第100話

 書類を記入し終わり、受付の人の戻りを待つ間、落ち着いて周囲を見回す。

 内装は赤いレンガの壁に煤けた焦茶の腰板が打ちつけられていて、ほんの少しだけレンガで出来た倉庫街を思い出した。

 同じ県内だし家から電車で一本で行けるから、良く遊びに行ったのよね。

 

「なんだか懐かしい雰囲気」


 光里ちゃんも同じ場所を思い出したかな、私たちは休日も一緒にいることが多かったから。親や兄弟に呆れられるほどいつも四人で、こんなとこまで同じように。


 昔のことを思い出して遠い目をする私と光里ちゃんを、杉原さんが辛そうに見ていたぞとは、後で圭人くんに聞いた話。

 それを聞いてから、なるべく顔に出さないように頑張ることにした。


 私たちが過去に思いを馳せていると、夕彦くんが他のカウンターを見て呟いた。

  

「人が増えてきてますね」

「そうだな、なんでだろう?」


 並ぶ人の列が伸びている。

 ギルド内の喧騒が先ほどより大きくなっているのは人が増えたからかな。

 私たちのところに人が何人か近寄ってくる。どうやら後ろに並ぶみたい。


「よお、受付がいないってことはあんたら鑑定待ちか?」


 唯一の大人である杉原さんに声をかけてくる、少し太めの男の人。


「そうだ、魔道具。そっちも登録かい?」

「ああ、俺はレシピだ」

「へえ、そりゃいいな」


 声をかけてきた人の相手は杉原さんに任せていると、鑑定をしに行った受付の人が戻ってきた。


「お待たせしました。こちらの魔道具の鑑定結果はこうなってます。間違っている箇所はありますか?」


 受付の人が見せてくれた鑑定結果に書かれていたのは、


 結界の盾・街ひとつ分を覆う結界を、少しの魔力で張ることができる。悪意ある攻撃を受けると消えるがすぐに張り直される。三十回張り直されると盾が割れる。

 製作者・アリス・オカジマ 


「間違い無いです」

「では、記入した書類とこの魔道具を持って、二階の一番手前の部屋に行ってください。ギルドへの登録と金額の交渉をします」


 なんというか、杉原さんがお役所みたいなものだって言ってたけど、間違ってない!

 ちょっぴり面倒になって圭人くんをじっと見た。


「もう少しだから、頑張れ」


 頭をぽんぽんと撫でられて、少しだけやる気が戻ってくる。

 現金だけど、これが一番効くんです。  

 

 二階での交渉は夕彦くんと杉原さんのおかげで上手くいって、金額も高過ぎず安過ぎずで落ち着いた。

 元手がゼロだから私としてはいくらでも良かったんだけど、モノの価値はある程度つけなければいけないと杉原さんと商業ギルドの人に説得されて値段がつけられたの。

 この魔道具は国にとって重要な物になるだろうから、しっかり管理しなさいと言われました。認可された魔道具の詳細と、ここで決められた金額はすぐに国中の商業ギルドに連絡される。私の場合、売買は商業ギルドに行ってもらえるようにしておいた。

 交渉の時は私はただ見ていただけ。それでも少し疲れちゃった。

 商業ギルドへは私だけ魔道具職人として登録をした。あと四人とも商人として。こうしておくと他の街や村での売買がしやすくなるそうなの。

 杉原さんはもう商人の登録をしてあった。作った剣を売っていたそうです。

 

「さて、冒険者ギルドは明日でいいな。宿に行って馬たちの様子を見よう」

「はい! ファルとシオンが気になるわ」

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