしまったけど、陛下との会話中にお菓子を摘んでいたので私はそれほどお腹が空いていない。

 でも他の人は空いているんじゃないかな。

 受付のお姉さんが言っている食事は今日の夕食から。


「ああ、部屋に頼む。場所の案内はいらんよ。鍵をくれ」


 内装は落ち着いていて居心地がいい。さりげなく置かれた花瓶の花が、香りは少ないけど見た目が華やかで美しく、この宿の心尽くしがとても嬉しい。

 カウンターから左側はラウンジになっていて、テーブルと椅子が綺麗に配置されている。喫茶もやっているようで談笑している人たちの前にはケーキや飲み物のカップが置かれている。


「ケーキ、美味しそう」

「絶対食べる」

「うん」


光里ちゃんとそんなことを言い合いながら、杉原さんの後をついて歩く。

ラウンジを抜けると廊下。ここから客室があるようで右側に扉が三つ。この間隔を考えると、一室はだいぶ大きいんじゃないかな。


「ああ、先に言っておくけど、驚くなよ?」

「お部屋のことですか?」

「まあな」


 廊下の突き当たりを右に曲がってまっすぐ。奥に扉がある。

 そこを開くと、中庭。そのまま更に進むと日本家屋という感じの平屋の建物が。


「え、これって普通の一軒家じゃないですか!」

 

 離れというより、家がそこにあったよ!?

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