024 ハデス帝国⑥
「これならスケルトン達が生まれて来るよりも早く倒せるぞ!」
戦場を疾風のように駆け回りながらスケルトン達を破壊して行く。
相手に動きが遅いから、余計にそう感じるのかも知れない。
だが、相手も全員が同じ行動をしている訳では無い。
魔法使いのスケルトンウィザード。
遠距離攻撃のスケルトンアーチャー。
僕の不意を突かれてしまえば、どちらもとても厄介な相手だ。
「お前らは、魔法の発動前に倒す!」
魔法を使用して来るスケルトンウィザード。
発動魔法はファイア、アクア、ウィンドと言った基本属性の低位のものだけだ。
その為、注意をするのは、呪文の詠唱前、もしくは詠唱中に近付いて破壊する事。
ただ、多数のスケルトンウィザードから魔法が発動されてしまうと、この狭い空間では避ける手立てが無くなってしまう。
「お前らは、矢の導線にさえ気をつければ何の問題も無い!」
弓矢で攻撃して来るスケルトンアーチャー。
注意をする事は、常に周囲へと気を配り、弓矢の導線上に他のスケルトン達が重なるように動いて矢の攻撃を防ぐ事だ。
弓矢を放った後、相手の隙が出来た時に一気に距離を詰め寄って破壊すれば問題無い。
「空間を把握しながら、常にスケルトン達の立ち位置を気を付ければ!!」
スケルトンが地面から生成される前に、それよりも速く動き、部屋の中に居るスケルトンを破壊して行く。
「これで、どうだ!!」
此処まで既に100体前後のスケルトンを破壊している。
そして、全部のスケルトンを破壊し終え、部屋の中に僕一人だけとなる。
先ずは、「ふーっ」と一息。
そして、周囲を見渡す。
「...これで良いのか?」
だが、魔法陣はまだ起動していた。
再度、魔法陣が赤黒く発光されると、新しく40体程のスケルトンが一度に生成された。
全滅をさせたが、関係無しにスケルトン達が生まれて来た。
「新たなスケルトンが生成される前に、部屋の中のスケルトンを全部破壊したとしても意味が無いのか。じゃあ...必要なのは、討伐数か?」
試練の最初に、オクタウィアヌスに宣言された条件は数だった。
と言う事を考えれば、鍵になって来るのはスケルトンの討伐数になりそうだ。
「この感じだと、討伐数が、500体くらいが目処になるのかな?」
スケルトンをいとも簡単に壊せる事からも、目標数が200体とか300体とかでは収まる事は無さそうだ。
やはり、数字的にも切りが良い数字となるだろう。
そう思いながらも、新しく生成されたスケルトン達を駆け回りながら破壊して行く。
「ただ破壊して行くだけじゃあ、試練にはならないよな...僕自身、いろいろと試してみるか?」
実践が最大の練習となる事からも、新しい事へと挑戦してみる。
それは、戦闘中に装備の切り替えを行い、近距離と遠距離を瞬時に交代させる事。
近い敵にはナイフや杖で攻撃をし、遠い敵には弓矢で攻撃をする。
出来れば魔法も組みあわせたいが、詠唱時間がネックになるので難しそうだ。
「戦闘時の装備の切り替え...これが今後の戦闘の鍵になって来るはず!」
装備の切り替えでポイントとなるのはナイフと弓矢の切り替え。
ナイフは常備装備して、弓矢をすぐ放てるようにと弓を肩にかけておく。
「実践でどこまで出来るか解らないけど、その練習も含めて特訓をしてみるか」
此処からは、装備の切り替えを意識してスケルトン達を破壊して行く。
ナイフから杖はスムーズに切り替えが出来るが、ナイフから弓の切り替えに苦戦する。
「弓に切り替える。構えて標的を狙う。この2工程が、どうしても上手く出来ないな...もう少しスムーズに出来れば、対人戦でも活躍が出来ると思うんだけど...」
ナイフの場合は主に近距離主体のスケルトンに、杖の場合は主にスケルトンナイトに絞る。
その際、装備で身を固めているスケルトンナイトに対しては、蹴りも混ぜながら鎧の中に衝撃を与えて壊して行く。
動けなくなった所で兜を蹴り上げ頭を破壊する。
余裕がある場合は無属性魔法のマナスラッシュで装備ごと切り裂く。
「うん!ナイフと杖の切り替えなら問題は無いな。後は、ナイフから弓。杖から弓の切り替えだな」
弓に切り替えた場合。
遠距離から僕を狙って来るスケルトンアーチャーやスケルトンウィザードを優先して倒して行く。
その切り替えがスムーズに出来るようにと、何度も何度も繰り返して。
スケルトン達の討伐数が増えて行く。
「やはり、課題は弓の切り替えか...」
...200体。
「おっ!少しずつだけど、確実に良くなっているかも?」
...300体。
「ははっ。これはいい感じだな!切り替えも、だいぶマシになったかも!」
...400体。
「凄いな!なんだか、動きが体操選手みたいになって来てるよ!」
部屋の中のスケルトンが減り始め、ふと周りを見る。
地面に描かれた魔法陣の光が薄まっている。
魔力の供給が途切れて来たのだろう。
新たなスケルトンも生み出されていなかった。
この場に残っているスケルトン達の数からしても、次が丁度切りの良い500体目。
これはもしや、終了が見えて来たのかと喜ぶ。
「これで500体目!!どうだ!?」
500体目のスケルトンを倒した時、周囲を見渡す。
魔法陣の光が消え、反応が無くなっていた。
「これで試練が終了なのか?...武器の切り替えのコツを掴み始めていたから、もう少し練習したかったけどな...」と少しばかりの成長を実感していた。
だが、今までのように試練の終わりを告げるオクタウィアヌスの姿が見えない。
「これは...どうやら、終わりじゃ無い?」と思った瞬間。
再び、地面の魔法陣が光輝き、新たな煙が噴き出した。
部屋の中がその煙で満たされると地面の魔法陣が赤黒く発光し始めた。
「やはり、500体じゃ終わらないか...でも僕にとっては丁度いいぞ!これなら武器の切り替えの精度が上げられる!!」
此処から先。
どれ程のスケルトンを倒せば良いのか解らない。
だが、この与えられた試練が、自身にとって戦闘技術を磨く為の訓練となっている事を実感する。
その事に、徐々に楽しさを覚え始めていた。
「ははっ!強くなっている!身体も!技術も!」
再度、魔法陣から生み出されるスケルトンを我武者羅に倒して行く。
杖や弓矢の切り替えも、だいぶスムーズになって来た頃、連射や複射と言った別の技術を織り交ぜて。
「弓矢の連射。多方向への複射。それも試してみるか」
...600。
...700
...800体目。
「やはり、実戦に勝る練習は無いんだな!指のかかりが良くなって来たぞ!技術も技も洗練されて行く!」
...900。
大台の1,000体目。
だが、キリが良い数字の1,000体目を破壊しても試練は終わらなかった。
「もう、倒した数を気にしても仕方ない...それよりも技術が向上して行く今の感覚。楽しくなってきたぞ!」
一人一人違う動きをするスケルトン達。
僕は囲まれている時の対処、囲まれる前の対処と、臨機応変に対応して行く。
それはその都度。
自身に新たな課題を与えるように、様々な状況を想定してだ。
この、逐一攻防が変化する状況が楽しい。
それはスケルトンを一撃で破壊出来る事も手助けしているが、目の前の事(敵を倒す事)だけに集中出来る。
「緊張感に程良い重圧。そして楽しさ。何よりも、この感覚が心地良いな!」
楽しさが精神を支配し、肉体を凌駕して行く。
それは僕自身の身体の動きにも反映され、頭で描いたイメージと身体の動きがそのままリンクする。
自身に掛かる程良い重圧と緊張感。
最大限に力を発揮すれば乗り越えられる試練。
それらが良い方向へと働き、集中の途切れない高揚感を生み出していた。
「こう動いてきたら...こう返して...」
スケルトン達の立ち位置を一目で把握する。
空間を認識した上で敵の位置を結び付けて行動が出来るように。
そして相手の行動の先を読んで攻撃をして行く。
...2,000体目。
「次は...」
身体が敵の動きに反応しながらその場で処理をして行く。
無意識に言葉を口ずさみ小声でぶつぶつ喋っている。
「こう動いたら...」
...5,000体目。
時間を忘れてスケルトン達を倒して行く。
次第に言葉を忘れ、目の前の事に没頭する。
「...」
試練が始まってからどれ位経っただろうか?
かれこれ二時間程経つだろうか?
体内時計では、正確な時間が解らない。
だが、延々と生まれて来るスケルトン達を破壊して来た。
そして、脳内カウンターで刻んだ数字もそろそろ10,000体と言う大台も見え始めた頃。
既に、スケルトンの新たな生成が止まっていた。
...9,995体。
...9,996体。
...9,997体。
...9,998体。
...9,999体。
「これで10,000!!!」
大台となる10,000体目を倒した瞬間。
すると、地面に描かれた魔法陣が部屋一面に一層光を放った後、魔法陣そのものが消滅した。
魔法陣が消えると、何も無かった空間からオクタウィアヌスが現れる。
「見事であった!!我の試練はこれで終了とする。我が一族はお前に力を貸そうぞ!!」
試練の終わりを告げるオクタウィアヌス。
今まで同様、試練を達成したご褒美として、異次元空間からHP、MP、状態異常を完全回復するエリクサーを取り出した。
「これを使うが良い」
オクタウィアヌスは、最高級のアイテムを惜しげも無く差し出して来た。
僕はその価値に驚くが、此処から先の試練を考え、それを遠慮なく受け取る。
そして、その場で直ぐに飲み干す。
(うわっ、苦い...“良薬口に苦し”って言うしな)
青汁とトマトジュースとゴーヤジュースが混じったような味。
ただ、ドロドロとした液体では無く、口当たりはサラっとしている。
何だか変な感覚だ。
そして、口の中に入れて喉を通って行った瞬間。
それまでに傷付いていた身体の傷や状態異常、体力に魔力と全てが完全に回復した。
身体には爽快感が駆け巡り、気分もスッキリとしていた。
「回復したようだな。ではこれを受け取るが良い」
オクタウィアヌスは黒い宝珠を取り出し、僕に手渡して来た。
[黒のオーブ]を手に入れた。
アナウンスが流れる貴重品はこれで三つ目だ。
ただ、これまでに貰って来たアイテムを含め、説明欄は「????」となっていた。
(三つとも説明が無いアイテム...何に使うのかも解らない)
僕は、その貴重品達の使用用途が解らない。
「黒のオーブ」をただ持っている事しか出来無い。
受け取った[黒のオーブ]をアイテムバックへと収納した。
すると、それを確認したオクタウィアヌスが「パチン!」と指を鳴らす。
部屋の奥には、次の試練へと向かう階段が出現した。
「さあ、次の試練へと向かうが良い!」
試練も半分を超えて、残り二つ。
終わりも見えて来たが、全ての試練を達成するまで気を緩める事が出来無い。
後二つをやり遂げるまでは。
想像の全く出来ない残りの試練に、僕の感情は不安と期待の両方がひしめき合っていた。
「さて、次の試練は、何を求められるんだろうか?」
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