018 魔獣諸国連邦ポセイドン⑩

「皆、行こう」


 レオンハルトのその掛け声で、玉座があるネプチューン皇の下へと動き出した。

 広場の階段を上り、最上階へ進むと皇の間に辿り着く。

 皇の間は厳重な両扉で守られており、装飾もその格式に合うようにと、豪華に飾られていた。

 その巨大な両扉を開けると、玉座にはネプチューン皇が座っていた。


「来たか。レオンハルトよ。もはや、我が国自慢の三獣士を倒すとはな。だが、お前の浅はかな考えのせいで、我が国は滅亡へと歩みを始めたのだ。お前は国を滅ぼした戦犯として、未来永劫歴史に名を刻む事になるだろう」


 何も知らないただのお坊ちゃまであったレオンハルトが、此処まで来れた事を褒めている。

 だが、その行動は間違いだと話す。

 国の中で争っている時間など無く、ましてや掻き乱して国力を落とすなんて事は許されない出来事。

 それでこの国が滅びれば、とんだ笑い者だ。


「...ネプチューン皇が国を守ってきた事は事実だ。だが、この国は滅ぼさせない。あなたを倒し、独裁国家から私達民一人一人が協力し合う民主国家として生まれ変わるのだ!」


 人間の脅威を知った今では、ネプチューン皇の行い(守ると言う事)も認める事が出来た。

 だが、革命を起こす前から、国が可笑しくなっていた事は事実。

 皇はそれを放置し、更には思い通りに行かない事を切り捨てたのだから。

 だからこそ、ネプチューン皇を倒して、違った方向から国を強くする必要があるのだ。


「ふんっ!やり方が変わろうが、人間がいる限り滅びは免れないぞ!」


 国として魔獣諸国連邦ポセイドンが変わろうが、煩悩に塗れた人間がいる限り無駄なのだ。

 変えなければならないのは、その人間なのだと。


「亜人の中にだって種族同士で争う者はいるのだ!それに、人間全てが悪いわけでは無い。今回のように協力してくれる人間もいるのだ!」


 亜人の中でも今のネプチューン皇とレオンハルトのように争いは起こるもの。

 それに人間だからと言って全員を敵視する必要は無い。

 僕のように種族を省みず助けてくれる者はいるのだと。

 僕は、本当は人間では無く天使なのだけど亜人から見たら一緒らしい。


「それは、そこに利益があるからだろう。人間は欲深い生き物だ。我等亜人と違い誇りがないのだ!同じ血筋でも平気で殺し合い、他人と比べて嫉妬をして奪い合うのだ」


 人間は自分の利益になる事でしか生きられない。

 お金。

 男と女。

 地位。

 権力。

 このように、あげだしたらきりが無い。

 欲望に忠実な人間こそが、この世界に住まう害虫なのだと。 


「それはそうかもしれない。だが、一方的に駆逐するのは間違っている!我々には言葉があり、理解が出来る!話し合うことが出来るのだ!」


 実際にそう言う人間がいる事を知っている。

 だが、それこそ見ている部分は表面だけで、勝手に解釈をしているのかも知れない。

 亜人と人間、双方に解り合う必要があるのだ。


「ふむ。これ以上話し合っても意味は無いようだ。どちらの主張が正義なのか、亜人の掟である弱肉強食に則り、武で決めるとしよう」


 その通りで、話し合いは相手の主張を理解する心が必要だ。

 だからこそネプチューン皇とレオンハルトが相容れる事が無い。

 ではどうやって主張を通すのか?

 その答えは唯一つ。

 勝つか負けるか。


「あなたさえ変わらなければ...」


 レオンハルトは最初から覚悟していた。

 一縷の望みを賭けて話し合いをしたのだ。

 だが、やはり話が通じなくて顔を伏せた。


「ふんっ!」


 ネプチューン皇が玉座から立ち上がる。

 手を上空にかざすと、何処からともなく三叉に分かれた槍が現れた。

 その三叉槍はネプチューン皇の体長よりも長い。

 武器からは目視出来る程の魔力が渦巻き、武器単体からオーラを放っている。

 先端は三叉とも鋭利で、触れるだけで斬れてしまいそうな危うさを感じる。

 ネプチューン皇は、三叉槍を体操選手が使うバトンのようにクルクルと回し、柄の先端部分を地面に叩き付けた。

 その行動から、武器の取り扱いに慣れを感じ、三叉槍を使いこなしている事が解る。

 三叉槍を両手で持ち、こちらに向けて構えた。

 すると、バトルフィールドが広がり戦闘の準備が整った。


「では、ゆくぞ!!」


 ネプチューン皇の掛け声と共に戦闘が始まった。

 ネプチューン皇が持っている三叉槍からは、常時青色の魔力が漂っている。

 それは、とても怪しい雰囲気を醸し出して。

 僕は相手がどういう攻撃をして来るのか解らない。

 その為、距離を取って警戒していたが、ネプチューン皇がその場で、三叉槍を横へ切るように払った。


「フンッ!」


 すると、三叉槍が通過した軌道に、水の塊がポコポコと形成されて行く。

 その水の塊の大きさは野球ボールと同じ位の大きさで、横一列に等間隔で四つ浮かんでいる。


「えっ、何だあれは!?」


 水の塊が丸い球に完全に変化した時、ネプチューン皇がそれを三叉槍で叩く。

 すると、等間隔に並んでいた水球はこちらに向かって飛んで来た。

 球のスピードはかなり速く160〜170km程出ている。


「はやっ!」


 目で追えないスピードでは無いが、身体の反応が少しでも遅れると避けられない。

 一斉に飛んで来る四つの水球を不恰好になりながらも全部避けると、突然目の前にはネプチューン皇がいた。


「!?」


 水球に気を取られ過ぎてネプチューン皇を見失っていたのだ。

 目の前のネプチューン皇はこちらに向かって三叉槍を鋭く突いて来る。


「ハッ!!」

「なっ、避けられるか?」


 三叉槍を避けようと必死で身体を動かす。

 ギリギリのところで身をよじって攻撃を避けるが腹部に痛みが走る。


「カハッ!!」


 何故だ?と思い今一度、三叉槍に目を移す。

 先端部分が青い魔力でコーティングされており穂先部分がより鋭利に膨らんでいた。


「くっ、あれのせいか...」


 僕は急いでネプチューン皇から距離を取った。

 攻撃パターンの解析と三叉槍の魔法攻撃に注意して対処をして行く為だ。

 ただ、今回は仲間が居るパーティー戦なので仲間と連携をして戦える。

 レオンハルトやマークは剣技での攻撃を繰り出し、ネプチューン皇に近付いては一撃を与えている。

 ジェレミーはサポート専門で傷付いた仲間に援護回復や支援をしてくれる。

 僕はレオンハルトやマークの邪魔にならないように、皆との距離を取りながら相手の攻撃に合わせて弓矢や魔法で攻撃をして行く。

 そこでネプチューン皇にダメージを与えていて解った事が、HPが五分の一ずつで区切られている事だ。

 段階に合わせてHPが減ると、それに応じて攻撃パターンが増えて行く。

 一段階目が水刃を飛ばす攻撃。

 二段階目が指定した場所に渦を起こす攻撃。

 三段階目が三叉槍を振り払い津波を起こす攻撃。

 段階毎に増えた攻撃を織り交ぜてパターンを増やす事で対処を難解にして来る。


「攻撃パターンは多いけど、仲間がいるのは心強いな!」


 四段階目であるHPが5分の1まで減るとネプチューン皇が突然鎧を脱ぎ捨てた。

 ネプチューン皇は三叉槍の力を借りて、水の魔力を全身に纏った。

 更に、三叉槍に内封されている水の魔法を使い、部屋の中を海水で勢い良く埋めて行く。

 急激に海水で満たされて行く部屋は僕達の身動きを制限する。


「くはっ!ごぼごぼっ!!」


 僕を含めたレオンハルト、マーク、ジェレミーは海水に溺れている。

 口の中に海水が進入しては、呼吸が出来ずに息苦しい。

 手足を必死にジタバタさせながら海水が埋まっていない天井へと急ぐ。

 僕は苦しみながらも空気がある天井になんとか辿り着く。


「ぷはーーーっつ!!はっ。はあ。はぁ。はぁ。(...口の中がしょっぱい)」


 苦しさを押し殺しながらも、急いで海中のネプチューン皇を探す。

 右往左往しながらキョロキョロ海中を見渡すと、ネプチューン皇は水を得た魚のような俊敏さが動きに加わっていた。

 海中を自由自在に泳ぎ回る姿は、とても気味が悪く映った。

 海底に辿り着くとこちらに狙いを定めた。

 地面を蹴り上げた勢いでこちらに直進して来る。

 そして、そのまま三叉槍を突き出して。

 その勢いは魚雷が高速で近づいて来る恐怖感を感じた。

 ただ、僕はこの出来事で一瞬過ぎて、ネプチューン皇の動きが全く追えなかった。


「えっ!何!?...っ!?」


 手足をバタバタ動かしていたので運良く串刺しになる事は無かった。

 だが、ネプチューン皇がぶつかって来た時の衝撃が凄まじく、身体の中の物(内臓含め)全てが口から出るような衝撃だった。

 海に半分以上浸かっていた身体なのに、その衝撃で浮かされて天井に勢い良く叩き付けられた。

 目からは勝手に涙が零れ、鼻からも血が混じった液体が飛び出ている。


「ぐはっ!」


 肺が圧迫されて息が苦しい。

 衝撃の強さで背中まで痛みが突き抜けている。

 手足はだらんと力が入らず、目は虚ろで顔も青白く、血色が悪くなって。


(やばい!やばい!やばい!やばい!)


 早く動いてネプチューン皇の動きに備えなければいけないのに、身体が言う事を利かない。


(動け!動け!動け!動け!)


 頭の中で、何度も、何度も、何度も念じるが動けない。

 どうしようも無い状況なのに、視界の端には再びネプチューン皇が見える。

 攻撃の為、再び三叉槍をこちらに向けている事が見えて。


(これは避けなくちゃ!動かなくちゃダメだ!)


 もし、同じ攻撃を再び受けたら、僕は死んでゲームオーバーになるだろう。

 身体を動かせず死を前にした恐怖からなのか、死の直前に一瞬で体験する走馬灯を巡る集中力が、僕の周りの動きをスローにさせた。

 ネプチューン皇がジリジリと近づいて来る事が解る。

 だが、頭の中を無理矢理グチャグチャと掻き回されたような気持ち悪さが感覚を支配している。


「ぐあぁあぁあぁっあーーー!!!」


 それに抗うようにバタバタともがいて抵抗する。

 だが、突撃して来たネプチューン皇の三叉槍は、無情にも僕の身体へと刺さってしまった。


(あっ...駄目?...だった...か?)


 致命傷の攻撃を受けた事で、脳がオーバーヒートを起こし痛覚を遮断してくれたのか、痛みを感じる事無く自分の身体が徐々に冷たくなって行く事が解る。


(これが...ゲームオーバー?...死にたく...無いよ)


 視界はぼんやりと薄れて行く...


 意識が段々と消える...


 目の前が暗くなって行く...





 すると、爆音が鳴り響き皇室の壁が壊された。

 部屋を満たしていた海水は穴から零れて流れて行く。


「レオンハルトー!!!無事かあ!!!こっちは制圧完了したぞ!!!」


 別行動をしていたルカの大声が鳴り響く。

 城内を制圧する事が出来たので、ネプチューン皇討伐の作戦として援護砲撃をしてくれたようだ。

 部屋から海水が抜けた事でレオンハルトやマーク、ジェレミーは地上に降りられ、再び、その動きを取り戻した。


「ルカ!間に合ってくれたか!!」


 別行動をしていたルカが、城内の制圧を完了してくれた。

 その為、敵味方関係無く亜人全てを皇城から脱出させられた。

 それにより被害を気にせずに援護砲撃が出来たのだ。


「ルシフェル!今行くわ!」


 ジェレミーが意識を失いかけていた僕に急いで駆け寄って回復魔法を使ってくれた。

 白い光が全身を包み傷を癒してくれる。

 すると、お腹の刺し傷がなんとか塞がり、蓄積されていたダメージが回復して行く。


「んっ。...い、意識が?」


 身体の傷は完全に回復した訳では無く、ダメージもまだ残っている状態。

 だが、何とか身体を動かす事が出来そうだ。

 僕は身体を無理矢理起こして立ち上がった。

 どうやら、目に見える傷は治っているが、刺された痛みとぶつかられた時の衝撃が身体に記憶されているようだ。


「助かったのか?...良かった。だけど...まだ痛みの記憶が残っている」


 痛みがまだ残っているが、部屋の水が抜けた好機を逃すまいと、身体に無理矢理、鞭を打つ。

 海中からうちあげられたネプチューン皇は水を失い能力が低下している。

 動きが鈍くなっているネプチューン皇を皆で力を合わせて攻撃する。

 レオンハルトは魔纏武闘気を纏った最大の一撃を。

 マークは素早さを活かした連撃を。

 僕は自身が使える最大の呪文を放って。


「ガアアアア!!!」


 皆が放てる最大の一斉攻撃をネプチューン皇に命中させた。

 僕はもう満身創痍で動けそうにない。


「余が負けるとは...これでは仇が取れないではないか...人間は滅ぼさなければ...何故其れが...解らないのだ...」


 ネプチューン皇は幼い頃。

 自分の両親を人間に誘拐されている。

 しかも、両親は奴隷として売り払われた後、使えなく(動けなく)なるまで扱き使われ、最終的には嬲り殺されていた。

 両親が殺された事を人伝に聞き悲しむ事に。

 その経験からも人間を憎むようになり、復讐を誓ったのだ。

 己の復習の為、人間を皆殺しにする力を欲し、己を極限まで鍛えあげた。

 そして、自らがこの国の皇に成れる程の力を身につけた。

 国の皇になってからは国や国民に対する責任感が芽生え、自身の事だけでは無く、民を守る為にも、国に尽くすように国力を大きくしていった。

 その結果、国が大きくなる事で周りの国に認められるようになる。

 その中で当時から最大勢力だった人間の国ジュピター皇国から同盟の申し出があり、その国の皇女と婚姻を結ぶ事になった。

 人間の事は嫌っていたのに、皇女は誰よりもネプチューン皇の傍に居続け、献身的に支えたのだ。

 その優しさ、想いに触れる事で、次第に復讐心は薄れて行き、心を許すようになった。

 年月を重ねる事で、相手に対する憎しみの気持ちはいつの間にか愛に変わっていた。

 但し、これらの事は全てジュピター皇国が謀った事であり、最初から打算があっての政略結婚であった。

 それを知らないネプチューン皇。

 信頼をするようになった妻には裏で暗躍されており、国の情報、国の資源、国の弱点がジュピター皇国へと流れていた。

 時が立ち、流石のネプチューン皇もその事に気付いた頃。

 皇女に疑心が芽生え始めた頃にだ。

 ジュピター皇国は証拠を消す為に皇女を暗殺した。

 そして、皇女が死んだ事の責任をネプチューン皇に押し付けられ、再び国同士の戦争へ発展したのだ。

 だが、連邦諸国ポセイドンの情報は全てジュピター皇国に漏れており、ことごとく作戦が失敗し苦戦を強いられる事となってしまった。

 犠牲を多く払う事で、何とか停戦までは持ち込んだが、信じていた人には裏切られてしまった。

 有る事、無い事の責任を押し付けられた事で、再び、極度の人間嫌いに変貌してしまったのだ。

 この事から人間への情は一切消えてしまい、人間を滅ぼす為だけに生きる事を誓ったネプチューン皇だった。


 ...その全ての事情を知ったレオンハルトは決心をする。


「ジュピター皇国は大きくなりすぎた。ユーピテルを倒さない限りミズガルズに平和は来ない」


 哀愁漂う面持ちで、レオンハルトが言った。

 革命も終結し、国として今後の方針が決まる。

 国を建て直してからユーピテル討伐軍を編成すると。

 その時にまた僕の力を貸して欲しいと約束をして。



 場所は移り、ポセイドン城。

 玉座のある皇の間。

 レオンハルトは、父親であるレオナルドの黄金の装備と遺志を受け継いていた。


「私が、亜人共和国ポセイドンの初代国皇レオンハルト・ポセイドンだ。今回の革命を経て、我々亜人が“人”として生きる権利を勝ち取った。種族は違えど我々亜人は国の下平等である。これは誰に何を言われようが、他の国から侵略があったとしても、何人たりとも侵す事の出来ない亜人の権利だ!」


 これは、後の伝記に亜人解放革命と記される戦い。

 この日からその生涯までレオンハルト政権が続き、亜人共和国の偉大な国皇として語り継がれる出来事。


「ミズガルズを我が物顔で踏み躙る天空皇ユーピテルには一生解らない事だろう。個人が所有する力がいかに強大だろうと、多くの人々が協力する力には勝てない事を。さあ!今一度亜人の力を一つにする時が来た!私に皆の力を貸してくれ!ミズガルズの平和を守るためにも、天空皇ユーピテルを討つ!」







終了時点でのステータス。


『ルシフェル』

 称号:無し

 種族:天使LV5

 職業:魔法使いLV10


 HP

 518/518

 MP

 613/613


 STR  91

 VIT  72

 AGI  79

 INT 150

 DEX  67

 LUK  46


 [スキル]

 短剣技LV3 格闘技LV3 杖技LV2 弓技LV4

 [魔法]

 火属性魔法LV5 水属性魔法LV5 土属性魔法LV5 風属性魔法LV4

 [固有スキル]

 浮遊

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