第102話
「先代オーナーを助けたことがあってな。その礼ってことでここを作ってもらえた。王都に家があっても管理しきれないから、今では俺の方が助けられてるな。数年に一度しか来ないのによくしてもらってる」
そう言いながら杉原さんに案内された離れの中は、懐かしい雰囲気と匂い。玄関で靴を脱ぎ畳を踏み締める感触は和室ならではよね。
平屋で、台所はなく、八畳の客室が二つと十畳の居間。それにお風呂とトイレがあるシンプルな作り。
「いいですね、畳の匂い。なんだか落ち着く」
圭人くんが嬉しそうに深呼吸している。むむ、和室作ろうかな。
全員背中のリュックだけ部屋に置かせてもらって中庭に戻り、馬たちのいる厩舎へ。
正面からこの中庭にはダイレクトに来れないんだけど、裏から入れるそう。
宿泊客のものとうちの馬車と、馬が8頭。ファルとシオンもそこにいた。
水と餌を貰えてむしゃむしゃと元気に食べてる様子を見てホッとする。
「ファルとシオン、ご飯貰えてる。しっかり食べてるね」
「元気そうです、よかった」
「お嬢ちゃん、坊ちゃん、それ以上近寄っちゃいけませんぜ」
夕彦くんと一緒に厩舎に近寄ろうとしたら、見知らぬおじさんに止められた。
なんというか、四角い感じの人。
顔も体格も大きくてがっしりしている。青灰色の髪をざっくり刈り上げて、浅黒い肌は日焼けだろうか。濃い緑の目が、すごく澄んでいて優しそう。
「キリ様のお連れさんですかい? 他の客の馬もいるんで、近付くのはやめといた方がいいですぜ。お客さんの馬はいいが、他の馬の性格はわからんですから」
「あ、そうですね。ごめんなさい」
臆病な子だとびっくりしちゃうしね。
「わっしは馬丁のテオといいます。お客さんが宿泊の間はわっしがこの馬たちの面倒を見させてもらいますで、安心してつかぁせえ」
「テオさん、ファルとシオンをよろしくお願いします」
「はい。あの子たちは優しい性格をしてますな。可愛がられて幸せそうだ」
テオさんに馬たちをお願いして、私たちはさっきの離れに戻った。ファルとシオンを見てやっと安心したわ。
「腹へった。なんかねえ?」
お昼食べてないものね、圭人くんがお腹をさすりながら訴えてくる。
「ガッツリと軽め、どっちにする? 夕食の時間まで三時間くらいかな?」
ガッツリいって夕飯が食べられないのは悲しいよね。
「ここの食事、杉原さんが美味しいというなら相当でしょう。楽しみだから軽めがいいですね」
「そうね、ここは軽くスープだけとか」
「あ、それなら作っておいたミネストローネがあるよ」
居間に置いてある座卓は八人用の大きいもの。
ポットに入ったお茶とお菓子が置かれているんだけど、この文化は杉原さんが教えたのかしら。なんだか嬉しい。
お菓子はその土地のお土産のPRもあると思うんだけど、この場合は心尽くしという意味でしょうね。お土産があると思えないし。
ポットを座卓の端に避けて、スープ皿にミネストローネを注いで出す。
パンは軽い方がいいだろうということで固い棒状のグリッシーニ。味はシンプルな塩味と胡麻を練り込んだ二種類を用意してみました。
「そういや杉原さん、王城で聖女の話をしなかったのはわざとですか?」
ポリポリとパンを齧りながら圭人くんが訪ねた。杉原さんが陛下に始まりの聖女の話をしなかったのは意外だった。光里ちゃんが得た魔法の話が出るかなって考えていたんだけど。
「ああ、蘇生魔法はな、いらん摩擦を生みそうだから黙っとけ。ただでさえ聖女なんて職業なんだ、光里を囲い込もうとする奴が出てくるぞ」
うわぁ、やだなぁ。
私がそう思ってたら、隣で光里ちゃんがもっとゲンナリした表情をしてた。
やだ、美人が台無し。
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