第95話

 先程の騒乱が嘘のように静かになった閲覧室で、ジュエル陛下は錫杖を侍従に渡してひとつため息をついた。      


「ケイト」


 陛下に促されて、圭人くんが口を開く。

 この場では普通に話すことも難しそうだから、私たちはハラハラしながら圭人くんの言葉を待つしかない。


「聖剣はまだ作ったことがありません。普通の剣なら売るほどあります」


 跪いたまま、一言づつ考えるように圭人くんが言う。剣作成は、圭人くんが時間のある時にひたすら行っていた。

 初めはシンプルなロングソードだけだったけど、今では装飾に凝ったものや魔法を籠められる剣なども作れることを知っている。

 陛下が杉原さんに視線を移した。


「レベル的にはもう作れるはずですが、材料を教えていません。星鉱石は旅の途中で手に入れます」


 星鉱石って、どんな物なんだろう。

 見たり触ったことがある物なら、創造で作れると思うんだけど。


「ふむ、ならば仕方ないな。キリ殿、彼らの旅の先導役を、これからも任せてよろしいか?」

「御意」


 杉原さんが右手で胸の辺りをとんと叩いた。どうやら了承したという合図らしい。


「この後、少々話がしたい。私の執務室でどうかな」


 杉原さんが頷き、謁見は終了した。

 あの、グルブと呼ばれた派手な貴族が、憎々しげな目で圭人くんと杉原さんを見ていたのに気がついてしまったのは陛下の御前から辞する時。


                    

「はー、面倒だ」

 陛下の執務室は城の三階にあった。隣は寝室だそうで、ここは一応プライベート空間らしい。

 ここには陛下と私たち五人以外には誰もいない。侍従と護衛の騎士は扉の外にいるそうです。


「お疲れ様です」


 杉原さんがニヤッと笑いながら、陛下にカップに入れたお茶を渡した。

 何かお茶菓子を出してとお願いされたので、チョコチップクッキーとサブレを出してお皿に並べると陛下が早速一枚摘んだ。


「おお、サクサクで美味いな」

 軽い歯触りのサブレがお気に召したようで、口にあってよかった。

「そういえば、王様なのに毒味とかしなくていいんですか?」


 ちょっと疑問に思ったので、杉原さんに聞いてみる。小説とか漫画では王族に毒味役がいたような。


「ああ、鑑定が使えるっていうのもあるんだけど、ジュエル陛下の場合は」

「キリ殿」

 あ、重要機密なのかな。

「おっと、ありすの言い方がのんびりしてるからついなんでも話してしまうんだよな。すまん」                 

「まあ、其方たちなら良いか。私はな超回復を持っているのだ」


 毒を飲んでも一瞬で回復するらしい。

 光里ちゃんと杉原さんも持ってるけど、光里ちゃんはそこまで大怪我をしたことないし、杉原さんはまだそこまで長く一緒にいたわけじゃないから。


「それは、王様が持っていたら最強ですね」

「ははは、そうだ。だが毒を飲んだら一瞬だけでも苦しいのでな、なるべくなら飲みたくない」

 ロイヤルジョークかな、毒飲んだってことよね。怖い。


「さて、圭人。聖剣の材料なんだが」


 コトと杉原さんが掌大の丸い青い石をテーブルの上に置いた。

 青い宝石、中央から白い線が放射状に六本。


「スターサファイアですね。天然物でこの大きさはすごいわ」


 光里ちゃんが石を見てほうとため息をついた。吸い込まれるようなほど綺麗な青。

 これが、星鉱石?

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