ハデス帝国攻略編
019 ハデス帝国①
「ハデス帝国を攻略しますか?」
アルヴィトルが、そう僕に尋ねて来た。
これは僕の様子を伺っているのかな?
微笑みとまではいかないが、既に無表情な対応は無くなっていた。
何だか、この短期間で随分と表情が柔らかくなった気がするよ。
[YES/NO]
(さて、今回はどんなストーリーになるのかな?冥府皇だっけ?まさか...死神が相手とかでは無いよね?)
[YES]
魔獣諸国連邦ポセイドン(現・亜人共和国ポセイドン)を攻略し、無事に打倒ジュピター皇国への協力を得る事が出来た。
ジュピター皇国の外堀を埋める為にも、次はハデス帝国の攻略が必要となる。
「では、先ず、ハデス帝国の内情から説明させて頂きます」
アルヴィトルがクールな表情のまま説明を始めた。
見た目では判り難いが、これでも一応、表情(喜怒哀楽)の違いがあるのだ。
ポイントは目尻と両端の口角を見る事。
まあ、まだまだ判別する事は難しいんだけれど。
「ミズガルズ世界において、死亡した魂は必ずこの場所“冥府”へと集められます。冥府に集められた死者の魂は選定者である『冥府皇プルート』により選別され、その魂の強度によっては神界へと送り届けられます」
(選定者って事は、プルートも神族の協力者なのかな?一体なんの神だろう?)
「選定者という事でお気付きだと思いますが、冥府皇プルートは私と同じ戦乙女(ヴァルキュリー)でございます」
(ああ、そっか。戦乙女(ヴァルキュリー)って魂の選定者だったけ)
「ミズガルズ世界が誕生したその時から、主神オーディンの命によりこの世界で選定者を任されているのです。今回は同じ使命を共有する同志として協力を仰ぎます」
(ミズガルズ世界誕生からいるって凄いな!じゃあ、僕達の大先輩って事か)
「ただ、言い難いのですが...少々、性格に難がある御方です。その、何と申し上げますか...長く生きている事もあり刺激に飢えているのです...」
アルヴィトルが顔を曇らせながら話す。
今までに言葉を詰まらせるところなんて見た事が無いのに。
それに、自発的にこんな困った表情を見せる事は初めてだった。
「ただ間違い無く、無償では協力してくれないので覚悟はしておいて下さい。では、御健闘をお祈り致します」
アルヴィトルが此処まで言うのは珍しい。
どうやら、ハデス帝国の攻略は一筋縄では行かなそうだ。
とても面倒臭い事になりそうだと、僕の頭の中にインプットされた。
正直、ハデス帝国で何が起きるのか?
僕に何を要求されるのか?
全く検討がつかなかった。
「まあ、成るように成る...か」
どうせ、僕が出来る事は限られているのだ。
だったら、アルヴィトルに言われた通り、覚悟を決めて冥府へと向かう事とした。
『冥府プルーティア』
ミズガルズ世界の辺境の地にあり、肉体を失った魂が集まる場所。
唯一『冥府皇プルート』のみが、この世界の死者の魂を管理出来る存在。
現在は、ミズガルズ世界に死者の魂が溢れてしまい、冥府へと回帰しない魂が増えていた。
漂う剥き出しの魂は悪に染まり易く悪霊と化す恐れがある為、決して放置の出来無い問題だ。
「冥府って言うから...地獄みたいな場所を想像していたけど、どうやら、全然違ったな...」
僕が冥府と聞いた時に、一番最初に想像した事は地獄だった。
それは一度も見た事の無い空想上の場所なのだが、草木などは存在せずに大地が荒れ果て、生物の生存があり得ない環境を想像していた。
だが、実際はそんな事が無かった。
豊かな自然に溢れている場所。
冥府と言う名称からは(程遠い)想像の出来無い、深緑に囲まれた国だ。
どうやら、世界樹であるユグドラシルが近い為、国中の至るところにマナ(体外魔力)が溢れていた。
そのおかげか、(僕はまだ見た事が無い)精霊が国中を活発に動き回っているらしい。
魂を管理するには、持って来いの場所みたいだ。
「マナ(体外魔力)に溢れている場所...空気が美味しいな」
自然の豊かな場所は、そこに居るだけで爽快感が得られる。
マイナスな感情はリフレッシュされ、新たなやる気が漲る感じだ。
これから向かうハデス城は、広大な敷地を誇る冥府プルーティアの中に存在している城。
僕は、この後に訪れるだろう不安な出来事を少しでも塗り潰せるように、なるべく気分の良い状態で、冥府皇プルートが住うハデス城へと向かうつもりだ。
だからこそ、この自然溢れるエネルギーはとても有り難いものだった。
「じゃあ...冥府皇プルートに会いに行こう...かな?」
心は重いのに、身体は軽い。
雨が降った日の学校へ向かう直前の憂鬱な気分。
何処か、そんな感覚に似ていた。
これは緊張や不安から地に足がついてない状態。
自分の意思とは別に身体だけが機能しているからだ。
自分が思ったよりも、反応が鈍くなっていたようだ。
『ハデス城』
冥府プルーティアに唯一存在する皇城。
別名、白亜の神秘。
その城の美しさは見た者の心を奪う。
そして、そのまま冥府の住人となる事を希望する者は数知れず。
冥府のオアシス、ミズガルズの楽園と呼ばれていた。
場所を移動し、案内をされるように辿り着いた、ハデス城玉座の間。
豪華絢爛と言った感じは見受けられないが、細かい装飾が施された空間。
どちらかと言えば、芸術性の方が高い内装だった。
その中央の玉座に座る人物。
全身をローブで隠している人物が座っていた。
(思っていたよりも...小さいのか?)
きっと、この人物こそが冥府皇プルートその人だ。
遠目からになるので正確な事は言えないが、たぶん僕よりも身体が小さいと思う。
それも、玉座に座っているので、ハッキリとは解らない事だが。
(とりあえずだけど...死神や、凶暴な悪魔では無さそうだ)
冥府の皇と言う事なので、死神、もしくは、巨大な悪魔のような人物を想像していた。
だが、実際は違うようだ。
抱えていた不安が少し晴れて、張り詰めていた緊張が緩和した。
(えっと、謁見なんて一度もやった事が無いんだけどな...とりあえず...目の前で膝をつけば良いのか?)
僕は、周囲を確認しながら玉座の前へと進む。
それらしき場所で膝をつき、頭を下げた状態で相手の反応を待った。
段取りも作法も知らない僕では、それっぽく見せる事で精一杯だった。
玉座に腰掛けるプルート皇は全身を隠しているのだが、体勢を崩している事だけは解った。
脚を組んで交差させ、玉座の肘掛けに肘を置いている。
ただ、体勢は崩しているのだが、醸し出す雰囲気がピリピリと威圧して来ていた。
(苦しい?...何だか、心臓が締め付けられている気分だ)
今回の訪問は、ジュピター皇国を打倒する為の協力要請。
相手は一介の皇だ。
下手な事をして怒らせでもしたら、その時点でジュピター皇国攻略が詰んでしまう。
いやいや、ゲームとは言え、これだけリアルにする必要は無いでしょう?
何でもリアルにすれば良いってものでは無い気がする。
一般人の僕には、こんな重圧は耐えられないよ。
「ほう。お主が“ルシフェル”か。我等が主神オーディン様から話は聞いておるぞ」
聞こえて来たのは、艶があり粘り気のある美声。
僕の想像は見事に裏切られていた。
(この声...女性!?)
僕は事前情報で冥府皇と聞いていた為、勝手に男性だと想像していた。
アルヴィトルの説明で「私と同じ戦乙女(ヴァルキュリー)」と言う言葉を忘れて。
(そう言えば、戦乙女(ヴァルキュリー)なんだっけ?だとしたら...ちゃんと考えれば解ることだったな...)
『冥府皇プルート』
ミズガルズ世界の始まりから生きている魂の選定者。
ユグドラシル最初の戦乙女(ヴァルキュリー)。
三国の皇の中で唯一の女性で美の女神と称えられる容姿を持つ。
他人に地肌を見せる事を嫌い普段から仮面やローブで全身を隠している。
「さて。わざわざこんな所まで訪れるとは、いったいどんな了見じゃ?」
相対しても未だにその容姿を見せないプルート。
僕に説明を求めた。
僕はその問いに答える為、亜人共和国ポセイドンで起きた事を説明した。
現状ミズガルズ世界では亜人共和国ポセイドン(旧・魔獣諸国連邦ポセイドン)、ハデス帝国、ジュピター皇国の三強と呼ばれているが、単純な国力で考えるとハデス帝国、ジュピター皇国の圧倒的二強なのである。
それを踏まえた上で近年のジュピター皇国の好き勝手な領土侵略や皇族至上主義、ミズガルズ世界において害悪となりつつあるジュピター皇国を、これ以上放置する事は出来無い。
ジュピター皇国打倒の協力をハデス帝国へと要請した。
「ふむ。それは道理じゃな。人間は争いが絶えず、欲にまみれて周りの自然を気にもせん。特に、ジュピター皇国の人間は酷いからのう」
冥府皇プルートも世界のバランスが崩れている事を危惧していた。
人間の為の世界、ミズガルズ世界が生まれてから何千年と経つが、このような状況は初めてなのだと。
これ以上死者の魂が溢れてしまえば、負のエネルギーが世界を蔓延し生態系から環境までの全てを破壊するだろう。
「このままじゃと、ミズガルズ世界の破滅は免れないのう...」
冥府皇プルートの話から、その言葉の一端から、このミズガルズ世界に最悪の状況が近付いている事が解る。
それにもう、既に死者の魂は溢れ出しているのだから。
「ただ申し訳無いのじゃが、妾は此処から離れる事が出来んのじゃ。だが、妾も今の状況を何もせず看過する事など出来ん」
何だろう?
変な違和感を感じる。
言っている事、思っている事は本当なんだろうけど、冥府皇プルート本人に焦りを感じ無い。
「そうじゃのう...妾個人は協力を出来んが、国としてならお主に協力してやらん事もないぞ。但し!お主の力を妾に示して貰う事が条件じゃがな!」
ニヤリと口角を上げる。
それは、新しい玩具を手に入れたばかりの子供のように、その玩具でどれ位遊べるのかと期待を膨らませて。
「妾を楽しませて見せろ」とばかりに、冥府皇プルートの言葉尻が愉快そうに上がっていた。
(表情は見えないけど、絶対にわらっているよ...)
仮面やローブで表情や容姿を見る事は出来無いのだが、その話し方で愉しんでいる事が解る。
そして、笑うのでは無く、僕の事を嗤って。
「くくくっ。ではお主には、我が帝国が誇る『五冥将』と条件付で戦って貰おうかのう。お主が五冥将に勝つ事が出来たのならば、ハデス帝国は全面的にお主に力を貸そうぞ!」
ああ、成る程。
これがアルヴィトルが言っていた事なんだと痛感する。
刺激に飢えているのだと。
これは...憶測になるのだが、いや、きっとその通りなのだろう。
冥府皇プルートは歪んでいる。
このやり取りは自身が愉しむ為のもの。
自分の欲を刺激する為に、渇いた欲を満たす為に、僕を戦わせようとしているだけだ。
それにしても『五冥将』か...
ハデス帝国最強戦力じゃないか。
『五冥将』
ハデス帝国が誇る最強精鋭。
最古から現存する五種族の族長が勤める。
吸血鬼族、鬼人族、骨人族、蛇人族、幽鬼族の五種族。
「場所は...そうじゃのう。ハデス城の隣にそびえ立つ『試練の塔』で戦って貰おうかのう。うむ。見事試練を乗り越えたならば五冥将を貸し出そうぞ!くくくっ。では、我が帝国が誇る五冥将を打ち破って見せよ!」
僕は冥府皇プルートの愉しみ?の為に五冥将全員と戦う事になってしまった。
試練がどういうものか想像出来無い。
戦闘である事には変わらないだろうけど、“条件付き”が厄介なのだ。
ただ、此処で「そんなの無理だろ?」と腐っても仕方が無い。
「協力をして貰う為にも全力で頑張ろう!」とやる気を漲らせた。
(嘲笑われているなら尚更。僕が、刺激どころか、劇薬なんだと思い知らせてやる!)
『試練の塔』
ハデス帝国において五冥将に任命される事は種族の繁栄と権力を意味する。
五冥将とは、それほど絶大なる地位なのだ。
ただ、冥府皇からの任命以外にも、五冥将になる方法が存在している。
それは五冥将との一騎討ち。
五冥将の中から一名を指名して試練の塔にて決闘を行う。
その勝負に勝つ事が出来れば、入れ替わりで五冥将となれるのだ。
ただ、この国の有史以来、五冥将の入れ替えは一度しか行われていない。
その時は牛鬼族と鬼人族が入れ替わったみたいだ。だ。
「試練の塔に行く前に...回復薬を充実させておこう」
僕は、試練の塔に入る前に城下街でアイテムを買い揃える。
この国に辿り着いて、ようやくハイポーションが売られるようになったからだ。
試練の過酷さを想定して回復薬をメインで購入する。
ハイポーションに、マナポーション。
それらを今現在買えるだけの数量、四個ずつを購入した。
「今現在購入出来る最大数だ。...これだけあれば何とかなりそうだな」
全資金を費やしての生命線の確保。
試練に負けるよりも、殺されて死ぬよりも、金で買える生命があるなら安い物だ。
そうして、アイテムの購入が終わり、準備が整ったところ。
僕は覚悟を決めて試練の塔へと向かった。
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