052 七つの封印

※残酷な表現、描写が含まれていますので閲覧する際は注意をお願い致します。




「遠回りになるが、生きる事が最優先!ならば、先にお前らから殺す!!」


 僕の邪魔をするならば。

 僕を殺しに来るならば。

 そうなる前にそいつらを殺す。

 魔物は、僕の下に辿り着くまで速さにばらつきがある。

 だとしたら、囲まれる前に一対一で殺すのが最も安全策。


「手始めに、邪魔な天使達から!!」


 それならばと、先ずは邪魔な周囲の天使達を一掃して行く。

 武器を弓矢に切り替えて、天に向けて無数の矢を放つ。


「シューティングスター!!」


 無数に放った矢が、天空から流星雨のように天使達に降り注ぐ。

 その降り注ぐ矢は物理の法則を、落下速度の重力を無視して加速を繰り返す。

 そして、放たれた無数の矢は一つも外れる事が無く天使達を貫き、地面に着くまでに天使達の全てを燃やし尽くした。

 これで最悪の状況の一歩手前から脱する事が出来た。

 ならば、僕の方から魔物の下へと向かえる。

 到着にばらつきのある魔物の中から近い魔物を探す。

 すると。


「ここから近いのは、獅子の魔物と山羊の魔物か...というか、分離してたっけ?」


 僕が見た時は、二体が合成された魔物だった気がする。

 だが、今は別々に動いているようだ。

 しかも、分離した魔物は、別々の方向から僕に近付いて来ていた。

 若干、獅子の動きの方が速いようだ。


「面倒なのは、魔法攻撃に物理攻撃のどちらが効くのか...」


 時間が限られた中での戦闘。

 それも一分一秒が惜しいと言うのに、見た事も無い魔物と戦闘をしなければならない。

 その上、魔物の性質も解らない状態で相対しなければならないのだ。

 魔法攻撃が効くのか?

 物理攻撃が効くのか?


「だったら物理攻撃から!狙い撃つ!」


 すかさず二体の魔物の性質を調べるようにそれぞれを弓矢で攻撃する。

 放たれた矢は閃光を放ち、必中と化す最速の矢。

 すると、結果が二つに分かれた。

 獅子の魔物には矢がそのまま突き抜けて行き、山羊の魔物には矢が弾かれた。


「獅子の魔物には物理が有効で、山羊の魔物には魔法が有効なのか!それが解ったのなら、速攻で片付ける!」


 二体の魔物の性質が解ったところで、装備を剣に持ち替えて獅子の魔物に立ち向かう。

 その前に、山羊の魔物を魔法で牽制しながら動きを止めて。


「フレアスフィア!!」


 山羊の魔物には、炎属性の魔法で身動きを制限する。

 魔物の左右から襲い掛かる10個の炎の球体。

 その一つずつが、太陽フレアの爆発エネルギーと同等の熱エネルギーを持っている球体だ。

 周囲にはプラズマの塊が放出されて電磁嵐が起きている。

 近くに機械があったのなら瞬時に故障している事だろう。

 山羊の魔物は必死でそれを避けようと動くが、その球体が持つ熱エネルギーに身体を燃やされてしまい動きを止めてしまった。

 この身動きを止めている、その数秒の間。

 僕は、その刹那にも似た刻の中で獅子と相対する。


「空間転移!!」


 獅子の背後へと一瞬で移動をする。

 これまでの天使達に囲まれている状況では転移後の隙を突かれた場合、為す術が無くなるので使用しなかったが、今は天使達を一掃した後だ。

 しかも、この場にいるのは分離した二体の魔物だけ。

 安全を確保した上での瞬間移動となる。

 そして、獅子の魔物は、突然消えてしまった僕を探すように動きを止めて周囲を見渡している。

 僕が背後にいる事に気付いていないようだ。

 見失っている今が絶好機。

 先程の牛頭人身の魔物との戦いで解った事がある。

 それは、魔物を殺すなら、その核ごと跡形も無く消滅させなければならないと言う事だ。

 無防備な獅子の魔物の背後から、最大の戦技(アーツ)を放つ。


「その存在を塵すら残さない!!絶覇滅消閃!!」


 大層な名称が付いた攻撃だが、これは単に僕が技名を変えているだけの事。

 その攻撃は、ゲーム時代に覚える事が出来る何の変哲も無い戦技(アーツ)なのだから。

 ただ、その剣撃は、時が刻まれる前に無数の剣撃を魔物に与え、相手の全てを斬り刻むもの。

 それも、魔物に斬られていると言う事実を知覚させる事の無い速さでだ。

 ゼロコンマ何秒の世界の中、無数の剣閃が縦横無尽に駆け巡った。

 そうして獅子の魔物を、跡形も無く消滅させた。

 僕は、すかさず魔法で身動きを止めていた山羊の魔物を追撃して行く。


「全てを燃やし尽くせ!!プロミネンス・ウェーブ!」


 山羊の魔物の周囲に赤黒い粒子が煌めいている。

 すると、紅炎が波のように何度も立ち上がった。

 その紅炎が立ち上がる勢いで、身体を削りながら燃やして行く。

 ゴウゴウと音を鳴らしながら噴出する紅炎は、山羊の魔物をものの数秒で消し炭へと変えてしまった。

 オーディンが油断をする事で苦戦した合成獣を、僕は一瞬の内に獅子の魔物と山羊の魔物を消滅させた。


「先ずは、一体目!!」


 すると、遅れてこの場に走って近寄って来る牛頭人身の魔物。

 その魔物は、今は熱を持ち身体が溶岩のような皮膚に覆われたゴーレムだが。

 丁度その時、五度目のラッパが鳴り響いた。


「プァーーーーーーン!!!」

「ちっ!五度目のラッパ音!時間が無い...次は、あいつか!!」


 このゴーレムはラッパの音(奇数回)に合わせて度々その性質を変化させて来た魔物。

 一度目の時は魔力が膨れ上がり魔法攻撃に耐性を持った。

 三度目の時は魔力に炎属性を纏い攻撃耐性(物理、魔法)が逆転した。

 そして、今は五度目。

 ただ、正直。

 どういう風な変化を遂げたのか全く想像が出来無い。


「奇数ごとに性質を変化して来たのなら、今回は魔法攻撃が効かない番なのか?」


 今までの状況を踏まえれば、五度目の変化で魔法攻撃が効かなくなっているかも知れない。

 だとすれば、それを踏まえて物理攻撃から試して行く。

 相手はゴーレムのような身体に変化した為、動きそのものは遅くなっていた。

 牛頭人身の時のように走れる訳では無いので余裕がある。

 ただ、その全身が燃え上がる質量で迫って来る巨体は、かなりの脅威だ。

 近寄る事が出来無い為、弓を力一杯に引き目標目掛けて矢を放った。

 果たして、燃えている身体に矢が届くのかは解らないが。

 そして、勢い良く真っ直ぐ進んで行く矢は、無事に魔物の身体まで到達する事が出来たが、「カンっ!」と表面の溶岩(皮膚)に当たる前に攻撃が弾かれてしまった。


「攻撃が届いているけど、物理攻撃が弾かれている...だったら、魔法攻撃で仕留める!」


 物理攻撃をものともしない魔物は、僕目掛けてドスドスと真っ直ぐ走って来る。

 僕からすれば、狙い易い的でしか無いけれど。

 ただ、前回魔法攻撃を仕掛けた時。

 氷魔法では、身体を固めるだけで破壊する事が出来なかった。

 また同じ事をしても、再び動き出す事は明白だ。

 それならば、魔物の身体を、魔物の核を、その全てを破壊する為の魔法を使用する。

 その燃え上がる身体(溶岩)に極大の爆発を起こす魔法。


「全てを爆砕せよ!エクスプロージョン!!」


 魔物の中心部に、急激に赤い粒子の塊が収束して行く。

 線状に周囲のマナを吸収しながら塊が圧縮と膨張を繰り返す。

 そして、臨界点を超えた時。

 周囲の空気を巻き込みながら超爆発を起こした。

 その衝撃はこちらまで届く程の威力。

 だと言うのにだ。

 その超爆発も魔物の身体に弾かれていた。


「なっ!?物理も魔法も効かないのか!?」


 ゴーレムの魔物は結果的に物理攻撃も、魔法攻撃も弾いた。

 そのどちらの攻撃も効かない事は初めてだ。

 動揺が激しい。

 どちらの攻撃も効かないのなら、僕に倒す手段は無いのだから。


「...」


 今一度、魔物の性質を冷静に思い返して行く。

 これは時間を掛ける訳では無く、我武者羅に攻撃をする無駄な時間を省く為だ。

 ラッパ(破滅)の音は待ってくれないのだから。

 最も必要な事が、時間を無駄にせず魔物を倒す事なのだから。


「...もしかして、物理攻撃も魔法攻撃も効かないのでは無く、体外と体内で耐性が違うのか?」


 これが答えかは解らない。

 魔物の表面は攻撃も魔法も弾いた訳だが、もしかしたら、体内ならばそのどちらかが効くのではと考えた。

 丁度、魔物の核も体内にある事だ。

 ならばこそ、魔物の内部から破壊する事を試す。


「結界を張って内部へと侵入する!!」


 魔物の身体が大きい事が幸いだ。

 その事を逆手に取り、魔物の口から内部へと進入して行く。

 魔物の身体は溶岩で出来ている。

 表面温度も十分に高いが、その内部はもっと熱い。


「くっ!熱いな...」


 熱耐性と結界で放熱を遮断しながら、核のある心臓部を目指して進んで行く。

 だが、核に近付く程、熱は上がって行き、熱耐性や結界を越えて容赦無く高温が襲い掛かって来る。

 汗が止まらない上、身体中の水分がドンドン失われて行く。

 体内の水分が渇き、焼かれてひりつく喉。

 乾燥をして行く肌。

 高音を帯びた呼気。

 そして、フラつく肉体。

 身体が危険信号を鳴らしている事が解る。

 だが、止まる事は出来無い。

 殺さなければ、殺されるのだから。


「...核が見えた!!」


 これから始めるのは、魔法と科学の応用。

 熱を生み続ける核を利用して、身体の内部で水蒸気爆発が起きるように多量の水を生成して行く。

 何故なら、水が熱せられて水蒸気となった場合、その体積が約1,700倍に膨れ上がるからだ。

 その多量の水と高温を生み出す核が接触を起こし、瞬間的な蒸発による体積の増大で爆発を起こす事が狙いだ。

 ただ、普通に魔法で水を生成しても出した瞬間に蒸発してしまい、狙った事が出来無い。

 その為、魔力を余計に使用する事になるのだが、水が高温に触れないよう結界でコーティングする。

 フラついているところに、魔力消費による気を失いそうなギリギリの作業。


「!?」


 一瞬、気を失いそうに目の前が真っ白になる。

 だが、魔物の内部に多量の結界でコーティングした水が丁度満たされると。

 僕は一目散に魔物の口から外部へと出て行った。

 外の空気に触れた瞬間、身体の熱が放出されて行った。

 ようやく、肺に酸素を取り入れる事が出来る。

 そうして呼吸をしっかりする事で身体中に酸素が行き渡った。

 後は結界を解除するだけだ。

 一度深呼吸をして。


「...解除(リリース)!」


 すると、魔物の内部に行き渡った水が、全身の熱に反応を起こし身体の至る箇所で爆発が連鎖して行った。

 それは火山が大噴火を起こしたような勢い。

 爆風と衝撃が周囲に広がって行く。

 そうしてあっという間に身体の崩壊が始まり、魔物を核ごと極大の爆発で木っ端微塵にした。


「これで二体目!!あとは、昆虫と獣の合成獣を倒せば子羊の下へ辿り着けるぞ!」


 その合成獣を確認すると、未だに同じ固体が増殖を繰り返していた。

 移動で近寄るのでは無く、増殖で距離を埋めて行く。


「増殖!?...ならばその増殖よりも早く駆逐する!!出し惜しみはしない!!僕の持てる魔法で仕留める!!」


 今の僕は、疲労も少しづつ蓄積された状態。

 だが、泣き言は言ってられない。

 動きを止めれば殺される。

 七度目のラッパが鳴れば死ぬ。

 それだけは絶対に嫌だ。

 生きる事を諦めて、殺されたく無い。

 生きる事を放棄して、死にたく無い。

 だからこそ、限界を超えて動き続けるのだと。

 そうして上級属性の最大級の魔法を連続で放って行った。

 だが、魔法での駆逐と魔物の増殖が同じスピード。

 どうやら、合成獣は全能力を増殖に振り切っているようだ。


「流石に数が多いようだな...ならば“魔力ブースト”で全効力を上げる!!」


 固有スキル“魔力ブースト”。

 イベントでの個別戦。

 そのイベント戦1位の報酬で手に入れた限定固有スキルだ。

 効果は、魔法に使用する魔力の際限を取っ払い、威力、範囲の効果を何倍にも高めるもの。

 ゲーム時代では消費魔力の10倍までが限度だったが、いまの現実となった世界ではどうなるのか?


「!?」


 それを確かめる為に魔力ブーストを使用して魔法にありったけの魔力を込めて行く。

 すると、自分自身の魔力が際限無く、魔法へと込められて行く事が解る。


「魔法に込められる魔力の限度が無くなっているのか!?...こうなっては、とてもじゃ無いけど、その威力がどうなるかなんて想像出来ないぞ!?」


 この戦闘後には、子羊の討伐。

 天使達に黄昏の神々。

 この世界には居ない、人頭象身の魔物。

 更には、最大の難敵である創造神との戦闘が残っている。

 今の時点で連戦になる事は十分に理解している。


「...ならば、一気に勝負を決める!!」


 この戦いを早く終わらせる為にも、まだ残っている魔物を倒す為にも、自身の持てる力を最大限に発揮する。


「プレイヤーも、NPCも、生存者がいない今の状況なら!」


 増殖を続ける魔物を壊滅する為、これから放つ魔法に自身の限界まで魔力を込めて行く。

 これは現実化する前のゲーム時代ならば、これ程の魔力を一つの魔法に込める事は出来なかった。

 だが、その際限が無くなり、幾らでも魔力を込める事が出来る今ならば。


「全てを飲み込め!!ブラックホール!!」


 増殖で広がる合成獣の中心部に黒い塊が生まれる。

 その黒い塊は徐々に大きくなり、周囲を否応無く全てを引き込んで行く。

 引き寄せる超重力により、合成獣の身体をゴムのように、茹で過ぎたパスタのように引き伸ばしながら。

 その黒球は、範囲も桁違いに広がり、持続効果も延びたものだ。

 増殖を続けていた合成獣も、もはや増殖すら何も出来無い状態へと陥った。

 ただただ、その黒い穴に全てが飲み込まれて行ったのだ。


「まさか、現実化した事でここまでの威力が出せるとは思わないよ...これは...人が居たら絶対に使えないな...」


 現実化した事で、際限の無くなった魔力ブーストの効果に驚愕する。

 人が、NPCがいたらと考えると、途端にその威力が恐ろしくなった。

 だが、これでアースガルズ世界にいた魔物は全て倒した。

 ようやく、邪魔者がいなくなった。

 僕は、一目散に子羊の場所へと目指す。

 だが、その時。

 終焉に近付く、六度目のラッパが鳴り響いた。


「プァーーーーーーン!!!」

「くっ!時間が無いぞ!!」


 封印の解除まで後一度。

 間に合わない場合は、即死を意味する。

 焦り、不安、恐怖。

 そのどれもが、僕の心を蝕んで行く。


「♪♪♪ー!!」


 すると、天に広がる天使達は更に激しく歌を唄い始めた。

 猛り狂った怒りのような声を発し、アルト、ソプラノと天使達が分かれて歌っている。

 それもパートを入れ替えながら激しく行き来させて。

 だが、その歌声には音程、リズムと全くズレが無いもの。

 激しくも恐ろしいその合唱は、聴く者の精神を破壊し、脳を支配して行くようだ。


「これは、直接...精神に左右して来るのか?」


 天使達の人相も先程までとは豹変し、今まで目を閉じていた瞼も開かれ、鋭い眼光を放っている。

 天使らしい優しい表情は消え、悪魔のような険しい表情へと変化をしている。


「これが...天使だって?こいつらこそが...悪魔じゃないか!?」


 そして、更に全世界では、大規模な地割れ、津波、雷雨、嵐が起き始めた。

 破滅へ向かう崩壊。

 確かに、これまでも天変地異と呼ばれる地形を変える程の魔法はあった。

 だが、今起きている災害はそれ等の比では無い。

 まさに世界の終焉の始まり。


「くっ!もう猶予が無い!!」


 この壊れ始めている世界を見て、もし、七度目の封印が解かれたらどうなってしまうのか?

 解っている事は、生き残れない事だけだ。

 そんな不安が過ぎる。

 急いで子羊を倒さなくてはならない。

 僕が生き残る為にも。

 すると、それを阻むように突然。

 僕の目の前に巨大な龍が現れた。


「ギャオーーーーー!!!」

「な!?龍なんて一体何処にいたんだ!?」


 驚くのも無理は無い。

 その正体は、もともと龍では無く、双頭の合成獣の尾の部分。

 蛇なのだから。

 オーディンを飲み込む事で種族進化を起こし、龍へと変貌を遂げていたのだ。

 進化をした事で、更にはオーディンの能力を吸収する事で、蛇の大きさだったものが龍と呼ばれるまでに巨大化をしていた。


 そして、更なる危機が僕を襲った。

 目の前に、別の世界に行っていた筈の人頭象身の魔物が現れたのだ。

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