017 魔獣諸国連邦ポセイドン⑨
僕達は船から降りて、革命軍の面々を連れて城の中へと侵入して行く。
その際、敵軍の兵士は殺さずに捕まえる事が絶対条件だ。
レオンハルト曰く、悪を憎んで人を憎まずと言う事らしい。
制圧後の革命軍は人材が必要になる事が大前提だからだ。
そもそもが、敵軍の兵士はネプチューン皇に強制されているだけなのだから。
「どんな時もでも、人の力って偉大だよな」
人がいてこその共存。
そして、社会形成。
一人では困難な出来事でも、多数が集まる事で乗り越えられるのだ。
今の敵軍に数で勝る僕達。
城の中を順調に制圧して行き、皇の間の一つ手前の広場へと辿り着く。
その広場には、一際眩しく輝いているものが目立っていた。
「!?眩しっ!」
眩しさのあまりに直視が出来無い程の光。
僕は目を凝らして何とかそれを見る。
どうやら、そこには大柄な男が仁王立ちをしているようだ。
金色のたてがみと、金色の装備が特徴の人物。
三獣士・陸将、獅子人レオナルドその人だ。
『三獣士・陸将 獅子人レオナルド』
レオンハルトの父親で、三獣士筆頭。
身長はレオンハルトよりも大きく、280cm。
全身に、金色に輝く装備を身に纏う。
二つ名は“金獅子”。
大剣を軽々と両手に持つ双剣使い。
ネプチューン皇を除いて、国家最強の武力と言われている人物。
「まさか、ここまで来るとはな...だが、ネプチューン皇の為ここで終わらせる!」
革命軍が広場に現れた事で、レオナルドは驚いていた。
しかし、その態度からも、自分の息子レオンハルトが此処に来る事が解っていたように感じる。
「親父!なんでそこまでしてネプチューン皇に従っているんだよ!?このままでは、この国は終わる一方だぞ!」
レオンハルトが空中に腕を払い、身振り手振りで父親に問う。
どうして自分の前に立ち憚るのかと。
「お前には解るまい...この国がここまで大きくなったネプチューン皇の功績を!」
レオナルドは、レオンハルトを拒絶する。
これは互いの、歴史の認識の違いが引き起こしている事なのだと。
お前こそがこの戦いから引くべきなのだと。
「親父!もう過去や経過の話じゃすまないんだよ!この国には、俺達には、現状が全てなんだ!」
レオンハルトは諦めない。
過去の遺物、栄光などは国の現状に関係無い事。
過去にすがるのでは無く、必要な事は現状(今)の変化なのだと力説して。
「ふっ。お前はそんな事を話し合いに来たのか?違うだろう」
レオナルドは鼻で笑う。
有無を言わさず、その両手に大剣をそれぞれ構えた。
すると、その場の空気が一瞬で切り替わった。
レオナルドから放たれる殺気。
睨まれるだけで射殺されてしまう鋭さを伴っていた。
この場の酸素が薄くなったような、そんな息苦しさがとても気持ち悪い。
「さあ。かかってくるが良い!!」
この場を、たった一人の人物に支配されてしまった現状。
相手の威圧に誰しもが怯んでいた。
それに対し、レオンハルトだけが一歩前に出る。
「ここは俺に任せてくれ。俺が一人で親父と戦う」
皆の動きを静止するように手で止めた。
この戦いの決着をつけるのは自分なのだと。
どうやら、此処からはレオンハルトとレオナルドの一騎打ちが始まるようだ。
僕達は黙ってそれを傍観する事しか出来ない。
(親子対決...だからこそ他人では無く、自分の手で決着をつけたいのかな...)
レオンハルトは大剣を手に取り、レオナルドの方へと歩を進める。
相手の殺気を全く意に介さない立ち振る舞いは堂々としたもの。
平然と立ち向かって行く。
そして、お互いの距離が10mまで近付いた時。
レオンハルトは大剣を両手で正面に構えた。
「「...」」
お互いに構えた状態で対面する。
既に、周囲には静寂が訪れていた。
二人の息を吐く音、生唾が喉を鳴らす音、剣を握る音、動いた時に鎧のずれる音、足音、動作する事で必然的に付いてくる音、その全てがこの静かな空間に際立つ。
そして、お互いが相手の行動の先手を取る為に牽制し合う。
(ごくっ)
それを見ている僕達からすれば、その睨み合う時間がとても長く感じ、この場を支配する緊張がとても息苦しいもの。
緊張からか、唾を飲み込む音が周囲に反響してしまう。
それ程の静寂した空間。
相対している二人の動向に自然と注目が集まる。
僕は、二人の動きに瞬きを忘れる程注視するが、一体いつ動き始めるのか(戦い始めるのか)解らない。
始まりの合図が解らず、再び生唾を飲み込んだ時。
突然、それが始まった。
「!?」
二人が一瞬にしてその場から消えてしまった。
あまりにも一瞬の出来事。
視界から二人を見失った時。
全く別の場所で、甲高い金属音がぶつかり合う音が鳴り響いていた。
「ガキーン!!」と鳴る音に気付き、慌てて音の鳴る方を見る。
すると、レオンハルトは両手で大剣を、レオナルドは双剣をクロスさせて、お互いの剣戟をぶつかり合っていた。
「これを防ぐとは、随分と成長したみたいだな」
レオナルドは攻撃を防がれた事に驚きながらも微笑んだ。
その態度は、息子の成長を噛み締めている余裕すら見受けられる。
「いつまで子供扱いをするつもりだ?そんな風に舐めていると痛い目を見るぞ!」
一方、レオンハルトは歯を食いしばりながら受けに回っていた。
その様子からも、何とか相手の攻撃を抑えていると言った感じだ。
現時点で余裕のある方は、レオナルドの方に見えた。
「では、どれくらい成長したかのを見せて貰おう!」
「ぐっ、ぐっ、望む...ところだぁー!」
レオナルドはクロスしている大剣を力で無理矢理押し出す。
鍔迫り合いをしているレオンハルトごと後方に弾き飛ばしたのだ。
そして、吹き飛ぶレオンハルトを追従するように、自身の双剣を活かした剣戟を繰り出して行く。
その動きは、レオナルドの体格からは想像が出来無いもの。
身体を回転させながら上下左右と不規則に斬り分けていた。
(あれは踊っているのか?いや、舞っているのか?)
その動きは、あまりにも滑らかで踊っているように見える程。
何とか、レオンハルトはギリギリのところでその動きに付いていっている感じに見える。
だが、常にその一撃には全力を込めていた。
(レオンハルトの方が断然、攻撃が重い。でも、それを平然といなしながら、これだけの動きをするレオナルドって...凄いな)
お互いに譲らない攻防を繰り広げていた。
片方は、純粋な武力のみでこの座に就いた、歴戦の将としての誇り。
片方は、己個人の為では無く、皆が生きる事(人権)に全力を懸け、皆を導く亜人革命軍のリーダーとしての誓いにも誇り。
お互いの意地と意地、誇りと誇りを懸けたぶつかり合いだ。
(これは...やはり...少しづつだけど、レオンハルトが押されている!?)
激しい攻防の中、レオンハルトの方が負傷が多かった。
それは徐々にだが、段々とお互いの優劣をつけるように広がって行く力量差。
「どうしたものか。まさか、この程度とはな...」
次に気が付いた時には、レオンハルトは地面に膝をついていた。
レオナルドがそれを見下すように上から覗いていた。
落胆した言葉を吐き捨て、この戦いを終わらせようと、息子に止めを刺そうと、両手に力を込め始めた。
(レオンハルト!!)
革命軍の全員が感じているレオンハルトの窮地だ。
このままでは、生命そのものが危ない。
絶体絶命の場面。
だが、レオンハルトは身体を無理矢理起こしては、それに必死に抗うように天へ向かって叫んだ。
「ガオォォォォォー!!!」
レオンハルトの咆哮により、地震が起きたかのように部屋が大きく揺れた。
あまりにも凄まじいその咆哮。
僕は思わず耳を塞いで、顔を伏せてしまった。
だが、この戦いを見届ける為にも、直ぐに顔を上げる。
伏せたその一瞬の出来事で、目の前には唐突な変化が訪れていた。
いつの間にかレオンハルトは、その全身に金色の魔力を身に纏っていたのだ。
それは、戦闘力を何倍にもする魔力を用いた身体強化。
レオンハルト専用の固有戦技(オリジナルアーツ)だ。
戦技(アーツ)とは戦闘スキルの事で、戦闘職にとった魔法のような役割を持っていた。
「魔纏武闘気(まてんぶとうき)...?」
レオナルドは、レオンハルトのその姿を見て驚く。
獅子人は、元々魔力を操る事が苦手な種族。
歴代の獅子人は魔法に頼らない、純粋な力のみで勝負をして来たのだ。
それは魔力を使用しなくても、身体能力のみで他を圧倒していたからだ。
(金色の魔力!?格好良いな!)
元々ある強靭な肉体に、魔力を使用した身体強化。
その力は、ステータスを何倍にも跳ね上げる。
レオンハルトの周囲に弾け飛ぶ魔力残滓。
バチバチと弾けるその魔力は雷のようだった。
「武人の最終極致...だと?」
獅子人のみに伝わる一子相伝の究極奥義。
その奥義は初代のみが扱う事が出来たそうだ。
秘伝書にはその全てが記されていたが、誰も理解する事が、実践する事が今の今まで出来ていなかった。
その為、獅子人の間では、武人の最終極地に到達した者だけが成し得る奥義として語り継がれて来た。
「くっ!どうせ、見掛け倒しなのだろう!!」
レオナルドが構わずに攻撃を繰り出す。
だが、先程とは真逆の結果。
レオンハルトは、その攻撃を難無くと捌いてしまう。
今まではレオナルドの攻撃を受ける事で精一杯だった筈なのにだ。
金色の魔力を纏っただけでステータスが何倍にも跳ね上がり、大剣を使う事無く身体の動きだけで避けている。
その動きには、かなりの余裕が見て取れた。
「攻撃が...何故だ!?当たらない!?」
「先程とは逆になったな」
レオナルドの攻撃を最小の動きで避け続ける。
目の前でそれをされているレオナルドは、焦りや、苛立ちから、段々と攻撃が大振りになって雑になってしまう。
レオンハルトはその隙を見逃さずに、攻撃を当てた。
「親父。もう、これ以上はやめてくれ...これ以上は、俺の手加減が出来ない...」
二人の力量に圧倒的な差が開いてしまった。
それは像と蟻が戦うようなもの。
だが、それでもレオナルドは負けている事を認めない。
必死に攻撃を繰り出し続ける。
「親父!!」
攻撃を止めないレオナルドに対して、レオンハルトは苛立ってしまう。
「勝負を引いてくれ!」と望む、レオンハルトの願いが届かないからだ。
「何故だ!何故止めてくれない!?」
レオンハルトが懇願する。
これ以上の戦いは、殺し合いになってしまうからだ。
いや、一方的な殺戮へと落ちてしまう。
だが、それに対してレオナルドが否定するように答えた。
「一度始まった勝負は、決着がつくまでやるのが獅子人の掟だ」
「そんな古いしきたりを持ち出しても!」
「これは、私が獅子人である事の誇りだ。例えそれで勝負に負けようが、死のうが曲げられない誇りだ」
「親父...でも...」
レオンハルトの話を遮り、レオナルドが武器を構え直して一歩前に出た。
「この攻撃に私の全てを賭ける!」
レオナルドが身体に残る力を振り絞り、攻撃を繰り出す為の力を込める。
それに対して、レオンハルトは父親の覚悟を受け止める為に、歯を食い縛りながら決着をつける為の覚悟を決めた。
レオナルドが最後の攻撃をする為に、ジリジリと距離を詰めて来る。
「獅子滅殺武功剣!!」
その技は、身体の全てを使い連撃を繰り出すレオナルド専用の固有戦技(オリジナルアーツ)。
左右の手足その全てを使い、剣戟、蹴撃を織り交ぜた軌道の読めない連撃。
その縦横無尽に繰り出される攻撃は、到底捌けるものでは無い。
だが、これも常人が相手ならばだ。
レオンハルトは、その攻撃を軽く受け流しながら絶好の機会を伺っていた。
それ程、身体能力に純粋な差が開いていたのだ。
そして、レオナルドの攻撃を見極めた瞬間。
相手の最後の一撃に合わせた、最大のカウンターを放つ。
「うをぉぉぉぉーーーー!!!」
レオンハルトのその目からは涙が零れていた。
この後に訪れる結果が、一つしか無いからだ。
親を息子自身の手で殺すと言う禁忌。
そんな悲痛な叫びを伴う、覚悟を決めた一撃だった。
その攻撃は、レオナルドの武器を破壊しながらも、その身を刻む最大の一撃が放たれていた。
親子の対決に決着がついた。
「親父...」
レオンハルトは、倒れているレオナルドへと近付いた。
そして、傷付いたレオナルドを抱き寄せ、唇を噛み締める。
「...どうしてだよ」
そう投げ掛けるレオンハルト。
自分には理解の出来無い志だ。
目を閉じ、顔を伏せ、苦しむように悲しむレオンハルト。
すると、レオナルドがその意識が消える前。
生命の灯火が消える前に最後の力を振り絞った。
「強くなったな...これからの時代はレオンハルト。お前が背負っていくのだ」
それは魔獣諸国連邦ポセイドンの三獣士・筆頭としてでは無く、レオンハルトの父親として話していた。
此処から先(未来)の時代。
ネプチューン皇のような一個人の強大な力で支配をするのでは無く、レオンハルトのような仲間と協力をして行く共生が必要なのだと。
今の父親としての優しい表情を見れば、最初からこうなる事が解っていたようだ。
「親父...解っていたのなら何故?」
レオンハルトには解らない。
何故、無理をしてまで決闘をしたのか?
親子同士で血を流す必要があったのか?
「私には、ネプチューン皇に助けて頂いた忠義がある。お前は産まれたばかりで、その事を覚えていないだろうし、教えてもいないがな。それは先代の皇が討たれた時、先代の皇と血縁関係がある我が一族は処刑される筈だったのだ」
先代の皇は、レオナルドの父親。
そして、レオンハルトの叔父だ。
この国で皇が変わる時、それは皇位を継承するか、その皇位を奪うかの二つしか無い。
先代の皇は、ネプチューンに力づくで皇位を奪われてしまったのだ。
そして、皇位が変わる時。
その血族を皆殺しにするのが掟だった。
「だが、皇の実力至上主義のおかげで恩赦を頂き、我が一族は生き延びる事が出来たのだ」
古いしきたりや、意味の無い掟に囚われないネプチューン皇。
力の有る者を優遇したのだ。
それこそ、国としての掟を捻じ曲げてまで。
「まさか、ネプチューン皇が!?」
知られざるネプチューン皇の姿を知ったレオンハルトは戸惑う。
まさか、自分が生きて来られたのは、ネプチューン皇のおかげなのだと知って。
「皇は変わられてしまった...それは事実だろう。だが、それでも、我が一族の恩人であるのだ。それなら忠義を尽くす事は、当たり前の事だろう?」
生きていく上で何よりも大切な生命を助けて貰った。
本来なら皇位が奪われた時点で無くなっていた筈の生命をだ。
今もこうして生きながられている事自体が仮初の生命なのだと。
ならばネプチューン皇の為、その生命を使う事は至極、当然の事だと。
「親父...」
だが、今更それを言われたところで、もう遅かった。
何故なら、後戻りが出来無いところまで来てしまっていたからだ。
「私が三獣士筆頭としていられるのも、お前がこれまでに苦労せず生きてこれた事も、皇のおかげなのだ」
実力を買われたからこその今の地位に、今の不自由な生活。
この時初めて、ネプチューン皇が、ただの冷酷で心の無い鉄火面では無い事が解った。
「そんな...でも、それなら何故、亜人同士で奴隷なんて事をするんだよ?」
掟を破ってでも実力至上主義を貫くなら、何故人間より身体能力の高い亜人を奴隷にしたのか?
国を大きくするなら尚更だ。
理由も答えも解らなかった。
「それは人間のせいだ。欲深い人間達は自分以外の種族を認めようとしない。数ある資源、領土は自分達のものだと思っている。中でも、珍しい亜人達は人間の欲を埋める為の道具とされるのだ。それを“守る為の亜人同士で奴隷”にする事で保護をしていたのだよ」
レオンハルトも人間の欲深さは身に染みていた。
小さい頃に何人もの友達が人間にさらわれていたのだから。
人間からすれば、幼い頃の力の無い亜人は格好の餌食。
それこそ成長する前の段階で、奴隷にして強制的に従わせる事が出来るのだ。
欲に忠実な人間は、とても醜い。
だが、父親が言う事の“守る為の亜人同士で奴隷”と言う言葉が良く解らない。
「でも、保護するなら奴隷にする事は無いだろ!?」
奴隷は強制だ。
そこに人権は無い。
ならばこそ、奴隷と保護は相反するもの。
守る為なら、絶対に必要が無い事だ。
「奴隷にするという事は、その人の所有権を得られるのだ。所有者以外の命令は効果を成さないし、奪われる事も無くなるのだ」
言葉遊びでは無いが、これは強制の仕方だと話すレオナルド。
奴隷としての最大の効力は所有権。
しかも、その契約は絶対なのだ。
どんな条件だろうと、一度交わした契約は、神だろうが破る事が出来無い。
それならば、神でも破れない契約を、人間に敗れる筈が無いのだと。
「そんな...本当に亜人を守る為だったのか?」
そんな契約の使い方があったのかと。
解釈一つで奴隷と言うものが保護に成り代わった瞬間。
「表面だけを見ているお前には解らなかった事だ。だが、一部亜人同士でも不等な扱いをされた奴隷もいるようだがな。民を守れなくて、すまなかった」
言葉の表面。
更には奴隷の表面。
奴隷と言うレッテルの表面だけを見て、最初から悪だと決め付けていた。
奴隷にされて鎖に繋がれている亜人の表面を見て、最初から可愛そうだと決め付けていた。
「親父!!俺はっ!?」
実情を知らなかった自分を、知ろうとしなかった自分を蔑む。
薄い表面だけを捉えて、上辺だけで正義を執行しようとしていたのだから。
「良いのだ。それを教えなかった私にも責任がある。それに、皇は力を求める為に変わられたのは事実だからな。こうなってしまった以上、後の事はお前に任せる。ああ...これで母さんのもとにいける」
レオナルドが最期にして、これが最後の“教え”だと伝えた。
大切なものは、見えるものだけでは無いのだと。
レオナルドの魂が抜けて行く事が、目に見えて解ってしまう。
「お、親父っ!?」
レオナルドは三獣士筆頭の為、家に帰って来る事などほぼ無かった。
その為、父親の愛情を、ましてや家族としての愛情を知らずに育ったのだ。
だが、父親のように“強い”男でいたいと思って生きて来た。
ただ、“力”が強いのでは無く、その“心”が強い男。
正義を守り、弱きを助ける。
そんな格好良い父親のようにだ。
だからこそ、レオンハルトはまだ父親に教わりたい事が沢山あった。
それこそ自分の知らない知識だったり、国一番の剣技をだ。
生活だって、一緒に遊びに出掛けたり、一緒にご飯を食べたり、夜遅くまで他愛も無い話をしたかった。
それは、好きな食べ物だったり、好きな女性の事だったりを。
話したい事が沢山...
そう。
沢山あったのだ。
でも、それはもう叶う事が無い。
最後だと解っているのに。
もう話す事も出来そうに無かった。
せめて、せめて記憶にだけは残したいのに。
父親の最期の表情を良く見たいのに、滲んで良く見る事が出来なかった。
「後は、頼んだぞ...レオン...ハルト」
支えていた父親の身体から、完全に力が抜け落ちた。
そして、その身体からは光の粒子が全て抜けてしまった。
「親父――!うぁあーーーーーー!!」
レオンハルトは哀しみに浸る。
知られざる過去を教わり、自分の行動に迷いが生じてしまう。
正義とは何なのか?
正しいとは何なのか?
一つの側面だけを見て判断していた自分の考えは、あまりにもお粗末で、拙い自己判断だったのだと理解する。
情報が生み出す価値を知る。
人の考えを完全に知る事は出来無いのかも知れない。
ただ、一人だけで考えていると感情の部分が大きくなり、思考の邪魔をしてしまう。
復讐心が念頭にあるのなら、復讐を達成させる為だけに思考が囚われてしまう。
他の考え、方法には至らないのだ。
では、どうすれば良かったのだろうか?
...その答えが出ない。
レオンハルトは呆然とその場から動けないでいた。
すると、後ろからマークが近付き、その肩に手を回した。
「...レオンハルト。迷っている暇は無い。全ての亜人の為にネプチューン皇を討たなくては」
「ああ...そうだな」
レオンハルトは革命軍のリーダーとして、皆を導かなくてはならない存在だ。
魔獣諸国連邦ポセイドンをより良い亜人の為の国にする為にも。
顔は伏せたまま涙を拭い、周囲に己の心の内を見せないように強がって、表情を無理矢理作り直した。
内に秘めた想いを。
先程、芽生えた想いを。
それは、あたかも静かに灯るランプの光のように、心の内で燃やし続けてだ。
新たなる覚悟と共に立ち向かう。
「皆、行こう」
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