第93話
正面のエントランスから中央にある階段は、四人並んで上がってもまだ余裕がある広さ。手すりの彫刻は銀と青で絡み合う蔦のモチーフ。
途中の踊り場の正面には肖像画が飾ってあって、そこに描かれているのはこの国の王様ジュエル・セントリオ陛下。
金の王冠を被って赤い豪奢なマントを纏った姿は、あのイプスの街の冒険者ギルドでお会いした気さくな人物とは思えないほど威厳のある、王様だった。
ああ、でも初めて挨拶する前はとても圧が強いって思ったっけ。
「ジュエル陛下、素敵ね」
目を輝かせて絵を見る光里ちゃん。
イケメンは宝! とか言ってる。
「絵だと目の色がはっきり見えて綺麗ね」
キラキラと輝く金髪と、エメラルドグリーンの輝く宝石のような瞳。
年齢不詳なんだけど、うちのお父さんと同じくらいかな?
「これから本物にお会いできますよ。さあお二人、進みますがよろしいですか?」
絵に見惚れている私と光里ちゃんは踊り場で、他の四人は先に進もうとしていた。
いけない急がなきゃ。
光里ちゃんと一緒に声をかけてくれたパーカーさんの後ろを着いて行く。
「やっぱり会うのか」
「まあ、この場所での目的なんて、そうないと思いますよ」
ため息まじりの圭人くんと、ここまで来たんだから諦めろと言わんばかりの夕彦くん。お城で王様がいない方がおかしいよね。
「そうだ、ステータスの偽装をやめないと。王の前では不遜にあたるからな」
「鑑定を使われてしまいますか?」
夕彦くんが偽装を解除しながら、杉原さんとパーカーさんに尋ねる。
「ああ、特に圭人はしっかりと見られるだろうな」
それを聞いて、圭人くんがすごく嫌そうな顔をした。
まあ、どうしようもないし、行くだけだよね。
私は圭人くんの腕をぽんぽんと叩いて進むように促す。
圭人くんが苦笑しながら私の頭をくしゃっと撫でた。
それを見ながら光里ちゃんがやれやれって顔してて、夕彦くんもなんだかふっ、と笑ってる。
いつもの光景でやっと圭人くんが、少しだけ顔を綻ばせた。
階段を上がりきって長い廊下を進むと、一段と豪華な重そうな扉。
その前には衛兵さんが二人。
槍のような長い武器を捧げ持って、詰襟のお揃いの青い軍服を着ている。
「杉原キリだ、ここにいる落とし子たちと共に陛下に御目通りを願う」
「イプスのギルドマスター、トーマス・パーカーです。ジュエル陛下に御目通り願います」
「お待ちしておりました。お二人とも連絡がきております。お連れの方もどうぞ」
衛兵さん二人が扉を開いてくれる。
目に映った床には赤い絨毯が真っ直ぐ奥へ奥へと伸びていた。
顔を上げて正面を見ると、一段高いところに玉座が設てあって、先ほど絵画で拝見した王様が座っていた。
周りには十人ほどの派手な衣装を着た人たちが、私たちに拝謁のための道を開けているように立っている。
「ここからは、俺の真似をしていればいい。あと、貴族は大抵鑑定を持ってるからな」
緊張しながらも進む。
玉座までの道がとても長く感じる。
視線が、杉原さんを見る好意的なもの、パーカーさんを見る興味なさげな色。
そして私たちに向ける疑問と興味、その後にある驚愕。
きっとあれは圭人くんを鑑定したんだわ。
鑑定されてるなという感覚は特にないんだけど、視線は感じる。
全てが好意的なわけじゃないけど、嫌悪や攻撃的みたいな視線がないのはまだマシなのかな。
玉座の前に着き、杉原さんに習って跪く。
こういう時、スカートじゃなくてよかったって思うよ。制服だったら確実に見えちゃうよね、このポーズ。
「キリ殿と落とし子たち。セントリオにようこそ、イプスの街以来だな」
王様からの直接の声掛けに、驚く一部の貴族。こうしてみると驚いてるのは王様から少し遠い人。玉座から物理的な距離が近い人たちの方が私たちに好意的な目を向けていたように思う。
これってもしかして王様からの信頼度の違い?
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