第92話
王都セントリオにある城、裏口から入るとここに出る大理石調の美しく長い廊下。
ここを真っ直ぐ抜けると正面に行ける。
途中、左右にいくつかある扉が何か気になるけど、それよりも今は目の前の人。
私はちょうど杉原さんと圭人くんの方を向いていたので、背中から声をかけられて驚いてしまった。
声をかけてきたのは、イプスの街のギルドマスターであるトーマス・パーカーさん。
サラサラの水色の髪、キラキラした紫の瞳、銀縁メガネは変わらずかっこいい。
今日は以前、ギルドマスターの部屋で見たベストにスラックスという姿ではなくて、飾りがしゃらしゃらしている貴族風としかいえない豪華な服。
「ああ、この姿が気になりますか? 王城に上がる時は一応体裁を取らねばいけないのですよ。面倒ですよね」
本人より服をじっと見ている私と光里ちゃんの視線に応えてくれた。
見た目はとてもクールで冷徹な印象なんだけど、実は優しいことをもう知っている。
「俺たちのことで呼ばれたんだろう?」
杉原さんはどうしてパーカーさんが呼ばれたのか理解しているらしいけれど、私にはわからない。私たちが王都に到着したことと何か関係があるのかな。
「王はもうあなた方のことを知っていますから良いのですが、他の方々がね」
「面倒だな」
「そういうものです」
二人だけで成立する会話。
置いてきぼりの私たちに気がついた杉原さんとパーカーさんは、先に立って城の内部を案内しながら進んでくれた。
「謁見において、重要なのは俯きすぎないこと。王の前で顔を伏せたままにすると二心ありの疑いをかけられますから」
王様に挨拶をする時の注意事項を夕彦くんが聞いたら、パーカーさんが丁寧に教えてくれる。
もしわからなくなったら、杉原さんか自分を見ていれば良いですなんて言ってくれて、少し肩の力が抜けたわ。
「忠誠すら誓ってない相手に、二心ですか」
圭人くんが憮然とした顔をしている。
どうも貴族的なことが好きではないみたい。
この世界に来てからまた知った一面。
「ふふ、あなた方はそうですよね。まあ堂々としていれば大丈夫です。相手に礼を尽くし当たり前の態度を取っていれば自然と丁寧な仕草になる。キリ殿の国は素晴らしいところだったのですね」
故郷を誉められて、なんだかほっこりとしてしまう。
もう戻れないところだから、心だけでも残しておきたい。
カツンカツンと足音が立つくらい堅い廊下。優美な作りにため息が漏れてしまうような天井と壁の細工。
この世界の美術品が気になるわ。
扉の装飾も美しいし、配色が綺麗。
この城は青系でまとめられているのね。要所要所に使われているターコイズブルー。
「ここが、城の正面玄関だ。この階段を上がって二階の奥に謁見の間があるんだが、間取り変わってないよな?」
「城の中なんて建て直しでもしない限り、そんな変化ありませんよ。ささ、勇者キリ殿お先にどうぞ。私は最後に入りましょう」
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