022 ハデス帝国⑤
「ほう...特定条件下での戦闘において、全く異なる戦闘を此処まで戦えるとは面白い奴じゃ」
玉座に座りながら僕の動向を覗いている冥府皇プルート。
目の前の映像投影装置に食い入るように観ていた。
「それに比べて、試練に徹したヴァイアードは面白みに欠けると言うか、いつも通り融通が効かんと言うか...もう少し、観ている者の楽しませ方っていうものがあるじゃろうて。彼奴(あやつ)が面白いのは、理性を失った時だけじゃのう」
普段は紳士ぶっているヴァイアード。
だが、一度(ひとたび)理性の箍が外れてしまえば、隠している醜い本性が顔を見せる。
その時の剥き出しの感情が、とても人間臭く大好きなのだと。
「オルグにしてもそうじゃ。相変わらず力押ししかせんのう...彼奴(あやつ)は生命を懸けて戦う事に振り切り過ぎじゃて。それでいて自身の強みを活かせない戦い方をされたんじゃ、本人は消化不良じゃろうな...だが、これも相手の方が上手と言うだけ。まあ、それで死ぬ事になったとしても、彼奴(あやつ)は己の信念を曲げんじゃろうがな」
オルグが信じるものは膂力と一撃。
それが自身にとって不利な戦いになろうが、結果死ぬ事になろうが、信じるものを疑って後悔する事だけはしない。
己の信念を曲げない美学。
それが自身の強さの源だからだ。
「それにしても...ルシフェルと言ったかのう?戦うごとに成長を遂げるとは面白い。今はまだ若輩者。だが、この試練を乗り越えた時には...どう成長をしておるかのう?」
片方の口角だけ上げて、ニヤリと笑う冥府皇プルート。
自身が直接試練を行う事は出来無いが、思い付くままに試練を与える事が出来る。
これは僕の成長を願っての事よりも、自身が愉しむ為の方が強い。
だが、その癖のある試練を乗り越えた時...
「もしかしたら...妾の望みを叶えてくれるかも知れんな」
これは予め設定されていた台詞を話しているのか?
それとも、キャラクターが独自で考えた事を話しているのか?
映像を観た事に対して、あまりにも流暢に言葉が出て来るのでどちらか見分けが付かない程。
これは僕自身も知らない事で、試練の裏で行われていた事だった。
『試練の塔・三階』
やはり、此処でも部屋の中央にはローブで身を隠す人物が立っていた。
先程までオルグを見ていた僕は、目の前の人物を確認した時(あれ?なんだか...小さい?)と急激に小さく感じた。
「身長は...僕とそこまで変わらないのか?これは...僕の感覚が少し変になっているのか?」
部屋全体を見渡して、対象を比較し直す事で通常の感覚へとリセットする。
そうして、自分の違和感を拭い去った時。
三度目の試練へと挑戦を開始した。
僕は、目の前の謎の人物に話し掛ける。
「よくぞここまで参った。我はオクタウィアヌス。我の試練は数をこなして貰おう」
謎の人物がそう伝えると、その身を隠していたローブを脱ぎ捨てた。
脱ぎ捨てられたローブは、その人物の影へと収納されて行った。
「っ!?ドス黒い赤って...まさか、返り血で染まったんじゃないよね?」
先ず、初めに目が付いたのは、ドス黒く真っ赤に染まった全身鎧。
その血塗られたような赤色は、禍々しくとても不気味に映った。
「え!?スケルトン!?」
全身鎧から見えるは、その人物の顔のみ。
皮膚や肉が一切ついていない骨だけが浮き彫りになっていた。
眼の辺りの窪んだ穴に、鎧と同じような赤色が光っており、僕の動きに合わせて動いていた。
どうやら眼球の代わりをしているみたいだ。
こう言っては何だが、とても薄気味の悪い風貌。
何故、骨だけの状態で動けているのか解らなかった。
「我は見ての通り“骨人族”スケルトンである。但し、その種族の頂点。王であるがな」
骨だけの身体なのに、しっかりとした声が聞こえて来た。
何処から発声されているのか謎だが、もの静かで心地良い音声だ。
先程まで聞き取り辛いオルグと戦っていたから、余計にそう感じるのだろう。
「試練の内容はこの部屋に現れる我のしもべを破壊する事。条件はそれのみである。準備は良いか?」
[YES/NO]
「そうなると、今回は五冥将と戦えないのか...どんな行動をして来るのか?どんな攻撃をして来るのか?それがとても楽しみだったのに...残念だな」
相手の行動パターンや、まだ見た事の無い特殊な攻撃は、今後の戦闘に役立つもの。
それがBOSSとなれば尚更だ。
格闘技を習う時に上手な人の戦闘を真似するような、直接目の前で見られるだけでも参考になる部分が多い。
ただ、今回はそれが出来無いとの事。
とても残念だが、これから挑むのは試練と名の付くもの。
気合を入れ直して臨む。
[YES]
僕が[YES]を選択すると、オクタウィアヌスは右手の親指と中指を重ね、勢い良く弾いて音を鳴らした。
「パチン!!」と言う音が鳴り響いた瞬間。
部屋の地面が急に赤黒く発光し始めた。
どうやら、地面全体には魔法陣が描かれているようだ。
その中心部に立っているオクタウィアヌスから、赤黒い魔力が魔法陣を辿り、周囲へと行き渡って行く。
その際、不気味な光を発しながら全体に広がっていた。
「演出がいちいち不気味だな...どうしても血を連想してしまうよ」
魔法陣全てに魔力が行き渡った時。
途端にその魔法陣から黒い煙が噴き出し、部屋全体を埋めて行った。
それは有害な物質が燃えている時に立ち込める煙のようで、モクモクと黒い煙が広がる。
僕の視界は既に、その黒い煙で遮られていた。
今ではもう、10cm先の視界が解らない程の霧に変化していた。
「黒い霧...?状態異常は...無いようだ。まさか、この視界で戦わないと行けないのか?」
目の前に広がる黒い霧。
呼吸と共にその霧を吸い込んでいる訳だが、身体に害は無いようだ。
視界を奪われた状態で、音だけを頼りに不安な時間を過ごす。
もし、この状態で襲われでもすれば、僕には為す術が無く無残に死んで行くだけだろう。
「...」
キョロキョロと周囲に気を配る。
どうやら、音を意識し過ぎて幻聴が聞こえる程だ。
すると、部屋を覆っていた霧が徐々に晴れて行き、それまで遮られていた視界が元に戻って行く。
これは正確に言えば、空気よりも重い黒い霧が、部屋の地表部分にだけ溜まっただけなのだが。
それまで、ビクビクと待つ事しか出来なかった僕は、目の前の状況が変わった事に「良かった」と安堵した。
「では、試練を頑張って貰おうか!」
気配を全く感じる事が出来なかったオクタウィアヌス。
「何だ、まだ居たのか?」と疑問に思う程。
此処でようやく、バトルフィールドが広がって行った。
すると、地面から様々な種類のスケルトンが生まれ始めた。
部屋中に溢れる、見た目も種類も全然違ったスケルトン達。
『スケルトン』
骨が剥き出しの骨人。
『スケルトンナイト』
剣、盾、兜、胸、腰、グリーブ部分にだけ装備を纏い、防具で固めた隊長格。
『スケルトンアーチャー』
弓矢を手に持ち、皮の胸当て、皮の腰当てを装備した骨。
『スケルトンウィザード』
木で出来た杖を持ち、全身を覆うローブを身に纏う。
目の前に現れたのは、四種類のスケルトン。
大体の目算になるが、30~40体程いる感じだ。
そして、スケルトン達が魔法陣から生まれた瞬間。
それぞれが独自に動き出した。
どうやら、その中で決まっている設定(ルール)は、僕目掛けて攻撃を行う事らしい。
「これは...数が多いな」
僕に近付いて来るスケルトンを手持ちの弓矢で攻撃して行く。
基本、スケルトン達は骨が剥き出しの状態なので、かなり脆い。
矢が当たった場所は直ぐに砕け散る。
「おお!これだったら、なんとかなるかも!」
数が多くても、この強さでは烏合の衆でしか無い。
しかも、矢が当たる場所によっては一撃で再起不能に出来る事を知る。
これが腕や足を壊しただけでは、無理矢理身体を動かして攻撃をして来るのだ。
勿論、身に纏う鎧や防具に矢が当たれば弾かれてしまう。
ただ、ある一箇所を狙う事さえ出来れば、たったの一撃で再起不能にする事が出来たのだ。
「狙うは頭か!」
兜で頭を守っているスケルトンナイトは除外だが、その他のスケルトン達なら頭を狙えば一発だ。
面倒なのはスケルトンナイト。
狙える箇所は身に纏う防具以外。
その剥き出しの部分から破壊しなければならない。
そうして、相手が身動き出来無くなってから、兜を避けて(脱がせて)頭を攻撃する。
「この中でも、スケルトンナイトは面倒だな...だが、動きが遅いから何とかなるか」
全スケルトンに共通している事。
それは、「ノソノソ」と動きが遅い事だ。
そのおかげか、僕の周りをスケルトンで囲まれたとしても、十分に戦う事が出来た理由だ。
僕は我武者羅に敵の数を減らして行く。
ただ、その際。
スケルトンを倒した数だけ、魔法陣から新たなスケルトンが生成されていた。
「今の感じだと、スケルトン達を倒すのも、新たに生まれて来るのも同じくらいの早さだな...これだったらナイフの方が早く倒せるか?」
僕の弓矢を扱う技術では、連射性よりも正確性の方に分がある。
その為、どうしても二射目が遅いのだ。
弓矢では連続で倒せる早さに限りがあり、時間が掛かる為、装備を切り替える事にした。
敵の間をすり抜けて攻撃が出来るナイフへと装備を切り替える。
本来、敵の数がこれだけ多い場所に自分から近付く事は、とてもリスクのある事で、出来ればやりたくない。
多勢に囲まれてしまえば、僕が一度に相手を出来る人数など決まっている為だ。
だが、スケルトン達の動きは格別に遅い。
相手からの遠距離攻撃にさえ気を付ければ、何とか対処が出来そうだ。
「よし!要は試しだ。やってみるか!」
ナイフに持ちかえると、部屋の中を駆け回ってスケルトン達を攻撃して行った。
近付いた時に止むを得ず反撃を貰う危険性はある。
だが、此処までの間に、一の試練、二の試練をクリアする事で、自身の魂位もステータスも上昇していた。
その為、スケルトン達の硬い骨が豆腐のように簡単に斬る事が出来たのだ。
「おお!断然、手応えが軽い!」
僕が弓矢や魔法を使っている時では、これまでの魂位上昇の恩恵が余り感じられていなかった。
それは遠距離攻撃によるもので、実際に体感をし、手応えを感じる事が出来なかったからだ。
どうしても、実感を得る事が難かしかったのだ。
だが、最初の頃と比べてかなり成長している事が解る。
今に至っては、自分のペースさえ保てれば、一日中走り回っても疲れない体力があるだろう。
「これならスケルトン達が生まれて来るよりも早く倒せるぞ!」
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