007 初依頼
「じゃあ登録も終わったし、ランク上げや魂位上げを始めるかな...」
Gランク専用の依頼掲示板へと移動する。
その掲示板には、ランクに合わせた初歩的な討伐依頼や採集依頼が貼り付けてあった。
僕はその一つ一つを吟味するように依頼書を覗いて行く。
「依頼は、どんな物があるんだろう?」
※ジャイアントラット討伐
内容:倉庫に住み着いたジャイアントラットの駆逐。
報酬:5,000ガルド(討伐数により追加報酬)
期限:無し
※ジャイアントトード討伐
内容:下水道に大量発生したジャイアントトードの駆逐。
報酬:4,000ガルド(討伐数により追加報酬)
期限:無し
※下水道の清掃
内容:下水道の汚泥清掃。
報酬:8,000ガルド
期限:無し
※雑草除去
内容:庭の雑草の駆除
報酬:3,000ガルド
期限:無し
「この中なら...最初は討伐依頼から始めようかな?」
目標は、一刻も早く強くなる事だ。
そうする為にも、自身の魂位を上げる為に少しでも戦闘に関わる仕事を選びたい。
だが、Gランクの依頼は、害獣駆除、清掃依頼、配達依頼で、街の中での仕事が主だった。
それ程の成果は望めそうに無かった。
「Gランクだと、討伐依頼でも害獣駆除扱いになるんだな。ええっと...この中ならどれが良いのかな?」
僕は依頼の中から害獣駆除に絞って受ける事にした。
ただ、初めてという事もあり、正直何を選べば良いのか解らなかった。
取り敢えずだが、目に付いた一番上の依頼を受ける事にしてみよう。
「それなら...一番上にあるし、これにしてみようかな?」
僕はジャイアントラット討伐の依頼書を掲示板から剥がした。
受付で受注をするって言ってたから、これで良いんだよね?
ドキドキしながらも受付に持って行く。
「討伐依頼、『ジャイアントラット討伐』で宜しいでしょうか?」
[YES/NO]
(良かった。選択肢が現れているから、これで合っているみたいだ。とりあえず、最初だし、これで良いかな?)
[YES]を選択。
「かしこまりました。では、冒険者カードの提出をお願い致します」
僕は言われた通りに、冒険者カードを受付の職員に渡す。
「ありがとうございます。それでは、冒険者カードをお預かり致しますので、少々お待ち下さいませ」
職員は、僕から受け取った冒険者カードを依頼書に重ねる。
すると、受付台の引き出しから何かの道具を取り出した。
魔法具と呼ばれる物だ。
(あれは...魔法具?)
魔法具とは、魔法陣が刻まれた道具であり、魔力を魔法陣へと流す事で予め設定されている効果が発揮される道具である。
基本的に、魔法が使用出来無い人物だとしても、魔力さえあれば使える物ではある。
だが、冒険者ギルドで使用されている魔法具は、他者に悪用されないようギルド職員専用に作成された物。
魔法具自体に個人を識別する固有魔力波長が登録してあるのだ。
(どうやって使うんだろう?)
僕は気持ちをワクワクさせながら、その動向を追って行く。
職員は手に取った魔法具を、先程重ねた冒険者カードと依頼書の上からかざし始めた。
その魔法具に職員が魔力を込めて行く。
すると、魔法具に刻まれた魔法陣が発光し、依頼書の文字が次々と宙に浮かび上がった。
(わあ!文字が浮かび上がった!でも、さっきとは違う?今度は...カードに吸い込まれて行く!?)
浮かび上がった文字は、順不同のまま冒険者カードへと吸い込まれて行った。
そうして依頼書の内容が全て冒険者カードへと吸い込まれると、情報が反映され受付終了となるようだ。
「お待たせ致しました。こちらで依頼受付が完了致しました。では依頼達成の証明としまして、こちらの魔法袋をご持参下さい。討伐対象を倒した際、こちらの魔法袋の中に入れて保管して頂きます」
職員から渡された物は、袋の中の空間が拡張されている布袋だ。
試しに、布袋の中に手を入れて見ると、袋の体積以上に手が沈んで行った。
ホーム拠点のアイテム倉庫にもあった異次元空間。
その感覚は、決して濡れる事の無い水の中へと手を侵入させたものだった。
「それでは、こちらが討伐証明書になります。討伐が完了した場合、必ずこちらの魔法筆で依頼主からサインを頂いて下さい」
羊皮紙と呼ばれる紙で出来た証明書。
その触感はゴワゴワとした手触りで、現代社会の滑らかな植物紙とは全然違った物。
だが、現実に無い物に触れる事で、よりファンタジーを感じる事が出来る。
僕はその事に、自然と嬉しくなっていた。
どうやら、この証明書は特殊なインクで書かれた物で、肉眼では目視出来ない魔法陣が刻んであるみたいだ。
依頼が完了した場合こちらにサインを貰うのだが、特殊な魔法筆で無いと魔法陣が反応せず、サインを書く事が出来なくなっているようだ。
「それでは規約事項を守った上、どうかご注意下さいませ」
こうして依頼申請が完了した。
凄いな。
NPC相手だが、完全な会話が出来ている。
受付の職員は事務的な行動だけしかしていないけど、それでも、その一挙手一投足が人間そのものだった。
「話しているの時の口の動きや表情。どれもデータが作り出したものとは思えないよ。本当に、ここは凄い世界だな」
僕は、此処がゲームの世界だと言う事を忘れてしまう。
こんなにもリアルで、こんなにも体感、実感出来る事は無いのだから。
「さて、受付も終了したし...先ずは装備を整えないとな。商業エリアに行けば良いのかな?」
討伐依頼をこなす為にも、装備を整える為に東の商業エリアへと移動する。
この商業エリアでは、販売店がひしめき合い、所狭しとしのぎを削り合っている。
格安店から人気店、隠れた名店と。
とても活気の溢れた場所だ。
人通りが多い。
(正直、僕にはどこのお店が良いのか解らないな...とりあえず一つずつ調べて見て、手に馴染む物を選んでみよう)
お店の格式や、お勧めのお店そのものが解らない。
その為、全部のお店を一つ一つ入って確かめる事にした。
時間は掛かるが、自分の生命を守る為の装備だ。
失敗したところで、ゲームだからやり直す事は出来るだろうが、痛いものは痛いし、死ぬのは怖い。
それなら時間を掛けてでも確認し、自分の所持金で買える範囲で納得の行く装備を買う。
妥協はしたくない。
(こうして見てみると、同じ装備でも品質が全然違うんだな。何が良いのか僕には解らないけど...明らかにナイフ一つ取っても、手の馴染み方や重さが変わるもんな...)
僕の初期装備は、木の杖、布の服、ローブ、皮のブーツ。
THE・村人と言った感じの装備である。
流石にこのままの状態で冒険に出る事は出来無い。
今のまま魔物と遭遇すれば、一発で殺されてしまうだろう。
(最低でも、近距離戦闘用にナイフと、遠距離戦闘用に弓矢は欲しいところ。鎧は...僕には重過ぎるのと、かえって動きが制限されてしまうから止めておこう)
今の僕でも、重い鎧を装備したところで動く事は出来る。
それは、キャラクターの肉体が現実の僕とは違い、身体能力そのものが高いからだ。
ただ、鎧そのものに慣れていない事。
関節の不自由さを感じた事。
動くだけでガシャガシャと金属音がする事。
僕には、そのどれもが苦手な物に感じた。
(現時点なら、鎖かたびらで最低限身体を守って、皮の胸当てで心臓付近を守れば急所は何とかなるか...正直、欲しい物は沢山あるんだけど、今は我慢しておこう)
商業エリアを探索した結果、僕が購入した物は以下の通りとなる。
ナイフ、4,000ガルド。
木の弓、3,000ガルド。
木の矢50本、5,000ガルド。
鎖かたびら、8,000ガルド。
皮の胸当て、12,000ガルド。
合わせて、32,000ガルドの装備品を購入した。
「よしっ!これで準備はOKかな!」
そうして準備が出来たところで、依頼主の下へと向かった。
今回の依頼主は、工業エリアに住んでいるドワーフの武器職人だ。
β版にはドワーフが居なかったので、そのグラフィックを見る事が密かな楽しみである。
そんな事を考えている内に、無事、依頼主のお店へと辿り着いた。
「ここが依頼の場所...なんだか、お店には見えないな」
正直、外観だけを見た感想。
お店だと言う事が、認識も想像も出来無い物だ。
パッと見、住居エリアにある木造の建物と変わらないのだから。
そんな場所へと、「他人が入って良いのか?」と迷う程の建物。
だが、依頼書に記載されている目的地は、間違い無く此処を指していた。
「...まあ、入れば解るか」
木で出来た扉をノックする。
だが、全く反応が返って来ない。
どうしようかと迷い、二、三度同じ行動を繰り返したのだが、結果は同じだった。
「もしかして、誰も居ないのか?いや、わざわざ依頼を出しているんだ。そんな事は無いはず」
それならいっその事、此処はゲームの世界。
これが現実世界なら間違い無く不法侵入となるが、僕が居るのは仮想世界の中。
それにRPGではそう言った事が普通に行われているのだ。
僕は考えるのでは無く、そう割り切る事で、勝手に扉を開けて行った。
すると、その内側には鈴のような物が付いており、開閉する度に「カランカラン」と大きく音を鳴らした。
(良かった。お店で合っていたんだ...)
「ホッ」と一息。
建物の中は、新築のような木の良い香りが充満していた。
何処か、温かさや懐かしさを感じる物だ。
(なんだろう?木の良い匂いがする?)
すると、部屋の奥からドワーフが現れた。
(わっ!ドワーフだ!やはり背は低いんだな。僕の腰の高さくらいか?それに髭がモジャモジャだ!)
ドワーフは想像通りの見た目をしていた。
身体は小さいが、ボディビルダーのように肉厚な感じ。
腕や足の太さは丸太のようだ。
ドワーフが僕に気付くと、申し訳無さそうに頭を下げる。
「すまないな...わざわざ店まで来て頂いたのじゃが、今この店では武器を売っていないのじゃ...商業エリアの方にワシの作成した武器を卸しているから、もしも武器が欲しいのならそっちに行くと良いのじゃ」
これは害獣の所為なのか?
そんな悲壮感がドワーフの周りに漂っていた。
ただ、僕は武器が欲しい訳では無い。
依頼の為に此処までやって来たのだ。
それを解って貰う為にも、アイテムバックから冒険者カードを取り出した。
そして、その冒険者カードをドワーフへと見せる。
「おお、そうか!お前さんがギルドの依頼を受けてくれたんじゃな?」
先程とは一変して、暗かったその表情が突然明るくなった。
やはり、相当困っていたみたいだ。
「内容は依頼した通りじゃ。店の裏の倉庫にジャイアントラットが住みついてしまい、とても困っておるのじゃ。保存している食料も食べられるし、作成した武器も齧られて使い物にならんのじゃ」
ドワーフは、やれやれと言った動作で話した。
もう既に、かなりの被害が出ていたみたいだ。
「準備が出来しだい裏の倉庫へと案内するので、どうか全てのジャイアントラットを退治して欲しいのじゃ」
此処で選択肢が現れた。
[YES/NO]
既に僕の準備は出来ているので、迷わずYESを選んだ。
[YES]
「おお、そうか!では、倉庫へと案内しよう。こっちじゃ」
ドワーフに連れられて店のすぐ裏の倉庫へと案内された。
二人して建物の中へと入って行く。
その中は、僕が思っていたよりも広かった。
ホーム拠点のアイテム倉庫くらいの大きさを想像していたが、その倍は有にある。
どうやら、地下設備も完備されており、そこが主な被害場所らしい。
「此処を降りたらすぐじゃ。階段に気を付けておくれ」
倉庫の地下は湿気が多く、雨の日の室内と同じようにとてもジメジメしていた。
それに、空気がこもっていて埃っぽい匂いが充満していた。
(これは...環境のせいもあるんじゃ無いかな。これだけジメジメしているなら、ある意味住みつかれても納得だよ)
ドワーフは地下の壁に立て掛けてある蝋燭に火をつけ、部屋に明かりを灯した。
すると、部屋の全貌が見え始めた。
どうやら、倉庫内の手前部分には武器が無数に置いてあり、奥側には食料品が保管してある。
だが、よく見ると、そのどちらも使い物にならなそうだ。
武器は齧られた形跡が残っており、刃こぼれをおこしたり、錆びついていた。
食料品も同じで、保存食の燻製肉やチーズ、麻袋に入った穀物などは齧られて破れていた。
その中身が周囲に散乱して。
(これはひどいな...)
「このままでは生活もままならないのじゃ...この倉庫にジャイアントラットがどのくらいいるかもワシには解らんのじゃ。だが、もし5匹以上討伐した場合、討伐数が1匹増える毎に1,000ガルドの追加報酬を払おうではないか。では、宜しく頼むぞ」
依頼主のドワーフが、僕にそう告げると足早に倉庫から出て行った。
これは確かに酷い有様だ。
折角、丹精込めて製作した武器も、これでは売り物にならない。
保存している食料も、その全てが食べられている(齧られている)。
ジャイアントラットそのものをどうにかしない限り、ドワーフの生活が出来無い事は明白だった。
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