015 魔獣諸国連邦ポセイドン⑦

 レオンハルトの体調も万全となり、ようやく皇都へと攻め込む準備が出来た。

 これは、此処から始まる新時代の幕開け。

 歴史の転換期だ。

 そして、新旧の世代交代であり、新たな皇の誕生。

 僕達はそれらを行う当事者であり、そして、歴史の証人となるのだ。


「さて、レオンハルト。各地でポセイダル軍の抑え込みは完了している。これからはポセイドン城へ乗り込む為、船の奪取をするだけなのだよ」


 革命軍本拠地の広場にて、マークがレオンハルトにそう伝えた。

 既に道筋は出来ている。

 後はそれに沿うだけなのだと。

 その言葉を待っていたとばかりに、レオンハルトは大きく頷いた。

 そして、革命軍のメンバーに向けて高らかに宣言をする。


「時は来た!ネプチューン皇を討つ、その時が!今日と言うこの日は、我々亜人にとって今後の命運を賭けた歴史の分かれ目となるだろう!負ければ全を失い、その一生を“物”として生きる事になるだろう!だが、この戦いに勝てれば誰しもが未来を望める“者”として生きられるだろう!今日と言うこの日が、新たなる歴史の一ページ目となる!我々の存在を“人”として!未来永劫、刻もうぞ!」

「ウオオオー!!!」


 割れんばかりの叫び声が鳴り響く。

 皆の欲しい言葉を的確に宣言した、レオンハルト。

 演説による鼓舞で革命軍のメンバーの指揮が高まった。

 こう言う状態の時、“人”は不可能を可能にするのだと。

 これまでの軌跡が、これからの奇跡に繋がるのだと知った。




[皇都・船奪取戦]

 今回皇都へ向かう通路は、前回使用した地下水路を使用しない。

 陸路を真っ直ぐ進むのだ。

 これは、各地で革命軍のメンバーが反乱を起こし、ポセイダル軍を分断してくれている為、コソコソと隠れて地下水路を使用する必要が無いからだ。

 文字通り、最短距離を一直線に進んで行く。


(これだけの革命軍のメンバーで、皇都へと進軍する光景は圧巻だな)


 僕達は、ネプチューン皇討伐の為の攻城戦、最終決戦に向けて革命軍のメンバー総出で皇都へと向かっている。

 軍のように規律がしっかりしている訳では無いが、それでも行進する度に鳴らす地面。

 そして、メンバーの熱気による空気の揺れ。

 全員が一つの目標に向けて動いている様は圧巻だった。


(ここからは皇都。すんなりとここまで来る事が出来ているけど...これは、名も知らぬ革命軍のメンバーのおかげ...革命に関わった全員が無事で、皆が望んだ未来を手にする為にも、ネプチューン皇を討ち取らなければ!)


 ゲーム世界だと言うのに、全力で感情移入をしている。

 これは、NPC一人一人が人格を持ち、感情を顕わに行動しているからだ。

 僕は思う。

 頑張っても報われない人生程、虚しいものは無いのだと。

 僕は知っている。

 頑張る事が出来無い人が居る事を。

 勿論、その頑張った結果は、本人の努力次第と効率次第では最高なものにも、最低なものにもなるのだが。


(皇都も慌しい。先行部隊が頑張ってくれているおかげだ)


 皇都在住の軍隊も各地の対応に追われている為、今はかなり手薄な状態。

 それでも、皇都防衛の為、最低限の防衛軍は残っていた。


「これから我々主要メンバーは、作戦の要である船の奪取へと向かう!残りの革命軍の皆は、全力でポセイダル軍の抑え込みを頼む!!」


 レオンハルトが革命軍全員に指示を出す。

 皇都に残っている防衛軍には、一緒に進軍をして来た革命軍のメンバーをぶつけ、その動きを抑えて貰う。

 そして、主要メンバーである、レオンハルト、マーク、ジェレミー、僕を合わせた四人が港へと侵入し、船を奪いに行く作戦だ。

 少数精鋭で時間を掛けずに最速で船を奪取する。

 これは、革命軍のメンバーを傷付けさせない為の処置だ。

 そうして、一度船を奪ってしまえばこちらのもの。

 全員で乗り込み、一気にポセイドン城を目指す事が出来る。


「あそこが船を置いてある港だ!敵が潜んでいるかも知れない。気を引き締めろ!!」


 僕達は港へと侵入し、船着き場へと到着した。

 だが、不自然な程に誰も人が居なかった。

 敵の最新戦闘帆船があると言うのにだ。

 周囲を警戒しながらも進んで行く。

 すると、道のど真ん中に烏賊の頭を持つ亜人が一人立っていた。

 レオンハルトが、その人物に気が付く。


「あれは...イカルガ?」


『三獣士・海将 烏賊人イカルガ』

 スルメイカの頭に、人の身体がついた烏賊人。

 人の身体の腕と足以外にも、スルメイカの頭から四つの短い触手と二つの長い触腕が生えている。

 身長は200cm。

 頭以外を鎧でガチガチに固めた武人。

 武器は何も持っていない。


「やはり、レオンハルトお前だったか。ポセイドン城に行く為には海路しか無いからのう。必ず、ここに来ると思ってたぞ」


 背筋を真っ直ぐに伸ばし、仁王立ちをしているイカルガ。

 その見た目からは想像のつかない、御老人のような喋り方。

 何処か、レオンハルトを見る目が悲しそうな、残念そうな表情を浮かべていた。


「レオンハルト、こんな事をしてどうするのじゃ?お前は現実を生きているのか?それとも、夢の世界を生きているのか?」


 レオンハルトを真っ直ぐに凝視めて問い掛けて来た。

 それは、最初にどうする事も出来無いもどかしさを、次に苛立ちを表すように投げかけて、最後はこちらを憐れむように嘆きながらだ。


「お前がここに来た以上、ワシはお前を殺さなければならない。倒すと言う生易しいものでは無いぞ?言葉通りにお前の生命を絶命させるのじゃ。それも、お前達全員をじゃ」


 「お前達全員をじゃ」と言葉を発した瞬間、イカルガの全身から殺気が放たれた。

 その殺気の鋭さは、僕達の身体の自由を奪うような、恐怖で足が立ち尽くすような、そんな嫌な感覚に襲われる。


「「ぐっ!!」」


 この場に一緒に居たマークやジェレミーは、その殺気に威圧されてしまい身動きが取れなくなっていた。

 二人は然も当然のように跪いていた。

 その中で、ただ一人。

 レオンハルトだけは平然と立っていた。


「ガオォォォォォー!!」


 レオンハルトは、その殺気(威圧)を掻き消すように咆哮した。

 その勇ましい咆哮は、いとも簡単に殺気(威圧)を掻き消し、更には、僕達を鼓舞し、気持ちを底上げしてくれたのだ。

 すると、地面に跪いていたマークやジェレミーは動けるようになり、その場で立ち上がる。

 

「流石は、レオンハルトじゃな。だが、こんなもの(威圧)は最初から子供騙しじゃ」


 それを傍から見ていたイカルガ。

 上の立場から僕達を馬鹿にするように、レオンハルトへと賛辞を送った。

 すると、イカルガはその場で腰を落とし、こちらに正対して構える。

 武器は何も持たず、その身一つ。

 どうやら、徒手空拳で戦うみたいだ。

 手足に触手と触腕を合わせた10本。

 それぞれが意思を持って別々に動いていた。


「お前達、全員で掛かって来たとしても、物足りないかも知れんのう...これでは楽しむ事も出来そうに無い。まあ、お前達の結果だけは見えておるがのう。では、覚悟するのじゃ!」


 イカルガがそう叫ぶと、港一杯にバトルフィールドが広がった。

 そうして戦闘へと切り替わった。

 しかも、今回は初めてのパーティー戦。

 それなのに、こちらから仲間に指示が出せる訳では無く、個人それぞれが独立して動くようだ。


(パーティー戦ではあるけど、これは...ほぼ、自動戦闘なのか?)


 それぞれ独立した動きの中で、個別パターンが決まっていた。

 レオンハルトは、装備している大剣を振り回し、一撃に全力を込めた単発攻撃。

 マークは、その身軽さを活かした動きで、随時イカルガの周囲を移動しながらの援護攻撃。

 ジェレミーは、サポート専門で誰かが傷付いたら傷を癒す回復支援と言った具合だ。


(これはイベント戦?...僕が何もしなくても戦闘が進むのか。だったら、戦闘そのものを早く終わらせる!)


 三人だけでもバランス良く戦っていた。

 だが、イカルガの手を抜いた戦闘に付き合う必要など無い。

 これが何の為の戦闘なのか?

 僕には解らないが、言える事は、もっとちゃんとした戦いをしたかった。

 それなら、茶番は早く終わらせるだけ。

 三人の援護攻撃に回り、イカルガの隙を見ながら、皆の連携が途切れる時に合わせて魔法や弓矢で攻撃する。


「ほっほっほっ。なかなかやりよるのう」


 この言葉には、何の感情も込められていなかった。

 適当に機会を伺っているだけのイカルガ。

 だが、その戦い方は、身体全身を利用した派手で魅力的なもの。

 頭から生えている触腕を鞭のようにしならせて叩いたり、腕や足、その全てを使って途切れ無い連続攻撃をして来たりと、とても格好良いものだった。

 しかも、その鞭のようにしなる触腕は、伸縮自在で体長の二倍程伸びていた。


(独立した腕の動きから、相手に合わせた多彩な攻撃...多数との戦い方の参考になるな)


 イカルガは近距離の場合、スルメイカの頭部から髭のように生えている四本の触手を、ナイフのように鋭く尖らせて斬り付けて来る。

 どうやら、遠距離からの攻撃は持ち合わせていないが、中距離の場合、その触腕を鞭のようにしならせた攻撃。

 近距離、中距離と、即座に使い分ける攻撃は、とても厄介だった。

 

「流派、十触流水拳。流れる水のように止まらない連撃を、とくと味わうが良い!」


 イカルガは僕達の攻撃を、その体術で上手く裁きながら全身で攻撃して来る。

 その腕と足は、それぞれの触手や触腕に連動して打撃を繰り出し、イカルガの持つ10本の手足が縦横無尽に、近距離、中距離と同時に攻撃を繰り出していた。


(おお!凄いな!身体を回転させたり、跳んだりする事で近寄らせないのか。手足が10本もあると攻撃の邪魔になりそうだけど、それぞれがちゃんと機能している!)


 僕にはまだ、相手の動向を確認する余裕があった。

 何故なら、前回のエアホーク戦と比べると格段に楽な戦闘だからだ。

 これがもしも、僕とイカルガによる一対一の戦いならば、とても厄介な戦いになっていただろう。


(僕一人だったら...この手数の多さには対応出来なかったな)


 しかし、今回はパーティー戦。

 仲間がいる事でお互いをカバーし合い、攻撃に連携が生まれていた。

 レオンハルトの攻撃は一撃が重く、容赦無く相手のHPを削る。

 マークはレオンハルトの攻撃に追従し、必ず追撃を与えている。

 ジェレミーは支援職なので、傷付いた皆の回復へと回っている。

 そして、僕は、その攻撃の繋ぎ目を切らさないように、魔法や弓矢で攻撃を加える。


(皆と協力すれば、こうも楽に戦えるとは...自分で言うのも変だけど、良い感じに立ち回れているな。ただ、この戦いでしんどいのは、正面で相対しているレオンハルトやマークになるのか)


 どうしても、イカルガに近付いているレオンハルトやマークは、イカルガの10本が繰り出す攻撃でダメージを負っていた。

 だが、ジェレミーが直ぐに回復してくれるので、戦闘自体は問題無さそうだ。

 痛みに関して嫌気が差さなければだが。

 NPCだから、そう言った感情は無いのかな?


(血を流しているし、傷も絶えない。回復があれど、辛いだろうな...だが、このまま一気にけりをつける!)


 僕達の連携攻撃は研ぎ澄まされて、途切れない連撃となりコンボを生み出す。

 10本の手足を持つイカルガを圧倒しているのだ。

 そして、イカルガのHPが半分まで減ったその時。

 周囲に広がっていたバトルフィールドが、突如途切れた。


「...こんなところかのう」


 イカルガがこちらに聞こえるか聞こえないかの声で、ぼそっと一言を漏らした。

 既に戦闘は諦めており、その構えを解いていた。

 すかさず、こちらとの距離を取り後退を始めたのだ。


「これは敵わないのう。ふむ。どうやら、ワシの手には負えないようじゃ」


 わざとらしく負けを認めるイカルガ。

 ただ、その言葉には全く感情が込められていなかった。


(いや、これはどう見ても嘘だろうが!)


 イカルガは、戦闘を諦めるように、この場から去って行く。

 自分の職務を簡単に放棄したのだ。

 僕は訳が解らないまま、呆気なくパーティー戦が終了してしまった。


(えっ?これで終わり?)


 戸惑いながらも、どうしてこうなったのか解らずに口を開けて呆然としてしまった。

 釈然としない気持ちが残ったままだ。

 だが、レオンハルト達はその事を一切気にする事が無く、此処ぞとばかりに身を前に乗り出した。

 今が勝機だと、レオンハルトが大剣を天に掲げて叫ぶ。


「このチャンスを逃すなっ!今の内に船を奪うぞ!」

「うおぉぉぉぉーーーー!!!」


 皆がそれに呼応するように声を上げる。

 すると、レオンハルトは皆を先導するように船の方へと走り出した。

 マークもジェレミーも、それに続いて走り出す。


(何で!?何で、そのまま行けるんだよ!)


 僕達の後ろで離れて待機していた革命軍も、船目掛けて一目散に走り出す。

 すると、否応無しに、自動的に場面が進んでしまう。

 動きたくなくても、背後から押し出されてしまうのだ。

 僕は、釈然としない気持ちのまま皆に付いて行く事となった。


(えっ!?勝手に場面が進む?)


 場面は自動的に進み、船着き場にと辿り着く。

 目の前には、等間隔でキッチリと整理された巨大な船が並んでいた。

 それは、現代式の戦闘艦では無い。

 中世時代に大活躍した、木造で出来ている巨大帆船(ガレオン船)。

 その光景を目撃した僕は、先程までの納得しない気持ちを忘れていた。

 目の前の巨大帆船(ガレオン船)に目を奪われていたのだ。


「これは...圧巻だな!」


 帆船とは風力を利用して進む船の事だが、その帆装により効果が変わるもの。

 帆装(はんそう)とは船舶工学における帆船の艤装の構成要素で、マストと帆の組み合わせを体系化したものである。

 多くの場合、以下の三つの構成を含んでいる。

 ・軽微な風での航行性。

 (風の多くは至軽風(鱗のような、さざ波が立つ程度の風)であるため、軽微な風での航行を可能としておく必要がある)

 ・風に応じた対応性。

 (可変的な風に対応する為、風の強弱などに応じて帆の調整を可能とする必要がある)

 ・嵐に対する適応力。

 (嵐のような極めて強い風の中でも、船を保守するための帆の管理を可能とする必要がある)


 帆には、横帆と縦帆の二種類がある。

 横帆は追い風を捉える効率が高く、季節風を利用して長距離を移動するのに向いている。

 縦帆は追い風の利用効率は劣るが、より風に向かって間切る事が出来る。

 つまり、目の前の巨大帆船(ガレオン船)は、より前方から吹く風を利用する事が出来て、操船がし易いという利点があるのだ。


「確か、これ...ガレオン船って言うんだっけ?」


 様々な特殊兵器を装備する巨大帆船(ガレオン船)。

 目の前のガレオン船は、四本マストを搭載した横帆と縦帆の複合である。

 船首の部分にはマーメイドを象った物を取り付けてあり、装備は大砲(魔導砲)が船体に幾つも設置されていた。


「マーメイド...海の守り女神か」


 ただ、これらの装備をよく見ると、所々に魔法結晶が施されていたり、魔法陣が描かれていた。

 この事が意味をするのは、全ての装備が魔法具の類だと言う事だ。

 レオンハルトが前に出た。


「これは想像よりも大きいな!これなら一度でポセイドン城に乗り込む事が出来る!よし、では船内を詮索する!マーク、ジェレミー、付いて来てくれ!」


 レオンハルトが先陣を切り、マークとジェレミーの三人で船の中へと入って行く。

 船の中に潜んでいる敵兵や罠の有無を調べる為らしい。


(出来れば僕も一緒に入りたかったな...何故、仮想世界に来てまで、こんな気まずい思いをしなければならないんだろう...)


 僕と革命軍のメンバー達は気まずい空気の中、無言の状態で待たされていた。

 良く知りもしない間柄の面々。

 空間が息苦しい。


「「...」」


 どうやらお互い様らしい。

 皆が皆、強張った表情で息を殺しているのだから。

 その長い間、嫌な沈黙の中で待たされていると、ようやく、船内からレオンハルトが顔を出して叫んだ。

 船内の確認作業が終わったようだ。


「待たせたな!船内は何も問題無い!!皆中に入って来い!」

「「「おぉー!!!」」」

(ふーっ。ようやくだよ。革命軍のメンバーも待ってましたとばかりだな)


 外で待機していた革命軍の面々が、矢継ぎ早に中へと乗り込む。

 その様子から、革命軍の面々も早く船の中で気を緩めたかったらしい。


「解り易く、そっぽを向く相手や、鳴らない口笛を吹いている奴がいたもんな...」


 ただ、(こんな場面まで、リアルにしなくても良いのに)と呆れてしまった。

 そして、僕を含めた全員が船へと乗り込むと、レオンハルト達が出港の準備を開始する。

 どうやら、ガレオン船はレオンハルト一人でも簡単に動かせるものらしい。

 本来なら、色々と手間が掛かってようやく準備が整うもの。

 だが、レオンハルト達が準備を始めたと同時に船が動き出した。


「これだと...僕が手伝える事は何も無さそうだな。それなら、船の中でも調べて見ようかな?」


 僕は、外からガレオン船を見た時から、「魔法世界の船がどうなっているのか?」とずっと興味が湧いていた。

 船内はどうなっているのか?

 動力は何で動いているのか?

 船の装備はどうなっているのか?

 その欲求を満たす為に、船の中をくまなく調べ回る事にした。


「どれもこれも楽しみだな!」


 そうして、船の中を探索していると、色々な発見をする事が出来た。

 船内は外から見た時よりも広くなっており、魔法で空間が拡張されていた。

 それもその筈。

 このガレオン戦は、魔獣諸国連邦ポセイドンが誇る最新式の巨大戦闘魔導帆船なのだから。

 当然、船内の設備も充実しているものだ。


「これは凄いな!それに空調も管理されているだなんて、とても快適だよ!」


 波による揺れの影響を全く受け無い。

 しかも、船内の至る所で空気が循環しており、とても澄んでいた。

 それに、船内の温度が一定に保たれているのだ。

 更には、潮風の影響も全く受け無い。

 それどころか、湿っている場所が全く無いのだ。

 どうすれば、これ程の環境を保てているのかが不思議で仕方無かった。


「魔法がある世界だと...こうなるのかな?」


 思わず口に出てしまった不思議。

 これは、たら、ればの話になる為、その疑問を解く事が出来無い。

 だが、今の状況がとても楽しかった。


「船の移動は、変わらず風力頼みなのかな?」


 更に船を調べて行くと、船の動力(移動の仕方)について解った事があった。

 このガレオン船の動力は自然の風を利用する事が無く、風魔法を利用して進んでいた。

 これは帆船にとって、かなりの利点である。

 何故なら、基本的に帆船は風が無いと進む事が出来無いからだ。

 それが、風魔法で自由に移動が出来るのなら、帆船の弱点である移動距離、速度を補えるのだ。


「魔法がある世界だと、機械に頼る必要が無いのか...」


 現代とは違う世界観。

 その事実に、僕は感慨深く浸ってしまった。

 この世界の素晴らしさを、魔法の力の素晴らしさを、目の当たりにする事が出来たから。


「これが...この世界が現実だったら良いのにな...」


 それは、希望にも似た思いだった。

 この仮想世界が本物だったら?

 もしくは、現実化してくれたなら?

 そんな夢を見てしまう。


「...」


 船が順調に進んで行く中、僕がそんな事を考えている時。

 帆船の近くで、何処からともなく大きな波が立つ。

 その時、波の影響を受けない筈の帆船が、不意にも何かに引っかかったように動きを止める事となった。

 だが、船の中そのものは魔法具の効果により、揺れを感じる事が全く無かったけれども。

 すると、突如。

 外から声が聞こえ出した。


「!?」

「ガハハハッ!まんまと引っかかりおったな!」


 船全体を覆うように、不気味な声が鳴り響いている。

 僕はその声の主を探すように、慌ててデッキへと駆け上がった。


「何が、起きているんだ!?」

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