054 終末の日(ラグナロク)

※残酷な表現、描写が含まれていますので閲覧する際は注意をお願い致します。




「ふむ。“良く頑張った”とでも褒めてやれば良いものか?ようやく、私もこの身体に馴染んで来たところだ」


 その声は、年老いた老人のようにも聞こえるし、成人したばかりの青年のようにも聞こえる。

 創造神が言葉を喋っただけだと言うのに、有無を言わさぬような圧倒的な威圧感を与え、今直ぐにでも跪きたくなる程。

 心臓は鷲掴みをされたように苦しく、呼吸をするのもままならない。


(何だ!?“何もされていない”のに気圧されているのか!?)


 創造神と相対しただけだと言うのに、その神威に当てられ、身動きが出来無い自分が居た。

 その見た目はイベントの前情報通りだが、醸し出す雰囲気が“ゲームの中の誰か”に似ている気がした。

 ただ、僕はその人物の事を思い出す事が出来なかったけれど、記憶と言うよりかは心が反応している感じだった。

 それに、もし、創造神の言葉通りだとすれば、今まで高みの見物を決めていた訳では無さそうだ。

 どうやら、世界を現実化させた影響により、創造神の中の“何か”がその身体に馴染むまで時間が掛かったのだと。


「だが、残念だったな。他を幾ら倒そうが、私一人いれば全てが事足りるのだよ」


 あれ程いた創造神側の勢力が壊滅したと言うのに、創造神一人だけの状況になったと言うのに、その様子からは、何一つ焦っている雰囲気が無かった。

 もしかしたら、最初からこうなる事が解かっていたのか?

 それとも、最初から全てを一人でやるつもりだったのか?

 僕には解らなかった。

 そして、創造神が僕にそう伝えると、人差し指を親指に重ねて「ピン!」と指を弾いた。

 すると、僕の顔の横を、何かが物凄い速さで通り過ぎていった。


「!?」

「この“世界の権限”は、全て私が掌握しているのだから」


 それは、一瞬の出来事だった。

 煌く閃光と爆発にも似た轟音。

 舞台となるアースガルズ世界が、何もない更地と化したのだ。

 すると、此処に来て初めて創造神が笑った。

 その笑顔は、仮にも神と言う名称の付いた人物が見せる笑顔では無かった。

 それは...

 とても。

 とても歪なもので、おぞましい程の醜悪な表情をしていたからだ。

 そして、創造神が口にした言葉。

 “世界の権限”。

 もし、創造神の言う事が本当ならば、創造神はこの世界を好きなように弄れると言う事を表している。


「世界の...権限だと?何故、お前はこの世界を壊そうとしているんだ!?」


 僕はその言葉を聞いた時、心に酷く不安を感じた。

 権限とは、特定範囲における権利や能力を有する者の事を言うからだ。

 その特定範囲が世界規模となると、もう、僕にはどうする事も出来無いから。


「何故だと?そんな事は決まっておろう。人間総(すべ)てを葬り去る為だ」


 然も、当たり前にその言葉を口にした。

 そこには喜びも、怒りも、哀しみも、楽しさも、感情らしい感情が無い。

 創造神にとっては、極自然な行いであり、特段力を入れる事では無いのだと。


「お前は、あれか?自分の住処にゴキブリが紛れ込んだらそのまま共生をするのか?もしくは、ゴキブリを愛でて共存するとでも言うのか?」


 目の前の創造神からすれば、人間は害虫と同じ扱いなのだと。

 人間を者だとは思っておらず、物か何かだと本気で思っているようだ。

 害虫駆除業者の作業員が、害虫を駆除する事に、疑問も、抵抗も、何も覚えていないように。


「ふむ。その表情は納得がいっていないようだな...然も自分達が、世界に選ばれし存在だとでも言いたげな表情だ」


 人間が今の社会を、世界のシステムを作った事は間違い無い。

 だが、それは、人間こそが頂点に立つようにと、他の生物を牛耳る事で世界を改変して来たからこそだ。


「勘違いも甚だしい。お前ら人間が生物界の頂点に居るのだと思い違いをしているからこそ、そんな考えに至るのだ」


 創造神は、決して声を張り上げた訳では無い。

 怒気を込めた訳でも無い。

 だが、その言葉は直接脳へと働き掛け、身体が「ビクッ!」と萎縮してしまう。

 まるで、精神支配を受けているかのようで、身体を思うように動かせない自分が居た。


「お前ら人間こそが...どうして、世界の過ちだと気付けないのだ?」


 僕の事を哀れみの表情で凝視めて来る創造神。

 愚かな人間よ。

 お前は、「どうして理解をしないのだ?」と。


「...僕達人間が...世界の過ちだって?」


 何を持ってして人間そのものが世界の過ちになると言うのか?

 僕に解る筈も無かった。

 人間は、何か失敗をしたのか?

 人間は、何か罪を犯したのか?

 人間の中には、それらに該当する人物が居る事は間違い無いが、人間全員では無いのだから。


「うむ。その通りだろう?人間こそが神の創りし“失敗作”なのだと。過ち以外の何ものでも無いだろう?」


 元来、神が創りし人間は善なる自由意志を持つ者として生まれている。

 だが、今のこの世界では、その善なる自由意志は変貌を遂げ、全く別のものへと変化をしているのだと。

 創造神に憑依した“何か”が、そう答えた。


「神の創りし...失敗作?それは一体どういう意味なんだ!?」


 創造神を模った目の前の“何か”が自分で口にした事だ。

 “神の創りし”。

 と言う事は、少なくとも目の前の“何か”は、神では無い。

 ...だとすれば、一体、誰がこんな事をしていると言うのだ?


「ふむ。自分では気付く事が出来ないようだな?それもまた人間の“罪”と言う事か...この世界の歴史が始まって以来、六千年あまりの時が経つ訳だが、その間。一度も争いが無くなった事はあるのか?その事からも、はっきりと歴史が証明をしているだろう?人間こそが“罪”なのだと」


 この世界が生まれてから今日に渡り、その時代ごとに支配者が何度も入れ変わりを繰り返していた。

 その都度、大きな争いが起き、憎しみや悪意と言ったものが人間の魂を穢して来たのだ。

 そうして穢れた魂は新たなる争いを起こし、人の魂を何度も傷付けて来た。

 すると、その傷付いた魂は、いつの間にか善性から悪性へと変貌し、己では抑制の効かない欲望を生み出しては“罪”を犯す。

 欲望と“罪”の連鎖だ。

 その結果。

 “罪”は償う事の出来無い因子として魂に刻まれる事となり、脈々と後世に受け継がれて来たのだ。


「罪が問題と言うのなら、その罪を認める事で、贖罪をする事で、善なる未来を目指す事が出来るのが人間では無いのか?」


 人間は過ちを犯す生き物だ。

 平和な世の中でも犯罪は無くならいし、人を殺す事もある。

 だが、それを教訓にし、今後に活かす事が出来るのも人間だ。

 社会がルールを作り、人間がそのルールを守る。

 そうする事で善良なる世界を目指しているのだから。


「他者への侵略。他生物への侵略。他国への侵略。あまつさえ、法治国家として成熟をした世界でも人間同士で争いを続ける始末。これの何処に善なる未来があると言うのだ?」


 僕の考えを読み取った上での反論。

 善良なる世界を目指すだけなら誰でも出来るのだと。

 だが、それを実行する事は不可能で、争いは決して無くならないものなのだと。

 そんな綺麗事ばかりを言う人間は、理想だけを掲げ、結局は争いの渦中にいるまま。

 何年も、何十年も、平気で殺し合いを繰り返しているのだから。


「確かに人間の中には、邪悪な存在がいる事も確かだ。これまでの歴史の中で愚かな行いを重ねて来たのも事実だろう。だからと言って、全ての人間が邪悪な存在では無いだろうが!!人間の中にも善良で他者を思いやる事の出来る、心の清らかな者達もいるだろうが!!」


 悪事を行う者と、善事を行う者を一緒くたにしてはならない。

 中にはどちらにも属さない無関心者も居るが、その両方は全くの別物なのだから。

 そのどちらかに属するかは、生まれ持った環境による部分が大きいだろう。

 だが、それでも100人居れば100通りの人間が居る。

 生涯を通して、悪事を一切働く事の無い人間だって居るのだから。


「善良な...人間?心の清らかな...者達?」


 僕の言葉を聞いて、創造神が疑問を浮かべている。

 お前は、「自分で何を言っているのか解っているのか?」と言った表情だ。


「お前は、そう言った善良な人間も、邪悪な人間も一纏めにして葬り去るつもりなのか!?」


 創造神の姿をした“何か”は、どんな目的があってそんな事をするのか?

 例え目の前の“何か”が本物の神だとしても、僕はそれを許容する事は出来無い。

 神を模倣した行いだと言うのなら、尚更だ。


「...お前は、何を勘違いしているのだ?決して、人間の中に善良な者が居るのでは無い。同じく、人間の中に邪悪な者が居るのでは無い。人間の心の中に善と悪が等しく存在をしているのだ。それを左右するのはお前らの“欲望”だろう?」


 100人の人間が居れば100通りに分かれるのでは無く、100人全員が総べからずその両方を備えて居るのだと。

 一人の人間が善か悪で分かれるのでは無い。

 それを決めるのは人間が持つ“欲望”なのだと。


「...欲望?」

「他者よりも優れたい。他者よりも楽をしたい。他者よりも得をしたい。他者よりも褒められたい。そう言った欲望を叶える為に人から奪って来たのだろう?だからこそ、争いが無くならないのだ」


 人の欲望は利己的なもの。

 それを叶える為に他者を蹴落とし、相手から奪って来るのだ。

 だからこそ、人の心は堕落し、罪を重ねて行くのだと。


「...奪って来た?」

「では、一体。お前は何の為に戦って来たのだ?」


 突然の質問。

 だが、僕が戦う理由なんて一つしか無い。


「それは、この不条理な現実を生き残る為に!!」


 人間の欲望が際限無い事は僕も知っている。

 そう言った人物を目にした事もあるし、実際に被害を受けた事もある。

 だからこそ、目の前の事実をありのまま享受する事など出来無い。

 理不尽な現実に抗って自分の居場所を作らなければならないのだから。


「だから...お前は。殺して来たのだろう?」


 その言葉が胸に突き刺さる。

 身体を傷付けられるよりも「ズキッ!」と痛む精神。

 幾ら悲劇を気取ったところで、周囲から沢山の同情を得たところで、此処までに「お前がやって来た事は何だ?」と、そんな事実を突き付けられて。

 天使達を殺し、黄昏の神々を殺し、四体の魔物を殺し、そして、今に至るのだから。

 

「!?」


 僕は、決して好き好んで相手を殺して来た訳では無い。

 自分が生き残る為に、必死になっていただけだ。

 だが、奪うと言う事はこう言う事だったのかと理解する。

 そうなると、僕は、生きて行く上で何気無く奪って来たものが沢山あるのかも知れない。

 自分では気が付いていない事だけれど、他人からすれば奪われている事なのだと。

 友人、恋人、社会、名誉、地位。

 “競争し合う”、“お互いに切磋琢磨する”と言った、自分の都合の良いように言葉を言い換えているが、結局それらは奪い合っている事なのだと。


「お前が戦う理由は自己保身の為では無いのか?そこには勿論、己の欲望が含まれている。又は、友の為か?家族の為か?正義の為か?愛の為か?」


 人が戦う理由は千差万別だろう。

 誰しもが己の信念に基づいて行動をしているに過ぎない。

 だが、それも他者からすれば、全く別の視点に切り替わるのかも知れない。


「...」


 僕が信じるものは、自分自身で体験をした中で培った来た己の価値観だ。

 だが、それはきっと。

 自分の都合の良いように解釈したエゴなのだろう。

 自我、自惚れ、自尊心、自負心。

 どれも自分主体なのだから。


「お前だけでは無いのだよ。相手も同じように、そう言った理由の為に戦っているのだから。まさか、自分だけが正義の英雄だとでも思ったのか?それこそ己に都合の良い解釈では無いのか?」


 僕にとっては僕自身が主人公。

 それは当然だ。

 だが、相手からすれば相手も同じ事。

 相手の物語の中の主人公は、相手なのだから。


「憎しみ。悲しみ。怒りなどと言った感情は、突然外から訪れるものなのか?違うだろう。お前達の中で起きた事に対して湧き上がるものだろう。連鎖をしているのだよ。永遠に止む事の無い、負の連鎖が」


 やられたらやり返す。

 倍返しが基本の社会。

 当然、その反動は我が身に返って来るものだ。

 だからこそ、人間の争いが無くならず、罪を重ねてしまうのだと。

 一度犯した罪が償えないとは、こう言った理由からなのかも知れない。

 自分の悪口を言われれば、その相手に怒りが湧き、同じように罵倒をしてやりたくなる。

 自分の信じていたものに騙されれば、その事実に悲しみ、同じように絶望を与えてやりたくなる。

 自分の好きな人を殺されれば、その殺した相手を憎み、同じように殺してやりたくなる。

 確かに、これでは罪の連鎖が止まる事は無い。


「だからと言って、人間を全て殺して良い理由にはならないだろう!!」


 罪を犯した者に対しては、それ相応の罰が必要だろう。

 時には隔離する事も。

 だからと言って、罪を犯した者、その全員を殺す事は違う。

 そして、罪を犯していない者を殺す事も。

 この世界が、幾ら争いが無くなる事の無い世界だとしても、僕は殺される事を望まない。

 ただただ、相手から奪われる事など望まない。

 それは、誰しもが、ただ殺される事などを望んではいないのだから。


「殺して良い理由だと?だとすれば、人間を“生かす”理由も無いだろうが」

「!?」


 憎しみ合う事だけが、全てでは無い事は確かだ。

 実際に争いを起こさず平和に暮らして居る人々も居るのだから。

 だが、それは現実を見ていないだけなのだと。

 我関せず、いち傍観者に過ぎないのだと。

 ネットやニュースで流れる情報を、ただの言葉、ただの文字として捉え、決して自分から介入する事が無い。

 自分だけが安全なところで理想だけを語り、被害の受けない一方的な空想を語る始末。

 それは結局、世界を乱している行為なのだと。


「...良い加減、理解をするべきなのだよ。人間は創り直さなければならないのだと」


 人間が生まれた事は偶然なのかも知れない。

 もしくは、本当に神が創り出した者なのかも知れない。

 だが、魂に刻まれた罪の所為で負の連鎖が起き、人間そのものが壊れてしまったのだと。

 罪を犯したその一度が取り返しのつかないもので、二度と消え失せる事が無いのだと。


「罪の因子を何一つ持たない、真の愛だけに満ちた新たなる人間を生み出さなければならないのだと」


 だからこそ、罪の因子を取り除いた、悪意を持たない真なる人間を造り直さなければならないのだと。

 上辺だけの思いやり。

 上辺だけの慈しみ。

 上辺だけの愛。

 そう言った欺瞞だけの心では無く、真の愛を持った人間を。


「真の愛だって?」


 僕はその言葉に疑問を持った。

 愛を分別する目の前の“何か”も、結局は選別をしているのでは無いのか?

 自分の都合の良いように言葉を並べ、それっぽく語っているが、自分が頂点に居る世界で、自分の都合の良い人間だけを生かしたいのだと。

 そんなものは、ゲームの世界で街づくりでもしていれば良い事だ。

 もし、同じような事を本物の神が言ったとしても、僕はそれを否定する。

 すると、途端に相手から受けていた神威、威圧感と言ったものが薄れて行った。


「ああ、その通り。お前らが捧げいる愛は、もはや壊れたものなのだから。他者から奪う事でしか成り立たない愛。決して、見返りを求めない真なる愛では無いのだから」


 見返りを求めない事が真なる愛?

 それこそが都合の良い解釈だろう。

 僕には、その言葉が、人を愛する気の無い奴が言う言葉にしか聞こえなかった。

 愛はお互いに育んでこそ結び付いて行くものなのだから。

 そうか。

 お前も、僕と一緒なのだろう?

 人を愛した事も、人に愛された事も無い。

 だからこそ、そんな馬鹿げた事を言えるのだ。


「さて、お喋りはこれくらいで宜しいかな?お前は最後の一人だ。自分の殺される理由も理解せず、最期を迎えるのは嫌だろう?それに、私自身も納得が出来るものでは無いからな。さあ、私の悲願を達成する為にも、創生の樹の浄化を成すとしよう」


 子供が癇癪を起こし、砂場に出来上がった不恰好なものを真っさらにして造り直す。

 そんな感覚で言う目の前の“何か”。

 確かに、創造神と言う格に見合った言葉の重みは感じる。

 だが、その言葉に背景は伴っていない。


「結局は、己の悲願を達成する為だって?馬鹿にするなよ!!それもお前自身の欲望じゃ無いか!!」


 決して相入れる事の無い二人。

 お互いの信念も、価値観も、全く違うのだから当然だ。

 ならばこそ、決着をつけなければならないのだ。


「だったら、僕だって自分の欲望に忠実になってやるよ!!」


 今まで、満身創痍で無理をして此処まで来た。

 疲れや体力が関係無いところで僕の身体はずっと熱を帯び息は荒い。

 脳は酷使され動悸が止まらない。

 全身の筋肉は断裂し関節は軋んでいる。

 回復アイテムを使用しても治せない状態だ。

 もしかしたら、僕はもう...

 突然、不意に意識が落ちそうになる程の疲れが押し寄せ、細胞全てが悲鳴をあげて動くなと言われているようだ。

 それもその筈。

 もう、まともに動けている事が有り得ない状態だから。

 ただ、生きたいという願望のみで犠牲を省みず此処まで来た。

 後は目の前の創造神だけ。

 やり遂げるんだ。

 苦しみを解放する為に。

 地獄を抜ける為に。

 無理をしてでも、限界を超えてでも、寿命を減らしてでも、生き残る為に。

 出口の無い迷路を彷徨うのでは無く、迷路の壁を壊して其処から抜け出すように。


「僕が僕である為に!!この世界で生き残る為に!!」


 そして、僕は、創造神へと立ち向かって行く。


「バカな...どういう事だ!?支配が出来ないだと?」


 何やら創造神の様子が可笑しい。

 僕を見ながら、自分の思った事が出来ていないように感じる。

 だが、僕はやる事は変わらない。

 それが神と名称が付いた至高の相手だとしてもだ。


「相手が誰だろうが関係無い!!神だろうと...生き残る為に。殺す!!」


 そうして、お互いに戦闘をしてみて解った事だが、どうやら、この現実化した世界でも、超レイドBOSSであった頃の創造神の設定に変更が無い。

 物理攻撃と魔法攻撃に対してランダムで無効化されて行くが、攻撃の種類に全く差異が無い。

 それどころか、その現実化(憑依)した身体の所為で、スキルや魔法と言ったものに慣れていないようだ。

 創造神の中の“何か”は、ゲームの身体に馴染んだだけで、世界のシステムに馴染んだ訳では無いようだ。


「...まさか!?この私が、ゲーム世界の数値に依存しているとでも言うのか!?」


 創造神が思い通りに成らなくて叫んでいる。

 もともと創造神の中の“何か”は、ゲーム世界を現実化出来る程の能力を有していた。

 それは、まさに神と言われる力。

 その超常なる力を持っていた筈なのだ。

 だが、現実化した事で、創造神の身体を乗っ取った事で、それらの事が逆に能力を縛っているようだ。

 どうやら、ゲーム世界の能力と言うものを忠実に再現してしまったようだ。


「まさか...私が何も出来ずに終わるのか?」


 そうは言っているが、創造神の攻撃は確実に僕の生命を、僕の寿命を削っている。

 僕も何とか相手の回復能力を超えてダメージを与えているが、どうしても相手の反撃をその都度貰ってしまう。

 これは究極の我慢比べ。

 どちらが先に死ぬか?

 どちらが生き残れるか?

 だが、僕はこの状況でも必死で諦めない。

 最後まで奇跡を掴もうと身体を動かす。

 相手の行動に注意を払いつつ最後まで気を抜かずに。

 力を振り絞り吠える。

 我武者羅に体を動かし足掻く。

 足掻いて、足掻いて、生命が続く限り、相手の全てを消滅する為に。


「これで決める!!!」


 幾度と無く繰り広げた攻撃は一瞬の静寂の後終わりを迎える。


「バカな...身体が崩れて行くだと?」


 創造神の身体が徐々に崩れて行き、肉体の崩壊が始まった。

 長い戦いに、ようやく決着がついたのだ。

 天変地異が巻き起こる中での世界終末の戦いに...


「私の...願いが...これでは叶えられ無いでは無いか...」


 創造神の最期の言葉。


「■■■...運命...あらが...ない」


 それが何を意味しているのかは解らなかった。


 だが。

 やっと終わった。

 此処まで長かった...

 やっと地獄から抜け出せた。

 苦しみから解放される...

 精神はすり減り、身体は動きそうに無い。

 思考もだんだん機能しなくなり、意識が遠のく...

 意識が薄れて行く中。

 何かが変化をしていた。

 だが、それはもう僕には関係が無かった。

 何故なら、既に僕の身体も崩壊を始めていたから...


 ただ、

 ただ、

 ただ。

 生きていたかった...


 どうやら、僕は奇跡を起こせなかった。

 無数の天使達、階級の違う黄昏の神々、実装データの無い四体の魔物、そして、この騒動の中心人物である創造神。

 僕はその全てを殲滅したが、支払った代償が底知れ無い。

 僕と同じように実体化したプレイヤーの全て。

 ユグドラシルに住まう様々な種族の面々。

 この世界の神々のアース神族。

 そして、世界の主神であったオーディン。

 それはラグナロクRagnarφkの全てを失った。

 勿論、その中には“僕”も含まれて。

 『映画や漫画の主人公のように格好良く世界を救って無事に生還する』と言う事が出来なかった。

 世界も、人も、僕も、その全てが消えたのだ。

 舞台となった世界、九つの壊れた世界ユグドラシルだけを残して。


 ああ...


 沈んでいく...


 光が遠ざかる...


 意識が遠のく...


 深い、深い闇へと...


 そして、意識が消え行く中で鳴り響く音声。


 [神殺し]の称号を...

 [支配者]の称号を...

 [破壊者]の称号を...


 種族[天使]が[悪魔]に...

 [大天使]が[大悪魔]に...

 [主天使]が[堕天使]に...

 [神人]が[魔神]に...


 職業[召喚士]が[天魔を統べる者]に...


 全てのスキルをマスターした為[スキルマスター]に統合...


 全ての魔法をマスターした為[魔法マスター]に統合...


 固有スキル[自動体力回復(中)]が[自動体力回復(特大)]に...

 [自動魔力回復(中)]が[自動魔力回復(特大)]に...

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 新たに[再生]を獲得...

 [■■■]を獲得...

 才能[限■突■]を獲得...

 [能■■造]を獲得...

 [能■破■]を獲得...


 イベントの集計...

 「■■城」を獲得...


 もはや、これらを理解する事は出来ていなかった。

 最後まで生きるという思いは、最期となってしまった。

 既に僕の思考は...

 完全に停止をしていたのだから。
































 壊れた九つの世界ユグドラシルが、長い年月を掛けて再び世界樹へと集まり一つの世界として生まれ変わる。

 その壊れた世界を世界樹が繋げるように、埋めるように、補填をしながら地球のような丸い球体へと。


(...?)


 意識が...


(ここは?)


 意識が...徐々に覚醒して行く。


(ここはどこだ?)


 それは光が届かない筈の海底に一筋の光が照らして導いてくれるように。


(何処にいる?)


 深い闇のような意識の根底から自分と言う意識を認識する。

 意識に沈んでいた思考が機能を取り戻して行く。

 “無”となっていたものが、再び、生まれ変わるように活動を再開させた。


「ここは何処だ?」

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