第97話

 ジュエル陛下が侍従に声をかけてすぐ、メイドさんがワゴンを持ってきてテーブルの上にティーセットが用意される。

 私たちや陛下が飲んでいるのはストレージから出したものだけど、オランジェ公爵相手にそれではダメみたい。

 公爵にお茶を淹れるメイドさんの手をつい凝視してしまう。優雅な手つきに内心雄叫びをあげてしまいそうだわ。

 役者さんやメイド喫茶などではない、正真正銘本物のメイドさんですよ。

 クラシックタイプの襟と袖が白い紺色ロングのワンピースに白いエプロンは肩と裾にたっぷりのドレープ。

 ヘッドドレスはカチューシャにフリルがついているものみたい。栗色の髪にとても似合っていて可愛い。

 光里ちゃんもそう思っているのか、素晴らしい微笑み。

 私たちの前にも新しいカップが用意されて温かいお茶が淹れられる。クッキーとサブレはまだ残っているからそのままで。

 全員にお茶が行き渡ったらメイドさんはペコリと頭を下げてワゴンと共に退室していった。

 

「どこまで調べが進んでいるんです? 叔父上」


 陛下が隣に座った公爵に話しかけると、場が一瞬ピリッとした。公爵は、その空気を和ませるようにふっと笑みを浮かべる。


「あやつの考えがどこまで入っているものかは知らぬが、目的の想像はつく。まあ小物よの」


 見た目、渋いおじい様な公爵は、なんともいえない凄みというか、迫力があって、私はその雰囲気に圧倒されてしまっていた。

 

 オランジェ公爵の調べによると、セントリオ国北西の小さな領土を治めるグルブ伯爵は借金だらけの領地経営が行き詰まり、西にある国に助けを求めたそう。

 グルブ伯爵領は土地も肥沃で災害の起こりにくい土地だから、堅実な経営をしていれば行き詰まることなんてないはずなのに、今の代になってから急速に借金が増えて領民も他の土地に移動する人が増えた。

 借金の原因は調べによると、表向きは商売の拡大のため設備投資をしたとあるんだけど実際は伯爵本人とその夫人による浪費だった。


「よくある話とはいえ、よくそこまで調べたな」

 杉原さんが感心したように公爵を見た。


 この国から西の国って、あの深い森があるからすぐ行けるような場所ではないと思ったら、ここはファンタジー世界だった。

 森の入り口と出口に馬車が移動できるくらいの転移陣が敷いてあって、行き来が非常にスムーズに行われているそうです。

「あやつ、西との連合国を作ってノイチラスへ攻め込む心積もりのようだぞ。北の資源はよほど魅力的に見えるらしいな。む、これは美味いな!」


 テーブルの上のお菓子に気がついたのか、手を伸ばしてパリパリと食べ始める公爵。サブレはこの世界にないらしく、口触りが気に入ってもらえたようです。クッキーはお店でも売られているみたい。

  

「グルブ伯爵領がそのまま他の国に属しても何ら問題はないのだが、森が取られるのは痛い」

 ちょっと顔を歪めたジュエル陛下。

「森って、私たちがこの世界に降りて、通ってきたところかしら」

 光里ちゃんの疑問に杉原さんが答えてくれる。

「ああ、そうだ。そしてあの森は魔物がとても多いし植物も多種多様に生えている。資源の宝庫なんだ」


 私たちがあの森にいる間、魔物の気配は全くしなかった。

 もしかして一応加護みたいなものがあったのかしら。

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