006 冒険者ギルド

「これで、そなたに祝福は与えられた!」

 

 オーディンが僕にそう告げた。

 その瞬間、空気が一変する。

 先程までの痛みや苦しみで忘れていたのだが、再度、この場に威圧感や緊張感が支配して行った。

 僕は姿勢を直ちに戻して、オーディンへと身体を向き直す。


「では、この世界をより良い世界に導いてくれる事を期待している。頼んだぞ」


 そう告げると、オーディンはその場から浮いて上昇を始めた。

 無数の天使達も一緒に上昇し始め、天へと帰って行く。

 これは強制では無い、極自然な出来事。

 気が付けば僕は、オーディン達が完全に消えるまで祈りを捧げていたのだ。

 そして、オーディン達が天へと消えて見えなくなった瞬間。


「ぷはーっ。緊張した!」

 

 僕の強張っていた表情が、緊張が解れてだらしなく破顔して行く。

 無駄な力が込められていた身体が、一気に脱力をして、その体勢を崩した。

 お尻をすとんと地面に下ろしては、楽になるようにと両足を伸ばして。

 上半身を支えるように両手を背後へと伸ばし、頭(首)を「ダラン」と後ろに寝かせて顔は天井を見上げる。

 僕は無事に祝福を貰えた安堵感から、先程の演出を思い返していた。

 あの造り込まれたグラフィックは流石なもの。

 何度も頭の中で反芻していた。


「凄かったな...まさか、直接オーディンから祝福を貰えるだなんて思ってもいなかったよ」


 神の贈り物の演出を嚙締めながら、祝福で獲得した才能を確認する。


「“記憶と思考”か。出来れば成長促進系の経験値○倍が欲しかったんだけど、そう上手くはいかないか...これは、一体どんな効果があるんだろう?」


 ステータス画面を開き、才能の項目を確認してみる。

 うん。

 ちゃんと獲得しているようだ。

 『記憶と思考』。

 ただ、試しに画面上をクリックしてみたが何も反応が無かった。


「反応無しか...言葉の意味だけなら解るんだけど...これは、どんな効果かあるんだ??」


 「う〜ん」と悩んでみたが、今深く考えたとしてもその答えは解らなそうだった。

 なので僕は、効果の確認を後回しにする。

 才能が有っても無くても、どうせやる事は一緒なのだから。

 それにもし“記憶と思考”の効果が大したもので無いとしても、今後のイベント報酬で才能は獲得出来るものだ。

 それならいっその事、才能度外視で強くなれば良いと前向きに考えた。


「まあ、後々に解る事だろうし、今気にしたって仕方無いか。それよりも、早く強くなっていろいろな魔法を使ってみたいよな!」


 僕は何だか、能力の解らない才能を手に入れた。

 だが、此処からは強くなる為にラグナロクRagnarφk本編を楽しむのだ。

 先ずは、メインストーリーを始める前に、冒険者ギルドへと行き冒険者登録をする事が必要だ。


「よし!手始めに冒険者登録をしよう」


 目的はゲームシステムに慣れる為と、魂位を上昇させ、同時にステータスを上昇させる為だ。

 β版の時に思ったが、どうやら僕は戦う事が大好きみたいだ。

 今も早く何かと戦いたくて仕方が無い状態。

 自身の持ち得る力を、スキルを、魔法を駆使して戦いたいのだ。

 僕は冒険者登録をする為、ホーム拠点から冒険者ギルドのある始まりの街へと移動を始めた。


『プリモシウィタス』

 始まりの街。

 ミズガルズにおける原始の街にて世界と共に繁栄してきた中立地帯。

 円形に広がり東西南北と四つのエリアに分かれている。

 街の中心には冒険者ギルドがあり、おおまかに東は商業エリア、西は工業エリア、南は飲食エリア、北は居住エリアで構成されている。


 僕は街の中心にある冒険者ギルドへと向かった。


『冒険者ギルド』

 冒険者登録をすることにより身分、収入を得ることが出来る民間資格。

 魔物討伐、素材収集、遺跡探索、護衛依頼、人命救助、賞金首討伐。

 様々な依頼を受け持ち、その達成難易度によりランク分けされていた。

 G、F、E、D、C、B、A、Sとランク分けされており、功績を積み上げる事で昇級が出来る。

 B以上のランクに上がれば民間資格を超えて、国家資格以上の効力を発揮するようだ。

 主にその特典として、関所における税の無料化。

 立ち入り禁止区域の制限解除。

 情報取得の制限解除などが含まれている。


「ここが冒険者ギルドか...何だかワクワクして来たな!」


 目の前の建物は木造二階建て。

 扉を開ければ、直ぐに広いホールがあり奥に横並びの受付があった。

 壁際には掲示板が設置してあり、その掲示板からランク分けされた依頼書を持ち出し、受付で受理して貰うみたいだ。


「屈強な冒険者達...乱雑に貼り出された依頼書...これが、冒険者ギルド!」


 冒険者ギルドの中は、様々な冒険者達で溢れていた。

 皆が皆、強そうに見える。

 ああ、「僕も早く、ああなりたい!」と心が躍動した。


「早く受付をしなくちゃ!」


 感情が昂っているが、先ずは受付で冒険者登録をしなければならない。

 それをしない事には何も始まらないからだ。

 僕は空いている受付を探して、ギルド職員へと話し掛けた。


「ようこそ冒険者ギルドへおいで下さいました。本日は冒険者の登録でしょうか?」


[YES/NO]


(もちろん!)


[YES]を選択。


「かしこまりました。それでは、冒険者登録を行います。こちらの用紙に基本情報の記入お願い致します」


 差し出された用紙とペン。

 たが、それらは普通の道具では無かった。


(黒い紙?...このペンで記入すれば良いのかな?)


 用紙の項目には、名前、種族、職業と書かれており、僕の情報をその空欄へと記入するみたいだ。

 黒い用紙のそれぞれの項目に、ルシフェル、天使、魔法使いと記入した。

 ちなみに、ペンで書いた文字は白く浮き上がった。

 これ、日本語だけど大丈夫なのかな?


「...確認致しました。では、こちらに左手をかざして下さい」

(良かった。日本語でも大丈夫だったみたいだ。ええっと、左手をかざす?)


 記入用紙の下部には魔法陣が描かれていた。

 職員はその魔法陣を指差しながら、僕にそう伝えた。


(魔法陣...複雑な模様だな...)


 僕は言われた通り、魔法陣に左手をかざす。

 すると、その瞬間。

 身体の中に存在する得体の知れない何かが、勝手に抜けて行く事を感じた。

 どうやらその抜けて行く力が魔力と言うもの。

 感覚としては、採血をされた時に脱力してしまう感覚に似ていた。


(これが...魔力?)


 魔法陣に僕の魔力が満たされた時。

 突如、魔法陣から魔法文字が浮かび上がっていった。

 その魔法文字は記入用紙(黒い用紙)を対象に、周りを球状に包み込んで行った。

 そして、魔法文字が光り始めた。

 すると、僕が記入用紙に書いた文字が宙に浮かび上がった。

 その文字はグルグルと回転しながら縮小して行き、用紙ごと手の平サイズのカードへと変化して行く。

 その変化が終わるタイミングで、ギルド職員が僕に話し掛けて来た。


「冒険者における規約、注意事項はご存知ですか?」


[YES/NO]


(冒険者じたい初めてだから、まだ何も解らないよ)


[NO]を選択。


「かしこまりました。では、説明させて頂きます。お客様が冒険者登録を行い、登録が完了しますと、お客様は冒険者として、当冒険者ギルドでサービスを受ける事が出来ます」


 サービス?

 それは一体何があるんだろう?

 僕は職員の話に耳を傾けた。

 

「ユグドラシルにおける全ての冒険者ギルドにおいて、仕事の仲介、報酬の受け渡し、素材の買取り、貨幣の両替、これらのサービスを行っています」


 職員が身振り手振りで解り易いように説明をしてくれる。

 ミズガルズ世界だけで無く、他の八つの世界でも共通なのだと。


「仕事の仲介は、個人、ギルド、国から請負っております。その依頼内容により冒険者ギルドの裁定で難易度を決め、各ランクへと振り分けられております。報酬の受け渡しは、依頼達成時に成功報酬として、もし失敗した場合は違約金として、報酬金額の二倍を徴収させて頂きます。依頼には期限も定められていますので、期限を過ぎた場合も、失敗扱いとなります。尚、失敗が続くようでしたら冒険者資格は剥奪されますので、依頼を受ける際は慎重に、自己責任でお願い致します」


 職員は次に受付と違う場所のカウンターを指差した。

 そこには『買取り所』と書かれている場所。

 他の受付よりも少し広めのカウンターとなっており、その裏には扉があって違う部屋と直接繋がっているようだ。


「あちらの買取り所で、ギルド管轄で素材の買取りを行っております。この素材の買取りは、身分証をお持ちの方だけ行えます。各支部、各国ごとで素材の相場は変わりますが、情勢を考慮した適正な価格で買取りをさせて頂いております。その際、素材の品質により、金額の上乗せ、減額がありますので注意下さいませ」


 そして、買取り所の反対側にある方へと指差した。

 今度は『両替所』と書かれた受付だ。

 その受付の裏手には厳重な鍵付の金属の扉が付けられていた。

 どうやら、部屋自体も木造では無く、金属で出来た部屋のようだ。


「あちらが、両替所となります。世界各地の貨幣と両替を行うことが出来ます。国により硬貨の名称は変わり、この国ではお金をガルドで表します。最少硬貨が石貨になり、1枚1ガルドになります。石貨10枚で銅貨となり、そこから10枚毎に、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、白金貨と上がっていきます。硬貨はそれぞれ金属の含有量が定められていまして、それに応じた金額になります。硬貨は魔法による偽造の判別が出来ますので、偽造硬貨を使用した場合は犯罪奴隷になり、人権が無くなりますので注意下さいませ」


 手持ちの資金は10万ガルドあり、金貨1枚分。

 説明を聞いたおかけで硬貨の価値は解ったけど、このゲーム世界に奴隷制度がある事に驚いた。

 まあ、普通にゲームを楽しんでいれば問題無い事だろうけど、一応心に留めて気を付けておこう。


「これらが、基本サービスになります。続いて冒険者における注意事項です。冒険者はカードにおいて情報の登録を行います。カード自体が本人の身分証明になりますが、管理は自己責任となります。紛失した際は再登録出来ますが、ランクは一番下からのやり直しになります。その際、罰金も発生しますので管理は自己責任でしっかりとお願い致します」


(これは保管の仕方に注意が必要だな。失くしたり、落としたりする事は無いだろうけど、盗まれることも考えといたほうが良いかもな)


「冒険者は身分証明の証として、依頼を請け負う義務が生じます。冒険者には有効期限が定められており、半年間成功報酬を達成していない場合は、冒険者資格の剥奪があります。冒険者にはランクが分かれ、一番下からG、F、E、D、C、B、A、Sと上がっていきます。昇格、降格には条件があり、条件を達成した場合に選択、もしくは、違反した際に強制的に降格となります」


(有効期限があるなら盗まれても大丈夫なのかな?まあ細かく設定もされているし、条件もしっかりしているから大丈夫なんだろうけど...どうなんだろう?)


「依頼を受ける際は特別な依頼を除いて、自分のランクからひとつ上のランクまで受ける事が出来ます。但し、失敗した際は違約金の発生に、同ランクにおいて三回失敗すると、ランクの降格がございます。先程も伝えましたが、違約金は報酬の二倍の金額になり、完全自己責任になりますので依頼を受ける際は注意をお願い致します」


(やっぱりペナルティはあるよね。...設定もシビアだから依頼は慎重に受けないと)


「冒険者には禁止事項があります。当たり前ですが、各国の法令に違反する行為。他者の依頼を妨害する行為。ギルドの品位を貶める行為。があります。禁止事項が破られた場合、冒険者資格の剥奪に、罰金の支払いがあります」


(この辺は当たり前か)


「ギルドに申し出があれば、冒険者の引退が出来ます。その際、身分証となる冒険者カードも失効になりますので注意をお願い致します。再登録も可能となりますが、例外なく、ランクはGからとなります」


(ストーリー上引退出来無いと思うけど、冒険者辞めた場合って生産系に転職とかなのかな?まあ、僕には関係無い事か)


「以上が、注意事項になります。冒険者カードにも記載がありますので、魔力を流すことでいつでも閲覧出来ます。解らなくなった場合は私達職員に聞くか、そちらでご確認下さいませ。それでは、お待たせ致しました。こちらが冒険者カードになります。失くさないように気をつけて下さい」


 そうして冒険者カードを職員から受け取った。


(おお!これが冒険者カードか!)


 冒険者カードは白い長方形の板で丁度手に収まる大きさだ。

 職員の説明によるとランクが上がるごとにカードの素材も色も変わるみたいだ。


「じゃあ、登録も終わったところだし、ランク上げや魂位上げを始めるかな!」

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